第15話
何で、木刀が葛城ノ剣に変わったのか?
何で、あのクソ野郎の声が聞こえたのか?
何で、クソ野郎の技というか能力だった攻撃を無効化する光を放てたのか?
いくらでも疑問は湧いてくるが、そんな中で俺は葛城ノ剣となった木刀を持つ手の自由を指先を動かす事で確認できたため、葛城ノ剣となった木刀を放り投げた。
そして音と色のない世界に入った状態になり全力の手刀を繰り出す。
バキンッ‼︎
さっきの光と同じで何かの反撃があるかもしれないという予想は外れ、葛城ノ剣になった木刀はあっさりと真っ二つに折れて消えた。
しかし……。
『下策を繰り返すのは愚者の行為だ。ましてや貴様は頭で無駄な行為だと理解しているからなおさらだ』
『黙れ。今度こそ消すぞ』
『ふむ、では来るが良い』
『俺に負けた奴が偉そうに上から言ってんじゃねえよ。首を洗って待ってろ』
クソ野郎の声が聞こえなくなり音と色のない世界を解除すると、すぐに流々原先生とシスティーゾ達が近寄ってくる。
「つ、鶴見君、何かわかったかしら?」
「少しはな」
「その顔は心底気に入らない事が起こったという感じか? 俺達に説明できそうか?」
流々原先生は俺の一挙手一投足を警戒していたが、システィーゾは何のためらいもなく聞いてきた。
イラついている今の俺には、その方がありがたい。
「とりあえずクソ野郎との因縁は、まだ終わってなかったらしいこれから叩き潰してくる。そのついでに理由も調べてくるつもりだ。流々原先生、部屋に戻るな」
「どうするつもり?」
「とりあえず奥底に潜って、そこでクソ野郎をボコボコに痛めつけるか叩っ斬るつもりだ」
「…………いろんな意味を込めて聞くけれど、無事に済みそうなの?」
「負けるつもりは一切無いし、秋臣は絶対に守る。そのために集中したいから部屋に戻るぞ」
「わかったわ。とにかく気をつけるのよ」
俺は説明をしてほしそうな禅芭高校の連中を無視して部屋に戻り壁を背にして座った後、目を閉じた。
◆◆◆◆◆
何の問題もなく奥底へやってこれた。
クソ野郎からの攻撃を警戒しつつ俺自身や周りを探ってみるが、目に見える異常や違和感はない。
『先制攻撃の出迎えはないか。…………まずは秋臣の無事を確認するのが先だな』
全速力で走り秋臣のいる場所へ向かうと、すぐに眠っている秋臣を確認できてホッとしたが秋臣のそばに立っている存在に気づき木刀を出現させる。
『ほう、それが貴様の本当の姿というわけか』
『…………』
『すでに臨戦体勢のようだが、あえて忠告してやろう。我に貴様と戦う気はないから無駄な事は止めて、こっちに来い』
『あ?』
クソ野郎は言うだけ言うと俺から視線を外して秋臣の隣に座った。
何だ?
俺が見ている奴は本当にクソ野郎なのか?
石の舞台で戦った時とはまるで違う言動に俺が困惑していたら、クソ野郎は再び俺を見てきたため今度こそ開戦かと思い構えて威圧する。
『止めよ』
『は?』
俺はクソ野郎のとった行動を見て完全に混乱してしまった。
なぜならクソ野郎が秋臣へ手をかざして光を放ち、秋臣を光で包んだからだ。
秋臣を守るために攻撃を無効化する光を使った……?
『てめえ、どういうつもりだ?』
『今の消耗している主人に貴様の威圧は毒だから守っただけだが?』
『主人だと?』
『この場に我が存在できるのも主人のおかげ。ならば身の程を弁えて主人を守るのは当然だろう?』
『…………お前、本当に葛城ノ剣か?』
『この葛城ノ剣たる我を疑うなど不敬の極みだな』
『…………』
確かに俺と戦ったあのクソ野郎と重なる部分はあるが、それ以上に乖離してるところの方も多いためどうしても警戒を解けない。
そんな俺を見て葛城ノ剣らしき奴は苦笑していた。
『くく、貴様が今の我に違和感を感じるのも無理はない。その辺りの事を説明してやるから、威圧を解きこっちに来て座れ』
『………………………………わかった』
『いくらなんでも悩みすぎだろう』
『お前が怪しすぎるんだよ』
『くはははははは、まったく否定できんな』
俺は本当にこいつは葛城ノ剣なのか確証を持てなかったが俺の目の前にいるこいつの話を聞くと決めたので威圧を止めて近づいていき秋臣を挟んだ対面に座った。
『態度や表情が怪しい動きをすれば斬ると言っておる。素直な奴だ』
『秋臣の安全を脅かしかねないお前相手に隠す方が変だろ?』
『……まあ、話が進むなら、それで構わん』
いっさい警戒は解いていない俺を見て、こいつは若干呆れているらしい。
石の舞台で戦った時も心底気に入らなかったが、今のこいつもイラつくな。
何で俺が言う事を聞かない子供のような反応をされないといけない?
やっぱり怪しすぎるこいつを今すぐ斬るべきかと迷っていたら、こいつは秋臣の隣に座ったまま俺に無防備な状態を変わらずさらしていた。
『さて、まずは我の現状の説明からするとしようか。結論を言うぞ? 今の我は主人の異能力で再現された葛城ノ剣の影のようなものだ』
『秋臣の異能力だと? 秋臣の異能力は触った事のある武器を生み出すもののはず。お前の意識を再現できるのはおかしいだろ』
『貴様のその認識は主人の異能力のごく表層にすぎん。おそらく主人の本来の等級は少なく見積もっても魔導級だな』
『バカな……』
『今ここに我がいるのが何よりの証明だぞ?』
『…………それが本当なら秋臣が俺にも隠してたってのか?』
『いや、主人は無意識に自分の異能力に制限をかけているためだな』
『続けろ』
『貴様にも覚えがあるはず。主人は争い事に向かない性格で、戦う事を恐れている』
『そうだな』
『そして自分が戦いのための異能力を持っているのも怖いのだろう。無意識に恐怖の対象である自分の異能力を弱らせ封じ込め、結果として触った事のある武器という器のみを再現する異能力になった』
…………気に入らないが、こいつの話には納得できてしまう。
『それなら、何でお前は再現されたんだ? 秋臣は自分の異能力を制限しているんだろ?』
『それはある意味で貴様のおかげでもある』
『あ?』
『いちいち殺気を放って話の腰を折るな』
こいつに正論を言われるのは腹が立つが、少しでも情報を得たいのも事実。
…………仕方ない。
『チッ、それでどういう事だ?』
『単純な事だ。貴様が我の刃から主人の魂を切り離した時、主人の魂の表面に我の刃を毛筋ほど残しただろう?』
『そうだな』
『あの髪の毛ほどの我の欠片が主人の魂に取り込まれ、主人の魂の深層に眠っていた主人の真の異能力に触れたのだ』
『そういう事か……』
『先ほど言った『この場に我が存在できるのも主人のおかげ。ならば身の程を弁えて主人を守るのは当然だろう?』の意味がわかったようだな。我は我という存在を守るためにも主人を守るつもりだ。この言葉に嘘偽りはいっさいない』
こいつの言動、態度、気配の全てから本気だと言っているのがわかる。
今すぐ警戒を解くのは難しいが、秋臣を守るための戦力が増えたと考えるのは有りか。
『それなら答えろ。お前はどこまで再現されている? 俺が石の舞台で戦った時の状態か?』
『さすがにそこまでではないな。主人の魂に取り込まれた量が少なかったためか、力の総量は十分の一ほど。光と衝撃波は一日数発放つのが限界だ』
『その程度なら俺には必要ない。秋臣を守る事に専念しろ』
『貴様に言われずとも主人を守るに決まっている。それよりもだ。今日のようなくだらない下策で主人の身体を損なう事があれば、我が貴様を消す。この事を覚えておけ』
『それはこっちのセリフだ。いいか、お前は俺が秋臣を守るために役に立つと判断したから存在できている事を忘れるな』
『『ふん』』
こうして秋臣を守るという一点のみ繋がった敵のような新たな戦力が加わった。
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