第14話
ひたすらに流々原先生の攻撃を避けている中で攻め手を加えてくる。
流々原先生は時間経過とともに乾坤圏を増やしていき、最終的に乾坤圏の数が十まで増えた。
普通なら攻めの密度の上昇に対応しきれなくなるところだが、事前に乾坤圏が四つの時点でまだ上があると覚悟していたから特に問題はない。
むしろ流々原先生の攻撃の激しさにより、前の世界の戦場での周りを敵に囲まれ頭上からは矢が降ってくるという状況を思い出して少しだけだが懐かしくなってしまったほどだ。
「鶴見君」
「何、です、か?」
「私の攻撃は退屈かしら?」
「なぜ、そんな、事を?」
「鶴見君から私の攻撃に対する戦意が伝わってこないからよ」
俺は下手な言葉よりも動作で見せるべきだと判断し、俺へと向かってくる全ての乾坤圏を叩き落として流々原先生を威圧した。
「流々原先生の攻撃で昔を思い出して少し懐かしくなってしまいました。戦いの最中に意識をそらした事を心よりお詫びします。すみません」
「仕切り直しで良いのよね?」
「もちろんです」
俺の言葉を聞いた流々原先生は再び乾坤圏を俺の周りに滞空させ先生自身も構える。
そして、あとほんの少しのきっかけで俺と流々原先生の戦いが再開されるという時に、それは起こった。
ゴウッ‼︎ ボンッ‼︎
炎が俺の足もとまで疾ってきて滞空している乾坤圏もろとも燃やし尽くす勢いの火柱が吹き上がった。
俺は瞬時に反応して火柱が上がる前に流々原先生を抱えた状態で跳び退き、その火柱を見ているわけだがこの場だとここまで強力な炎を生み出せるのは一人しかいない。
「システィーゾ、どういうつもりです?」
「何がだ?」
「僕と流々原先生の戦いに横槍を入れるのはおかしいと思いますし、今の攻撃は流々原先生も巻き込みかねないものでした」
「その先生なら俺の炎で焼かれるほど軟じゃないだろ」
「それは僕もそう思いますが……、いえ、それなら横槍を入れた理由は?」
「理由は私が答えるわ。でも、その前に鶴見君、降ろしてくれる?」
「わかりました」
流々原先生は地面に立つとシスティーゾの方へ歩いていき、システィーゾと並ぶ位置で俺の方へ振り返った。
「まず、お礼を言っておくわね。鶴見君、私を守ってくれてありがとう」
「いえ、とっさに身体が動いただけなので気にしないでください。それでシスティーゾの理由というのは?」
「私じゃ鶴見君に勝てないから鶴見君対私の戦いを鶴見君対私達に切り替えてくれた、よね?」
「そういう事だ。鈴 麗華、荒幡 桜、いけるか?」
「私は問題ないわ。でも……」
「私も大丈夫です」
システィーゾがチラッと後ろを見ながら言うと、そこには鈴 麗華と荒幡 桜が歩いて来ていた。
荒幡 桜はしっかりとした足取りをしており血色も戻っているな。
もともと鈴 麗華の氷と雪にさらされていた時間が短かったのもあるとは思うが、それでも荒幡 桜の体調が良くなっているのは流々原先生の腕の良さなんだろう。
それにしても……。
「戦う相手がシスティーゾ達と流々原先生ですか。ワクワクし」
ズズ……。
「うん? 鶴見、どうした?」
「いえ、何でもありませんよ」
「……そうなのか?」
「はい」
今、一瞬ではあっても確かに俺が秋臣の異能力で生み出した黒い木刀にノイズのようなものが起こった。
ノイズの起こった部分を不自然にならない動作で触ってみたが特に異常はないため誤魔化したものの、システィーゾの目線は木刀に向いているから俺に何かが起きたと察知したらしい。
俺にはこの変化が良いものかどうか判断がつかないとはいえ、俺の身近で生じた変化は報告しておかないまずいよな。
よし、一度誤魔化したから気まずいが、とりあえず報告しておこう…………って、遅かったか。
ズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズ。
次の瞬間、俺が持っている木刀が完全にノイズに覆われた。
「鶴見‼︎」
「「「鶴見君‼︎」」」
「何が起きるかわかりません。システィーゾ、鈴先輩、全力の攻撃を準備してください」
「木刀を解除しなさい‼︎」
「そうしたいとは思っているのですが、木刀を消せないので無理です。全員、離れてください」
「だったら俺が‼︎」
「私の氷の方が適任よ‼︎」
「近づくな‼︎」
時間が経つごとにノイズは激しくなっていく中、システィーゾと鈴 麗華が近づいてこようとしたため全力で殺気を放ち足止めをした後、流々原先生を見た。
「…………鈴さん、システィーゾ君、攻撃準備を」
「な‼︎ 鶴見を見捨てる気か⁉︎」
「落ち着きなさい。あくまで準備よ。あなた達が異常にさらされている鶴見君よりもうろたえてどうするの」
「う……」
ああ、やっぱり流々原先生は頼りになる。
いくらシスティーゾ達が強力な異能力者だとしても、突発的な異変に対応できるかといえば別の話だからな。
この場に流々原先生みたいな経験豊富な指揮官がいてくれて良かった。
「流々原先生、今わかっている事を報告します」
「聞かせてちょうだい」
「僕の意識は正常で、身体も木刀を手放せない事以外は正常です。木刀に関してですが、先ほど言った通り僕の制御を受け付けません。何というか……、別の要因で無理矢理変わっている途中という感じですね」
「そう……」
流々原先生は俺の報告から少しでも手がかりがつかめないか必死に考えているようだが、俺の感覚ではほとんど時間は残されてない。
…………はあ、仕方がない。
全く気は進まないけれど、やるしかないから提案しておこう。
「流々原先生」
「何かしら⁉︎」
「切り離された腕の接合は可能ですか?」
「え……?」
「本当は、この身体を傷つけたくありません。でも、残された時間は少ないので一番単純な解決方法を取りたいんです。できますか?」
「…………接合手術は可能よ。もちろんリハビリは必要になるけれど……」
「良かった。それなら自分で今から腕を斬りますね」
「待ちなさい‼︎」
「そろそろ時間切れなんですが……」
「クッ……、わかったわ。私が鶴見君の腕を斬るから。仙法、外気錬成、乾坤圏」
流々原先生が斬りやすいよう腕を伸ばしながら観察すると、新たにできた乾坤圏は俺と戦った時のものより薄かった。
あの薄さで乾坤圏の移動速度なら問題なく斬れそうだな。
「システィーゾ君、炎の準備は良い?」
「大丈夫だ。何だろうと燃やし尽くしてやるよ」
「それじゃあ私の乾坤圏の後に続いてちょうだい。鶴見君は腕が斬れたら離れて」
「わかりました。とりあえずの止血は荒幡先輩にお願いしても?」
「大丈夫です。任せてください」
「想定外の何かは私が全力で封じ込めるわ」
俺を含めた全員がうなずき、禅芭高校の奴らも固唾を呑んで見ている。
秋臣が表に出てこれるまで秋臣の身体を守ると決めてたのに傷つけるという選択しか取れない現状にかなり萎えつつも、木刀を覆っているノイズがさらに激しくなってきたため頭を切り替える。
流々原先生の真剣さも増したから、そろそろのようだ。
「システィーゾ君‼︎ 疾れ乾坤圏‼︎」
「わかってる‼︎ いけ‼︎」
「スー……、ハー……、スー……、ハー……」
俺の上腕辺りを狙った最速の乾坤圏と、切り離された腕を燃やし尽くすための炎弾が迫ってくる。
落ち着いて音と色のない世界に入ると全てがよく見えた。
回転している乾坤圏、炎弾の熱気で歪んでいる大気、それと激しさを増していくノイズ。
…………うん? 待て、何で音と色のない世界でもノイズが激しく動いている。
このノイズは俺の感覚外のものだから、ゆっくりに見えないとおかしいんだぞ……?
俺が唖然としていると、音と色のない世界で激しさを増し完全に木刀と俺の手首から先を覆い尽くしたノイズが突然止まった。
この先の展開を予想できず対応に迷っていたら、ある事に気づく。
「…………このノイズの微かな隙間から漏れている光は何だ?」
俺のつかんでいたものは秋臣の異能力で生み出されたものとは言え、ただの木刀だ。
その木刀がノイズに覆われるとか光を発するとか、いろいろおかしいだろとイラついている間にも光はノイズの別の隙間からもどんどん漏れてくる。
本当に時間がないとわかり覚悟を決めた俺は、自分の腕を自分の手刀で斬り落とす事に決めた。
『そのような下策をさせるわけにはいかぬ』
「は? ぐはっ⁉︎」
まさに俺が手刀を放とうとした瞬間、聞き覚えのある声が聞こえてからカッと光が強く放たれ、俺の身体は吹き飛ばされる。
◆◆◆◆◆
おそらく数瞬だと思うが光の衝撃で気絶していたらしいな。
しかも俺のいる場所はさっきまで立っていた場所からかなり移動していた。
やっぱり、あの衝撃は本物だったんだな……というか、流々原先生の乾坤圏とシスティーゾの炎弾はどうなった?
二つが迫ってきていた方を見たら、そちらには呆然としている流々原先生達がいるだけで乾坤圏と炎弾の影も形もない。
周りを確認しても乾坤圏と炎弾の破壊痕はない。
乾坤圏と炎弾だけが無効化されたのか?
…………ちょっと待て、さっき聞こえた声に攻撃を無効化する光だと?
俺はある考えが頭をよぎり急いで手もとを見ると、手には持っていたはずの木刀はなく葛城ノ剣が握られていた。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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