第13話
ゴウッ‼︎
バキバキッ‼︎
ヒュン、バシンッ‼︎
俺を目掛けて炎と氷が殺到して、その隙間を縫うように無数に枝分かれしたムチも俺を捕らえるか打とうと狙ってくる。
なぜ俺が、かなり激しい状況にいるかと言えば、丸一日休んだ俺は身体をほぐすためぜんは高校の広場の一角を借りて木刀を振っていると、そこにシスティーゾが加わり、さらに少ししてから鈴 麗華も参戦し、最後には荒幡 桜も入ってきた。
まあ、一人で動くよりも相手がいた方が張り合いも出て良いから俺対システィーゾ、俺対鈴 麗華、俺対荒幡 桜と一対一を数回繰り返していたら、いつのまにか俺対三人の構図ができていて今に至るという感じだ。
ちなみに音と色のない世界には入っておらず、純粋な技量と体力で三人の攻撃に対応している。
「鶴見、良い加減に当たれ‼︎」
「それは、でき、ない、相談、です、ね‼︎」
「だったら、これならどう⁉︎」
鈴 麗華が気合の入った声を出すと、辺り一面の風景が氷と雪に侵食されていく。
「…………鈴先輩、模擬戦でここまでしなくても良いのでは? あとシスティーゾはともかく荒幡先輩が巻き込まれています」
「え? あ‼︎」
おそらく俺の機動力を制限するためにやった事なんだろうが、炎で身体を守れるシスティーゾと違い荒幡 桜は言ってしまえば特殊なムチを生み出せる以外は普通の人と変わらないため、不意に鈴 麗華の氷に足を取られ雪で身体が冷やされ始めていた。
「シ、システィーゾ君‼︎」
「今やる‼︎ というか、サッサと氷と雪を解除しろ‼︎」
「わかってるわよ‼︎」
システィーゾは急いで荒幡 桜に近づき火力を調整した炎で荒幡 桜の身体を包み温め、鈴 麗華は勢いで侵食させていた氷と雪の解除に集中する。
ああ、やっぱり自分で生み出したものでも解除には時間がかかるんだな。
…………うん?
「仙法、内功活性」
「「あ」」
いつの間にか荒幡 桜のそばにいた流々原先生が掌を当ててつぶやくと、荒幡 桜の身体がぼんやりと光り血色が良くなっていく。
「ふう、これで大丈夫。それにしても鈴さん、さすがに不注意すぎたわね」
「すみません……」
「私じゃなく、後で荒幡さんに謝りなさい。少しの間、荒幡さんの看護をお願いね」
「わかりました……」
荒幡 桜を運ぶ鈴 麗華を見送った後、流々原先生はシスティーゾの方を向いた。
「システィーゾ君、能力の制御が上手くなっていて驚いたわ」
「俺も遊んでるわけじゃねえよ」
「そうね」
「だけど……」
システィーゾは俺を見てくるが、その顔は歯を食いしばり悔しさをにじませている。
言うほど悪い動きはしてなかったと思うんだがな。
「鶴見君、体調は良いみたいね」
「はい、良い感じに休めました」
「それなら今度は私と模擬戦をしましょうか」
「はい? どういう意味ですか?」
「こういう事、よ‼︎」
気がつくと流々原先生の拳が俺の目の前に迫っていたため、俺は少し慌てて首を傾け流々原先生の拳を避けた。
「私のやりたい事をわかってくれたかしら?」
「…………そうですね。よくわかりました」
「それじゃあ続きといくわね‼︎」
その言葉を境に流々原先生の打撃が雨あられとばかりに飛んできた。
逆の拳での突きは反対側に首を傾けて避ける。
顎を狙った蹴り上げは上半身をそらせて避ける。
こめかみを狙った肘はしゃがんで避ける。
強力な一撃へ繋ぐための足払いは後ろへ跳び避ける。
「すごいですね。これだけ多彩な攻撃を、ほとんど密着した状態で繰り出してくるとは思いませんでした」
「それを当たり前のように避けながら言われると嫌味と取られるわよ?」
「本気を出していない方が嫌味じゃないですか?」
お、流々原先生の眉がピクッと動いたから俺の予想は当たったらしい。
「どうしてそう思ったか聞いても良いかしら?」
「別に確証があったわけじゃないです。ただ……」
「ただ?」
「流々原先生が攻撃用の技を持っていないはずはないと思いました」
「…………そう、わかったわ」
俺の発言を聞いた後、流々原先生は目を閉じて自然体になる。
見た感じは俺が音と色のない世界に入る時と同じだが、何をするつもりだ?
「スゥ……、ハァ……、スゥ……、ハァ……、スゥ……、ハァ……。鶴見君、いくわよ? 仙法、外気錬成、乾坤圏」
流々原先生が両掌を上に向けてつぶやくと、掌の上に光が集まり二つの輪ができた。
「それが流々原先生の本気ですか……?」
「体験してみたらわかるわよ。飛べ、乾坤圏‼︎」
二つの輪が俺を目掛けて高速で飛んでくる。
…………かなりの速さなのは確かだが、これくらいならどうにでもなるなと思い俺は木刀で叩っ斬ろうとした。
しかし、二つの輪、乾坤圏は俺の目の前で直角に曲がって上昇した後、鋭角に曲がり俺の頭部を狙う軌道となる。
「おお、っと‼︎」
「鶴見君、その乾坤圏は止まらないわよ?」
「は? うわっ‼︎」
俺は瞬時に距離を取り乾坤圏の軌道から逃れたが、流々原先生の言う通り乾坤圏は地面に激突する事なく俺の方へ軌道修正をしてきた。
流々原先生が操作している様子はない。
「この、速さで、自動追、尾ですか……」
「そうよ。それと二つで終わりじゃないわよ?」
「まさか?」
「ええ、そのまさかね。仙法、外気錬成、乾坤圏」
二つの乾坤圏を避けながら流々原先生を見ると、再び両掌の上に乾坤圏を作り上げていた。
当然、新しい二つも俺を目掛けて飛んでくる。
…………まあ、いくら四つの乾坤圏が複雑な軌道で俺の頭部を狙ってくるとは言え、避けるだけなら別に問題はない。
ただし、そこに流々原先生が加わったら話は違う。
「さあ、私の本気をどう捌くか見せてちょうだい‼︎」
さっきよりも数段激しい打撃と四つの乾坤圏で攻め立てるのが、流々原先生の本気なのか?
…………いや、まだ上があると思っておくべきで、他の奴らもまだまだやる気なはず。
俺は内心の高ぶりを抑えつつ、迎撃をせず流々原先生の打撃と乾坤圏の嵐を、ひたすら避ける事にした。
ズズ……。
うん? 何か木刀に違和感があったような……?
「どうしたのかしら? よそ見できる暇を与えるつもりはないんだけど⁉︎」
「あ、いえ、何で、もない、です。すみ、ません」
…………木刀の違和感は気になると言えば気になるが、今は目の前の流々原先生に集中するとしよう。
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