第12話
本話が今年最後の更新となります。
来年も引き続き更新していくので読んでもらえると嬉しいです。
ひとしきり泣いた後に聖域を出たところで早蕨 一心斎が待っていて俺に身体を休める事を勧めてきたため、今の俺は禅芭高校内の宿舎の一室にいる。
はっきり言えば俺がこれ以上厄介事を起こさないように軟禁されているようなものなのだが、俺としてはケンカを売られない限りは大人しくしているつもりのため、この処置はむしろ歓迎するべきだな。
◆◆◆◆◆
数時間が経ち、頭も冷えてきたため冷静に自分の行動を振り返ってみた結果、俺は寝転んだ状態で頭を抱えていた。
「やっちまった……」
原因はもちろん俺の聖域に攻め込みクソ野郎達と戦った事。
もし俺が元の俺の身体だったら俺個人の責任になるが、今の俺は秋臣の身体を借りている状態だから今の俺が引き起こした事は全て秋臣がやった事になってしまう。
つまり俺の秋臣を取り戻すための戦いだったものは、第三者から見れば単純に秋臣が突然暴れ出し禅芭高校の聖域に収蔵されていた厄介な貴重品を軒並み消滅させたとしか見られない。
「秋臣の立場が悪くなっちまう……」
くそ……、どうにかして秋臣の立場を良くしないとまずい。
「どうする? 逃げるしかないか……?」
「私達の前で物騒な発言はやめなさい」
「あ? …………ああ、いたのか」
「いるに決まってるだろ。なんせ、今の鶴見は最重要の監視対象だぞ」
「今、学園長が流々原先生の報告をもとに早蕨校長とやり取りをしているはずなので、どういう結論になるにしてもまずは落ち着いてください」
どうやら俺は考え事に夢中になりすぎて、システィーゾ達が部屋に入ってきた事に気づかなかったみたいだな。
「というか、よくお前らが俺の監視役になれたな。禅芭高校側から拒否されなかったのか?」
「鶴見の戦闘能力を見て怖気づいたらしい」
「それと禅芭高校側が、あまり厳しい態度になっていないのもあるわね」
「うん? 自分達の聖域で暴れられて収蔵品を壊されているのか?」
「前に早蕨校長が言っていたでしょ? あそこに収蔵されていたのは使い手を選んで災いを引き起こすような厄介品だったわ。今までできなかった処分ができて内心は嬉しいんじゃないかしら」
「それなら秋臣の立場も、そこまで悪くならないのか⁉︎」
俺が思わずガバッと起き上がり力んで聞くと、システィーゾ達は顔を見合わせた。
「どうした?」
「落ち着いて周りの気配を探ってみなさい」
「周り?」
鈴 麗華に言われて周囲の気配を探ると、俺達の部屋がある階にも、外から部屋を監視できる場所にも、なにかあってもすぐに駆けつけられる場所にも、禅芭高校の連中がいた。
ただ、いたのは良いんだが……。
「いくら何でも緊張しすぎだろ。過度な緊張は体力を消耗させる。あんなにピリついてると長時間の監視はキツいぞ」
「鶴見君の驚異的な戦闘力は警戒しているみたいね」
「秋臣を休ませたいからな、俺はケンカを売られない限り暴れる気はない」
「鶴見君がそう思っていても、禅芭高校側は警戒せざるおえないんですよ」
「そんなものか」
「はい」
「おい、鶴見」
「何だ? システィーゾ」
「今は本当に暴れるなよ?」
「自分から戦う気はないって言ったばかりだぞ? お前は俺の事ことを、どう思ってるんだ?」
「地形を変えるくらいの爆弾」
「不可避の自然災害かしら」
「私は暴れ出したら手に負えない怪物でしょうか」
「お前ら……」
三人の言い草にイラッとしていたら、数人の気配がこの部屋へ近づいているのに気づいた。
「この部屋に近づいて来る奴らがいる」
「誰だ?」
「この気配は流々原先生に早蕨 一心斎に千亀院 燈を始めとした禅芭高校の精鋭とかだな」
「「「…………」」」
一瞬にして空気が引き締まり、三人は俺と部屋の入り口の間に立ち塞がるように並ぶ。
そして、その状態で少し待つと部屋の扉をノックされたため返事をした。
部屋に流々原先生を先頭に全員が入ってきて一気に狭くなる。
さらに三人が禅芭高校の連中をにらんでいるため雰囲気も悪くなるが、そんな事はお構いなしに話を進めるためか流々原先生が俺の方を向いて笑いかけてきた。
「鶴見君、身体の調子はどうかしら?」
…………どういう返事をするか迷うところだな。
まあ、今更遅いかもしれんが禅芭高校の連中もいるわけだから秋臣として振る舞うか。
「ゆっくり休ませてもらったので、かなり良くなったと思います」
「そう、それは良かったわ」
「ええと、僕に何か用でしょうか?」
「そうなのよ。実はね……」
「そこからはわしが話そう」
「わかりました」
流々原先生は早蕨 一心斎の言葉に頷き一歩横にズレた。
「まずは、体調が良くなって何よりじゃな」
「ありがとうございます」
「そしてじゃ。鶴見秋臣殿、禅芭高校とその関係者を代表して貴殿に心より感謝を申し上げる。ありがとう」
早蕨 一心斎が深く頭を下げると千亀院 燈達も同じくらい頭を下げてくる。
「…………どういう事でしょう? 僕は、その、聖域で暴れたから礼を言われるのは違うと……」
「鶴見殿は、あのもの達を消滅させた。これは貴殿の協力のもとにした現場検証と、この数時間の間に行なった追加調査でも間違いない事が判明しておる。我らの悲願が達成された事への感謝じゃよ」
「悲願?」
「長い歴史の中で、あのもの達の使い手として選ばれたものにも選ばれなかったものにも多くの犠牲が出ておるからのう……」
なるほど、あいつらは本当に厄介品だったんだな。
まあ、今さら消滅したあいつらに興味はない。
俺が気になるのは……。
「それで僕の処分は、どうなるんですか? さすがに厄災をもたらすものとは言え、歴史的に貴重なものを壊して何も無しとはいかないと思うのですが……」
「もっとな意見じゃが、はっきり言えば監視継続という名の無罪放免じゃな」
「は?」
「この国の上層部でも聖域に収蔵されていたあのもの達の取扱いに頭を痛めておった。なんせ精霊級の異能力者と同等以上の存在がゴロゴロおって、いつあのもの達が暴走するかわからん状態じゃったからな。その事態を殲滅という形で終わらせた鶴見殿を下手に締め付けて敵に回したくないと考えたらしい。要監視対象として解放せよと、わしのところへ通達が来た」
「ええ……」
国に目をつけられたのはまずい。
どうする?
やっぱり秋臣の平穏のためには国外へ逃げるしかないのか?
グルグル考えていると、システィーゾと鈴 麗華が俺の方を向いた。
「鶴見」
「……何ですか? システィーゾ」
「この国に居づらくなったら、俺の国に行こうぜ」
「はい?」
「システィーゾ君、待ちなさい。もし鶴見君が、この国を出るなら行くべきなのは私の国よ」
「ああ?」
「何よ?」
にらみ合っているシスティーゾの身体から火の粉が、鈴 麗華の身体から雪が出始める。
俺はめんどくさい事態になる前に話を変える事にした。
「とりあえず、早蕨校長の説明で僕は今まで通りの生活を送れる可能性が高いというのはわかりました。それでさっきから気になっていたのですが、何で千亀院さん達がいるんです?」
「ふん、そんな事はわかりきってるだろ」
「そうね」
「そうですね」
「システィーゾ? 鈴先輩? 荒幡先輩?」
「お前らは鶴見と戦いたいんだよな?」
システィーゾが鈴 麗華とのにらみ合いをやめ千亀院 燈達をにらみながら言うと、千亀院 燈達は戦意を高めて無言の肯定をした。
げ、千亀院 燈達の態度にシスティーゾ達がイラつきだしている。
「お前ら表に出ろ。格の違いを見せてやる」
「当たり前に鶴見君と戦えると思っているところが気に入らないわ」
「少なくとも、そういう事は私達を倒してから言ってほしいですね」
システィーゾ達と千亀院 燈達は、それっきり何も話さず無言で外に出て行き少しすると外から激しい戦闘音が響き始めた。
「早蕨校長、禅芭高校の生徒達は元気が良いですね」
「いやいや、そちらの三人もじゃな」
「え? あれ? 良いんですか?」
「生徒のやる気が満ちている時に止めるのは無粋じゃよ」
「死なない限りは私が治すから大丈夫よ」
…………何か置いていかれた気分だが、今は秋臣を休めると決めているから俺もゆっくりするとしよう。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。
また「面白かった!」、「続きが気になる、読みたい!」、「今後どうなるのっ……!」と思ったら後書きの下の方にある入力欄からの感想・★での評価・イチオシレビューもお待ちしています。




