第11話
クソ野郎との戦いを終えた俺はゆっくりと歩いて、行きの倍以上の時間をかけ茶道具達と出会った広場に到着する。
俺としては足を止める必要もないため、さっさと通り抜けようとしたのだが周りを囲まれ足止めされてしまった。
俺を囲んでいる奴らの中で特に目を引くのは、普段より何倍も気配が強くなっている流々原先生だな。
まあ、治癒師とは言え、異能力者の通う吾郷学園に所属できるような人が戦えないという方がおかしいか。
ちなみにシスティーゾ、鈴 麗華、荒幡 桜の三人も、異能力を発現させいつでも戦える状態なわけだが、はっきり言って今はどうでも良い。
俺は秋臣を休ませるため音と色のない世界に入って囲みから抜けようとした。
しかし、そんな俺の考えに気づいたのか、システィーゾは炎で、鈴 麗華は氷で俺の周りに壁を作り、荒幡 桜は先が何本にも別れるムチを生み出し俺の手足に巻きつける。
どうあっても俺を逃す気はないようだなと呆れつつ、俺は荒幡 桜に顔を向けた。
「朝早くに動きすぎたので休みたいんです。通してくれませんか?」
「ダメです」
「僕に何か用があると?」
「その通りよ」
一応、禅芭高校の連中もいたから言葉づかいを秋臣風して荒幡 桜と話していた間に、いつのまにか流々原先生が荒幡 桜の横に立っていた。
流々原先生の接近に気づけないとは、やっぱりあのクソ野郎との戦いは神経をすり減らしたか。
とりあえず、さっさと休むためにも話を聞くとしよう。
「それで僕への用件とは?」
「あなたが今ここにいる事への説明を」
「あーー……」
…………禅芭高校の連中の前で、秋臣の事を話す必要はないな。
よし、ある程度誤魔化して説明しておくか。
「寝ていたら夢の中に国柱神社に収蔵されている葛城ノ剣が出てきたんです」
俺の言葉に禅芭高校の連中がざわついた。
「……それで?」
「少しだけやり取りをしたのですが、性根が腐っている奴だとわかったため斬りかかりました」
「確認なんだけれど、夢の中の話なのよね?」
「はい、そうです」
「そうなのね。話の腰を折ってごめんなさい。続けてちょうだい」
「わかりました。僕の斬撃は決まり葛城ノ剣を真っ二つにできたのですが、とどめを刺すには至らず逆に僕の半身とも言える大事なものを半分奪われました」
お、流々原先生達と茶道具達の気配が一瞬揺れたから俺の言っている事が秋臣だとわかったみたいだな。
「つまり、その大事なものを取り戻すために禅芭高校の聖域に攻め込んだと?」
「そうです」
「それならば今この場に鶴見君がいるという事は……?」
「葛城ノ剣を倒して無事に取り戻しました」
「ありえん‼︎」
俺が流々原先生の質問に答えていると、茶道具達の一人が声を荒げた。
手に持っている本体は…………茶碗か?
「貴様のような奴に、あの方が負けるわけがない‼︎ デタラメを抜かすな‼︎」
「それなら確かめたら良いと思いますが?」
「何⁉︎」
「せっかく動ける身体あるんですから奥の石の舞台まで行けば良い。もしくはここから大声で呼びかけるとかもできますね。お好きにどうぞ」
「く……」
茶碗は俺の言葉を聞いて黙ってしまう。
まあ、同族の気配を探る事はできるはずで、あのクソ野郎が負けたのもわかっているが受け入れられないというところだな。
そんな風に俺が納得していると別の奴が前に出た。
へえ、剛丸と同じ動く鎧か。
ただ剛丸より機動力を重視した作りみたいだな。
「……も」
「はい?」
「よくも、あの方を消滅させたな‼︎ 報いを受けさせてやる‼︎」
「何で怒っているんです?」
「何だと⁉︎ 我らの長を消されて抑えていられるはずがないだろうが‼︎」
「ふざけるな」
「ひ……」
あまりに一方的な言い方にキレた俺は、全力の殺気を放つ。
「この広場を一度に取った時に言ったはずだ。俺の大事な存在を傷つけて始めにケンカを売ってきたのはお前らの長なんだよ。売られたケンカを買って、売ってきた相手を消して何が悪い⁉︎」
「鶴見君、落ち着いて‼︎」
「お前も消す事に決めた」
「鶴見‼︎」
「「鶴見君‼︎」」
木刀で邪魔な炎も氷も鞭も斬り飛ばした後に茶道具達へ突撃しようとしたが、すでに振り向いた先には流々原先生が構えていた。
「一度しか言わない。どけ」
「生徒が暴力に走ろうとするのを止めるのが大人であり今回の任務の監督の私の役割なのよ」
「俺は周りに害しかもたらさないゴミとガラクタを片付けるだけだ。それのどこが暴力だ?」
「強者が感情で他者をねじ伏せるのは暴力以外の何者でもないわ」
「自分の大事な存在を傷つけられても我慢しろと?」
「そう……ね。酷だとは思うけれど、こらえてほしいわ」
俺は流々原先生を無視して手近な数体へ一瞬で接近し本体である器物を叩っ斬り俺の意思を示した。
「鶴見君、学園の規定に基づき、あなたを拘束するわ。鈴さん、荒幡さん、システィーゾ君、協力して‼︎」
「鶴見、止まれ‼︎」
「鶴見君、今ならまだ間に合うわ‼︎」
「これ以上はやり過ぎになります‼︎」
「お前らの何もかもが遅えよ」
流々原先生が俺に近づきし何かの技をかけようとして、システィーゾ達は俺へ向けてさっきよりも強力な異能力を当てようとしてくる。
だが、俺は音と色のない世界へ入り全ての攻撃を無視して茶道具達の間を駆け回り茶道具達の本体を斬り捨てていく。
◆◆◆◆◆
体感で数十秒かけて茶道具達を全て細切れにした後、音と色のない世界から通常の感覚に戻ると茶道具達は地面に落ちて本体もろとも粉々に風化していた。
…………何の感情もないな。
秋臣を傷つけられた事への憤りが少しは晴れるかと思ったが、俺の中にはモヤッとしたよくわからない感情しか残らない。
「鶴見‼︎ さすがにやりすぎだ‼︎」
システィーゾの声が聞こえて向くと、システィーゾは大量の炎を生み出しており今にも俺に向けて放とうとしていた。
秋臣の身体を俺が傷つけるわけにはいかないから、システィーゾの射線から跳び退き流々原先生の前へ移動する。
「気が済んだから拘束に応じる。どうすれば良い?」
「大人しくしてくれるなら、このまま私に着いてきてくれれば良いわ。…………でも、その前に一つ言わせてもらっても良いかしら?」
「何だ?」
「大事な存在を傷つけられて泣くほど悔しいのに、我慢させようとしてごめんなさい」
「は?」
流々原先生が俺を気の毒そうに言われ事が理解できずに呆けてしまったが、ふと自分の視界がにじんでいるのに気づく。
恐る恐る目元を触れてみたら濡れていた。
…………そうか、俺は悔しくて泣いているんだな。
前の世界の戦場では毎日を、一瞬一瞬を生き残る事しか考えられず悔しさというものを感じる暇も泣く暇もなかった。
しかし、今は秋臣が表に出てくるまで守るという確かな目標があったのに、あのクソ野郎から秋臣を守れなかった。
俺には秋臣を守るだけの力があったはずなのに守れなかった事が悔しい。
本当に自分で自分を叩き斬りたくなるほど悔しかった。
「お、れは、まも、れな、かった……」
「あなたの話を聞く限り夢の中での不意打ちだったんでしょう? そんな状況じゃ守れなくともおかしくないわ」
「それ、でも、俺は、まも、ると、決めていたんだ‼︎」
「鶴見君は葛城ノ剣を倒して大切な存在を取り戻したんだから、その点だけでも自分を認めてあげて。良いわね?」
「う、くぅ……」
一度自覚した感情の高ぶりを抑える事はできず、涙が後から後から流れ出てきた。
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