第6話
俺は俺に敵意を向けてくる全員を斬り捨てるため、集中して音と色のない世界へ入ろうとした。
しかし、濃い茶色の着物を着た爺さんが俺を指さす。
「小僧、待たんか‼︎」
「…………何だ?」
「お前は、わしらがなぜこのような事をしているのかに興味を持たんのか?」
「ああ、確か早蕨一心斎がお前らは使い手を求めているとか言っていたな」
「その通りじゃ。しかし、わしらがここに奉納されてから百年以上が経過しておるのに使い手が現れておらん事を疑問に思わんか?」
「どうでも良い」
「何じゃと?」
「俺はお前らに一切興味がない。お前らが使い手を選ぼうが消えようが壊れようが好きにしろ。ただ一つ、言う事があるとすれば、俺の邪魔をするなら斬る」
宣言とともに殺気をぶちまけると、半分以上……主に武具以外の奴らが顔を引き攣らせながら二、三歩退がった。
俺は死ぬ覚悟もできてない事に呆れて、これ以上は時間の無駄だなと判断した。
そして、さっさと斬り捨てようと木刀を構えたら異常に気付く。
出したままにしていたはずの木刀が手の中から消えていた。
そして何より再び木刀を出現させる事ができなくなっている。
「…………何をした?」
「ふふ、ふはははははは‼︎ 茶室で木刀などという無粋なもの使えるわけかなかろう‼︎」
「茶室だと? この広場がか?」
「わしら茶道に関わりのあるものが、ここを茶室と定めればそこが茶室になるんじゃよ‼︎」
「なるほど、お前らのルールを俺に押し付けたわけか……」
「頼みの綱であった武器が無くなったんじゃ、せいぜい逃げ回るが良い‼︎」
逃げ回る?
いったい何を言っているのかわからず、少し考えてしまう。
俺としては本当に少しだけ考えただけだったが、それを隙と見た一体が気配を消して俺の後ろへ回り込み背中を何かで刺そうとしてきた。
考え事をしていて反応が遅れた俺は、とっさに刺突を回転して避けつつ襲撃者に肘を叩き込む。
そして俺の肘の一撃を受けてグラついたのを目にした瞬間、前の世界の戦場での癖が出て襲撃者の首や後頭部などの急所へ連撃を加えた。
「げひゅ、あ……」
「悪い。だが、まあ不意打ちをしてきたからには、こうなる事も覚悟の上だろう?」
俺の打撃のせいで棒立ちになった奴に質問すると、何も答えずにバタリと倒れて身体が消えていく。
「…………本当にやりすぎたな。まあ、打撃でも倒せるとわかったから良しとしよう」
「小僧、どういう事じゃ⁉︎ 今の貴様は木刀を使えないはずだぞ⁉︎」
「いや、今の俺はどう見ても木刀を使わずに倒してただろ……」
「ならば、なぜ、そんな動きができる⁉︎」
叫ぶ爺さんだけでなく周りの奴らも同じような反応をしていた。
俺が木刀を使わずに戦った事の何が…………って、そういう事かよ。
「なるほどな。お前らは俺の戦い方を木刀に付随している能力か何かだと勘違いしたわけか」
「まさか、違うというのか……?」
「今のところの秋臣は器物級で、異能力は触った事のある武器を再現するもの。そして秋臣が再現できているのは、ただの黒い木刀だけだ」
「つ、つまり……」
「木刀で斬っているのも、高速で動いているのも、全て自前の技術だな」
「バカな……」
全員が俺の断言に愕然としていた。
…………いや、一体くらいは予想してろよ。
正直に言えば、素手は剣に比べるとそこまで得意というわけじゃないが、こいつらなら油断しなければ問題なさそうだ。
そろそろこの無駄な会話にも飽きたから始めるとしよう。
俺は集中して音と色のない世界へ入った。
◆◆◆◆◆
ある程度倒した後、俺はいったん集中を解き地面に転がっている奴らの本体をサッと数えてみる。
「…………五十体くらいは倒したか」
「ば、化け物め……」
「器物なのに身体を持っているお前らに言われたくないぞ」
「おのれ、わしらがこのような小僧に‼︎」
「これだけ仲間を倒されても叫ぶ気力があるのは大したものだな。まだ何か切り札でもあるのか?」
「…………」
「あるみたいだな。それなら、このまま一方的に負ける前に早く使った方が良いぞ?」
俺が再び集中しようとした時、覚えのある嫌な予感がしたため俺は後ろに跳んだ。
ズズズズズズズズズン。
「これは……」
「予兆などないはずの私の音色を、ここまで避けるとは……」
「乱節」
「どうも、先ほどぶりです」
「なぜ、お前が……チッ」
ドスンッ‼︎
空中から俺めがけて落ちてくる気配を感じて、さらに後ろへ跳んだ瞬間、そいつは俺がいた場所に着地し轟音と土煙を起こす。
「お前もか。剛丸」
「二度目は遅れを取らん‼︎」
煙が晴れ、視線が合うと剛丸は構えた。
俺は乱節と剛丸がいるなら他の奴らもと予想して警戒度を上げていたら、感覚が鈍くなり俺の周りに化け物達が現れる。
「梓と宙擦りも復活したわけか。お前ら四体は、すぐに動けるような軽傷じゃなかったはずだがな」
「何、簡単な事です。人に治すものがいるように、私達にも直すものがいるんですよ」
「なるほど、確かに修復用の器物の身体持ちがいてもおかしくないな」
「その通り。ですから、このように、ね」
乱節が促すように両手を広げると、俺が倒した奴らの身体が蘇り立ち上がった。
「私達は人などより、融通が効くんですよ。それで、どうしますか?」
「ふーん……」
復活して奴らを含めた全員が俺をニヤニヤ笑って見ている。
…………ああ、胸糞悪かった戦場の一つを思い出して頭の中が冷えていく。
何だ? 俺を見ている奴らの顔が引きつった。
「ひ……、何なんだ‼︎ お前は⁉︎」
「俺はな、秋臣を傷つけたあのクソ野郎以外は本当にどうでも良かったんだ」
「そ、それがどうした⁉︎」
「だが、お前らはあくまで俺の邪魔をする。よって俺は戦い方を変える」
「何?」
「次からはお前の本体を確実に壊す」
「ふざけ」
「お前らは本体が粉々になるとどうなるんだろうな?」
俺がそう言いながら一歩前に出ると、乱節達が退がる。
「どうした? 俺の邪魔をするんだろ?」
「あ、あなた一人だけで、できるわけが」
ガキュン‼︎
とりあえず手近な一体に接近して、そいつの本体を奪い地面に落とした後、踏み壊した。
「あ、あ……」
ほう、陶器製の筆置きみたいなものを壊したわけだが、俺が壊した瞬間そいつの身体はフッと消えた。
陶器の破片にも気配とか存在を感じない。
どうやら、こいつは死んだみたいだな。
「ふむ、なるほどな。お前らにもちゃんととどめをさせるようだ」
「あなた‼︎ あなたが今何をしたかわかっているのですか⁉︎」
「邪魔者を一体壊した。それがどうかしたか?」
「な……」
「お前らは理解してないようだから言っておく。戦いはな、命がけなんだよ」
「クソォ‼︎」
剛丸が雄叫びをあげながら俺に向かって走ってくるが無視して観察する。
「効率的に可能性を一つずつ潰していくなら、まず修復できる奴を始末するべきだな。つまり……お前だ」
「ひゅ……」
「…………ふざけた話だな。秋臣を死ぬかどうかの瀬戸際に追い込んだお前らが殺される事を全く考えていない。虫唾が走る」
乱節達はジリジリと動いて俺が狙う奴を守るような陣形になる。
「死にたくないなら自分も含めて全力で守れよ?」
「「「「「うおおお‼︎」」」」」
剛丸を始めとした武具の連中が俺に特攻をかけてきた。
俺はその様子を冷めた目で見つつ集中し音と色のない世界へ入ると、武具の連中の本体を叩き壊す。
そして、また修復者を見ると、そいつの顔から血の気が引いて青白くなっていた。
側から見ると会話をできる器物達をちゅうちょなく壊している俺の方が異常者なんだろうなと思いながら、次の手近な奴を壊そうとする。
『もう良い』
クソ野郎の声が辺りに響き、俺達は動きを止めた。
「なんだ。仲間が壊されるのに耐えられなくなったのか? 本当にふざけているな。ゴミが」
『…………お前達、そのものに道を開けよ』
「し、しかし‼︎」
『壊されてしまったもの達の復活に尽力せよ』
「は……、心得ました」
乱節が苦々しく思いながらうなずくと、他の奴らは左右に別れて道を開ける。
もう、こいつらは無視して良いな。
俺が走り出すと、乱節達が俺に向かって何かを叫んでいるみたいだが雑音として切り捨て先を急いだ。
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