第4話
俺は持っていた宙擦りを地面に置いてから三体を観察する。
ふむ、一体はこれぞ鎧武者という感じの男で、武器は…………目に見える範囲にはないな。
それなり体格も良いから鎧を使っての盾役か?
二体目は木製の横笛を持っている優男だ。
音での攻撃や俺の感覚を狂わせてくるのもあり得る。
三体目は豪華な着物を身につけた女で、はっきり言ってこいつが一番よくわからん。
前の世界の戦場でいろいろな表情を見てきたが、こいつの表情はそのどれにも当てはまらない。
それでも無理やりあげるとすれば…………、戦場に耐えきれず精神が壊れて何も感じなくなった奴に近い……か?
俺が今一つ本質をつかめないでいると、豪華な着物を着た奴がつぶやく
「私の顔、何か変?」
「いや、お前の気配が一番妙だと思っていただけだ」
「ほほう、梓の異質さがわかるとは良い審美眼を持っているようですね」
「変な奴だと思っただけで、俺に美的感覚みたいなものはない。それに……」
「それに?」
「斬ってしまえは全部同じだろ?」
言い終わると同時に、俺は強めの殺気を三体へ放つ。
そして突然の俺の殺気に身体を硬直させた三体の内、梓と呼ばれた豪華な着物を着ている奴へと斬りかかるが、異常を感じたためすぐに退く。
「近づいたら急に感覚が鈍くなった……。何をした?」
「あはははははははは‼︎ あなたの感覚は本当に優秀なのですね‼︎ 梓よ、喜びなさい‼︎ 久方ぶりの好敵手です‼︎」
「そうね。楽しみだわ」
楽しみと言っておきながら表情にも仕草にも出ておらず、ただ立っているだけ。
そんな奴が俺に何をした?
特別な動作をした様子はないから、何もせずに放てるもの……?
候補は音と匂いだが、音に関しては隣の横笛を持っている男の方が専門な気がする。
「……匂いか?」
「ふふ、正解」
豪華な着物を着た奴は俺のつぶやきを聞いて笑った。
そして横笛を持った奴も嬉しさを表すように両腕を広げる。
「ほうほうほう‼︎ 審美眼もあり感覚も鋭く、さらに無味無臭な梓の匂いに気づくだけの知恵もある。これは、あの方が目をつけた理由もわかるというもの」
「あ? どういう意味だ、それは?」
「おっと、これは失礼。話すぎましたね。やはり楽器ですので音を出すのはやめられません」
「聞こえなかったのか? 説明しろ‼︎」
「さて、どうでしょう。我々に勝つ事ができれば何かわかるかもしれませんよ?」
「……上等じゃねえか。死ね」
ギャギギギン‼︎
横笛を持っている奴を狙った俺の斬撃を、鎧武者が左腕の部分で滑らすようにさばいた。
それを見て俺が一瞬驚くと鎧武者は右腕で突きを放とうとしてきたから、俺は後ろへ跳び離れる。
あの梓の匂いで感覚が鈍っている事を差し引いても、俺の斬撃はまだまだ速さと鋭さを保っているのにさばくか……。
「隠し香炉梓の香の影響下にありながら、武器殺しの鎧剛丸の表面に斬撃で傷を残している。お見事です。ならば、今度はこちらからも攻めますよ?」
横笛を持っている奴が自分の口に横笛を触れさせた。
そして息を吸い横笛の音を鳴らそうとした瞬間、猛烈に嫌な予感がして急いで横へ跳ぶ。
ズズズズズズズズズ……。
さっきまで俺が立っていた辺りの地面が震えて砂と化す。
「私、静震の横笛乱節の音撃に反応されるとは、またもやお見事です」
「チッ、楽器のくせに音が鳴らないのかよ」
「いえいえ、自分の事ながら素晴らしい音が鳴っていますよ? まあ、人には聞こえない音ですがね」
超音波、しかも地面を砂に変えるくらいの威力がある。
「匂いで俺を弱らせ、俺に接近されたら鎧が対応。攻めはお前の音ってわけだな」
「その通り。かなり完成度の高い布陣だと自負していますが、我らに勝てますか?」
「当然だな」
「なるほど、それでは有言実行してください。我ら相手にできるのならね」
この三体の組み合わせが厄介だと判断した俺は、早々に決着をつけるため集中して色と音のない世界へ入ろうとした。
「ゲボッ」
「宙擦りとあなたの戦いを見ていましたが、あなたのそれは危険すぎます。梓を前にしてまともに集中できると思わない事です」
強い吐き気が俺を襲ってきたため、片膝を地面につき我慢する暇もなく吐いてしまう。
そして再び猛烈に嫌な予感がしたため、なんとか転がるように移動すると、また地面が砂になる。
「もう一度聞きますね。我らに勝てますか?」
「あ……たり、まえ、だ……」
「ぜひ見せてください、ね?」
俺に聞こえない音が近づいてくる。
……ィン。
「な⁉︎」
手の振りだけで斬撃を放つと、乱節が驚きの声をあげ梓と剛丸からは動揺した気配を感じた。
何に驚いてるんだろうな?
俺が乱節の聞こえない音を斬った事か?
それとも梓の匂いで弱った俺が動いた事か?
俺は考えつつ、ゆっくり立ち上がり木刀の感触を確かめる。
…………やっぱり全体的に弱っているな。
まあ、それでも問題はない。
前の世界で敵方から毒を食らって血を吐きながら戦った時に比べたら、かなりマシな状態だ。
「な、なぜ立てる⁉︎」
「どう、して、だろう、な……?」
ふむ、器物なのに自分で動ける身体を持ったとは言え、肉体に対する理解は低いらしい。
きちんと身体を制御できれば最小限の力で立てるし、身体をうまく使えば弱った状態でも一瞬だけ全力を出せる。
この事を説明してもわかるか?
「くっ……、剛丸‼︎」
「わかった」
「梓も匂いを弱めないでください‼︎」
「うん」
乱節の呼びかけに答え、剛丸は自分を鼓舞するためかガギンと鎧を打ち鳴らした後、俺に向かって走り出す。
それと梓の表情も心なしか険しくなっている気もする。
なるほど肉体を持つ器物というよくわからない存在でも、今は俺の方が不気味なんだな。
良いだろう。
不安にかられて冷静さを失い安易に攻める事が、どれほど危険か教えてやるよ。
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