第1話
千亀院 燈の言っていた武闘祭についての詳しい説明を聞いた俺達は、そのまま参加を決め禅芭高校に宿泊する。
武闘祭が何ヶ月も先なら学園に戻るところだが、開催が三日後と学園に帰り禅芭高校へと戻ってくるには微妙な期間だったため、落ち着く学園に帰り英気を養うよりは短期間に往復する負担を無くそうという結論になった。
まあ、戦場で野営していた俺からすると、雨風をしのげるならどこでも良い場所なんだが、やっぱりシスティーゾ達のように普通の感覚を持っていたら、ちゃんと寝られる環境を求めるべきだよな。
俺が、そんな事を考えていると俺の胸を狙った木刀での突きが放たれてきたため、俺は思考を中断し木刀を腕で払うようにさばく。
『うわっ』
自分の突きが予想外の方向へ押されて体勢が崩れた秋臣の首に木刀を触れさせる。
そう、俺と秋臣は奥底で手合わせをしている最中だ。
秋臣が蔵宮 霞護衛任務での不審者と戦った時に目覚めて以降、俺達は何度も奥底でこうしている。
『秋臣、攻撃は重要だが避けられた場合の事も考えておけ』
『……はい。はあ、少しは強くなれたと思ってたんですが……』
木刀を消して秋臣は座ったから、俺も木刀を消して秋臣と向かい合う形で座った。
『秋臣が強くなっているのは確かだ。言っておくが、実際に身体を動かさずに強くなっているのは驚異的な事だぞ?』
『最高のお手本の感覚を共有できるのに、強くならない方がおかしいです』
『それもそうか』
『先は長いですね……』
『戦っていた年数の差だ。秋臣なら俺に追いつけるから気にするほどじゃない』
『でも、僕とあなたじゃ、経験の密度が違うと思います……』
『まあ、俺は戦場育ちだからな』
『本当ですか? 向こうの世界で戦っていた時よりも強くなってません?』
『うん?』
俺は秋臣の質問を考えてみた。
前の俺……、今の俺……。
『ああ、そう言われたら確かに俺は強くなっているな』
『命懸けの戦場で戦ってる時より強くなっているのは、なぜですか?』
『簡単に言うと意識と目的だ』
『意識と目的?』
『前の世界のでの俺は何も考えずに、ただひたすら戦っていて感覚的には作業だった』
『命懸けの戦いを作業と言い切れるんですね……』
自分で言っていておかしいとは思うが、秋臣に引かれるのは少しくるものがある。
『どれだけ異常な環境でも本人が当たり前だと思えば、それは日常になり作業まで落とせる事もある』
『覚えておきます』
『一応、言っておくが参考にする必要はないぞ。今の俺は自分が戦うという意識を持っていて、何より秋臣が表に出られるようになるまで秋臣の身体を守るという目的もあるからまともになっているはずだ。…………なるほど』
『どうしました?』
『いや、前の世界で傭兵の先輩に言われた、どんな小さい事でも良いから目的を作れ。それが次につながる事もあるという言葉を思い出した』
『良い言葉ですね。どんな目的があったか聞いて良いですか?』
『何かあったのかもしれないが、もう思い出せん。命懸けの戦いが作業にまでなってしまった弊害だな』
『すみません……』
俺の答えを聞いた秋臣はしまったという顔をしてうつむいてしまう。
本当に優しい奴だな。
『戦場のある場所で生まれた俺の運が悪かっただけだから秋臣は謝らなくて良い』
『…………はい』
『それにだ。こうして死んだ後で秋臣と会えて別の生き方をできているのは運が良いだろ?』
『それは……そうですね』
雰囲気が重くなったから話を変えるか。
『話は変わるが、秋臣、武闘祭の説明を聞いてどう思った?』
『え? 障害をいくつも乗り越えてゴールを目指すレース?みたいなものですよね? 御神体は使い手を求めているのに、なぜレースなのかとは思いました』
『まあ、選抜って事だろ。他にも理由はあるかもしれんがな』
『あまり良い印象を持ってませんか……?』
『ああ、早蕨 一心斎の話を聞く限り、前の世界にいたうっとうしい奴らと同じ臭いを感じた』
『ええと……?』
『そうだな、無意識に周りを振り回す奴や意識的に周りを振り回して楽しむ奴と言えば想像できるか?』
『それは……』
『最高の使い手に出会うためか知らんが、ろくな存在じゃない』
『ククク、言ってくれるではないか』
俺と秋臣しかいないはずの奥底で聞き覚えのない声がしたため、俺は秋臣を抱えて声から離れるように跳び退く。
数瞬後、着地し左手で秋臣を抱えながら右手で木刀を構えて声のした方を見ると、大昔の豪族みたいな服装の大男が立っていた。
うん? あいつが持っているのは剣か?
『…………お前、葛城ノ剣か?』
『ほう、勘は良いようだ。ほめてやろう』
『いらねえよ。さっさとここから出て行け』
『良いのか? 何もできずに、そのものが死ぬぞ?』
『ああ? 秋臣⁉︎ おい、どうした⁉︎』
葛城ノ剣の言葉が気になり秋臣の様子を確認したら、秋臣がグッタリしており薄く透けていた。
秋臣を抱えているはずの俺の左手に感じる存在感も軽くなっている。
俺は殺気を全開で放ち葛城ノ剣をにらむ。
『おい、何をした』
『ふはははははは、良いぞ‼︎ その炎のような……いや、そんな生ぬるいものではないな。噴火や大嵐に等しいその怒りは我の好みだ。光栄におも』
『黙れ。しゃべるな』
うっとうしい発言を続ける葛城ノ剣に対して、俺は秋臣に負担がかからないよう気をつけながら真ん前まで跳び、頭から股まで縦に叩っ斬る。
……クソ、葛城ノ剣を斬り捨てただけじゃダメらしく、秋臣は元に戻らずグッタリしたままだ。
どうする? とにかく流々原先生に相談するしかないか……。
『良い‼︎ 良いぞ‼︎』
『チッ、まだ死んでなかったのか。わかった。細切れにしてやるよ』
『はっはっはっ、さすがにそれされるのは、ちとまずい。故にこうさせてもらおう』
俺に斬られた葛城ノ剣は右掌の上に人魂を出現させた。
それは俺の見覚えのあるもので、葛城ノ剣はその人魂を左右に分かれた身体の間に入れてから身体を再生する。
『なっ⁉︎ てめえ‼︎』
『貴様の察した通り、我が取り込んだのはそのもの魂の半分だ。取り戻したければ武闘祭の終着点まで来い。待っているぞ。異世界の剣士よ』
一方的に宣言した葛城ノ剣はフッとその場から消えた。
『…………ソ、クソ、クソ‼︎ クソガアアアアアアアアア‼︎‼︎‼︎』
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