第24話
とりあえず千亀院 燈の言った事の説明を聞くため、俺達はシスティーゾと鈴 麗華が壊したものとは別の木造の建物に入る。
建物の外観は普通の三階建て木造建築物だったから特に疑問を持っていなかったが、中に入って驚いた。
まさか、一階の半分が柱も壁もない大広間になっているとは思わなかったな。
上座に早蕨 一心斎が座り、その対面に俺達、早蕨 一心斎の両横には千亀院 燈を始めとした禅芭高校の有力者が座っていて、残りの奴らは俺達の後ろで好きなように座っている。
全員の話し合いをする準備が整ったところで、流々原先生は話を切り出す。
「私達にとってよくわからない事が多いので前置きを無くし本題に入らせてもらいます」
「うむ、当然じゃな」
「早蕨殿、千亀院さんが言っていた御神体を倒すとは、どういう意味でしょうか?」
「その質問に答えるには、まずこちらから質問をしなければならん。お前さんは禅芭高校がもともとは国柱神社だった事を知っておるようじゃが、国柱神社でどのような存在を祀っているかを知っておるか?」
「確か……勝負事に関するものだったと記憶しています」
「大筋では間違っておらんが正確ではない。国柱神社は勝負事に関係する道具や勝負事に使われたものを神として祀っておるんじゃよ」
勝負事に関係する道具? 勝負事に使われたもの?
俺と同じ疑問を持った鈴 麗華が早蕨 一心斎へ問いかける。
「あの、それは武器や防具という事ですか?」
「それらが一番わかりやすいものじゃな。他にも賭け事で使うサイコロや駒、職人達が作った楽器や筆なんぞもある」
「うん? じいさん、何で楽器や筆が勝負事に関係あるんだ?」
「システィーゾ君……」
鈴 麗華はシスティーゾの口調に眉をひそめるが、早蕨 一心斎から雰囲気の変化はない。
「話し合いの最中じゃ、ある程度は無礼講で構わんよ。お主の疑問はもっともと言える。そうさな……、楽器や筆なんかは職人達が我こそ最高という思いから生まれたと言えば伝わるかのう?」
「つまり、職人達の技量を競った結果生まれたものだから、勝負事に関係があるわけですか?」
「そういう事じゃな」
「…………国柱神社に所蔵されているものが普通なわけがないですよね?」
「うむ、その通り」
早蕨 一心斎は流々原先生の確認を聞き、大きくうなずく。
なるほど、どうやら俺は厄介事が多く眠っているところに来てしまったようだ。
…………今からでも帰るべきな気がしてきたぞ。
「国柱神社に収蔵されておるものは、いわゆる曰く付きのものでな。持ち主に不幸を呼び寄せるものや、ひたすらにわけのわからない事を伝えてくるものなどもある」
「そんなものは処分しろよ……。なんなら俺が燃やすぞ?」
「ありがたい……と言いたいところじゃが精霊級の炎でも無理なんじゃよ」
「…………じいさん、それはどういう意味だ?」
ケンカを売られたと思ったのか、システィーゾの身体から火の粉が放たれ始める。
「お前さんを馬鹿にしたわけではないんじゃ。そうじゃのう……、存在が固定されておると考えてほしい」
「存在が固定されている?」
「そうじゃ。作成時に職人が込めた執念、使われ続けた時間、使用者から注がれた思いなんかの様々な要因が重なり、普通のものではなくなっておる」
「ああ、そういう事ですか。それなら私の祖国にも取り扱いに細心の注意を必要とし、少しでも間違えると人死が出るものがあります」
「システィーゾ、あなたの国ではどうなんです?」
「知らねえ」
「はい?」
「あるとは思うが興味ねえから知らん」
俺は鈴 麗華のお国事情を聞き、ふとシスティーゾの国の事を聞き返ってきた答えに唖然としてしまう。
しかし、戦場で暮らしていた時の自分も生き残る事と戦い抜く事以外はどうでも良かったと思い出して納得した。
「まあ、そういうものですよね」
「コホン、話を続けます。それでは、その御神体というのは?」
「数ある曰く付きなものの中で、特に危険性の高く最も異質なものじゃよ」
「…………詳細を聞いても?」
「そのためにわしらはこの場におる。国柱神社の御神体の名は『葛城ノ剣』という神剣じゃ。来歴についてはこの国の歴史とともにあったと言って良い」
「最古の遺物ですか……」
「そうじゃ。そして最大の特徴は剣自体が明確な意思を持っておるのと常に使い手を求めておるの二つじゃな」
前の世界で古参の傭兵ほど、いろいろ歪んでいた事を思い出して嫌な予感が強くなる。
「まさかとは思いますが御神体を倒すというのは……?」
「剣が意識体を作り出し、自らを使い斬りかかってくる」
「そんな貴重なものを攻撃なんてできません」
「何も問題はない。所蔵されているものは精霊級の攻撃でも壊せんと言ったじゃろ? 今までも我が校の歴代最強のもの達が、いくど攻撃を浴びせておるが傷は一つもついておらん」
「その……、勝てた方はいたんですか?」
「察しはついておるんじゃろ? 我らの全敗じゃよ」
早蕨 一心斎の言葉に禅芭高校の連中の雰囲気が重くなった。
「我らの事は置いておく。問題なのは剣に勝利し使い手となれる存在が現れないために、剣が不穏な気配を放っておる点じゃ」
「…………何が起きるか想像できませんね」
「本来なら我らで解決すべき事じゃが、こうなったからには我らの恥も外聞もどうでも良い。お前さん達に剣の相手を頼みたい」
「あ、頭を上げてください‼︎」
「じいさん、俺達に任せろ」
話を聞く限り厄介事としか言えないが、こういう厄介事を解決するのも異能力者の役割だから参戦するしかないようだ。
システィーゾ達もやる気になっているし、剣の意思という戦った事のない相手とやってみるのも悪くないか。
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