第21話
もうすぐ橋を渡り終えるわけだが、向こう側で俺達を待っている人数は増えている。
最初橋の途中で人影に気づいた時は数人だったのが、今は二十人近い。
服装は着物、道着、狩衣、巫女服と、吾郷学園の周りにいた不審者達と似たような感じだ。
本当にあの不審者達は禅芭高校の生徒だったんだなと納得すると同時に、少しは身元や所属を隠す努力をしろとも思う。
まあ、他にもいろいろ言いたい事はあるが、今は禅芭高校を見て回る方が優先だな。
特に離れたところに見えてきた三階建ての木造の建物は興味深い。
ぜひ中をじっくり見てみたいと考えていたら木造建築物の屋上でかすかな反射光が見えた。
俺は反射光と同時に覚えのある殺気を感じたため、木刀を出現させ斬り上げる。
パキーン……。
学園長室の時は弾き飛ばすだけだったが、今回はガラスの弾丸を粉々にできた。
さすがにこの狙撃手の弾丸を受けるのが二度目で、殺気をはっきりと感じられる距離だから対応は楽だな。
パキパキーン……。
よしよし、連続で撃たれても問題ないと実感していたら狙撃手の気配が乱れた。
おそらくここまで完全に俺が対応できると考えてなかったのだろう。
動揺している狙撃手の次の手として思い浮かぶのは、限界まで弾数を増やすか、一発の威力を上げるか、移動して再度撃ってくるか、そのまま逃げるの四つか。
狙撃手の気配が移動している様子は…………ない。
さらに反射光の数が増えたという事は弾数を増やす選択をしたらしい。
良いだろう、俺の速さと狙撃手の弾数、どっちが上か勝負してやる。
◆◆◆◆◆
パキパキパキパキパキパキパキパキパキパキーン。
…………あれから十分くらいガラスの弾丸を叩き壊し続けているが、どうやらあの狙撃手の同時発射数の限界は十発らしい。
今のところ十発の同時発射後に多少の間があるから余裕を持って対応できているものの、俺が油断したところに十一発目、十二発目があってもおかしくないから薄氷の上を渡る気持ちでガラスの弾丸を叩き壊していく。
それに意外と音と色のない世界へ入ってない時の、素の自分の動きを確認する良い機会か。
◆◆◆◆◆
さらに数分が経ち、本当に狙撃手の同時発射の限界が十発だと確信できた時、すでに俺は狙撃手の撃ち方を見切っており、多少弾の速さや弾道にタイミングを変えられても片手の最小動作で迎撃に成功している。
「鶴見……」
「どうしました? システィーゾ」
「必ず、お前が反応できない量と速さで押し潰してやるからな‼︎」
「そうですか、楽しみにしています」
「…………チッ、てめえ、いつまでも鶴見に撃ってきてんじゃねえ‼︎」
システィーゾは俺の本心からの返答が気に入らなかったようで、そのイラつきをぶつけるように狙撃手へ向かって巨大な炎の弾丸を放つ。
システィーゾの炎の弾丸は何の妨害を受ける事なく着弾したわけだが、当然大きな被害を生む。
具体的に言えば、まず着弾した際の爆発による木造建築物と周囲の崩壊、そして燃えた破片が飛び散って起こる延焼だ。
さらに細かく言うと禅芭高校の生徒への人的被害もあるが、それは禅芭高校の生徒と思われる狙撃手がきっかけになっている事なので無視する。
ちなみに俺達は鈴 麗華により氷の壁で守られたため、爆発音と爆発の閃光で耳と目に多少の違和感がある以外は何の問題もない。
「システィーゾ、派手にやりましたね」
「あ? 俺は撃ってきた奴を撃退しただけだ。反撃されたくないなら、そもそも攻撃してこなけりゃ良いんだよ。そうだよな、爺さん?」
「…………そうじゃな。うちの生徒が申し訳ない。お前達、被害の確認へ向かうんじゃ」
禅芭高校校長の早蕨 一心斎は、システィーゾの問いかけに苦々しく肯定し謝罪もしてきた。
へえ、一方的に打ち負かされた状況でも自分達側に原因があるなら頭を下げられるのか。
流々原先生が緊張するくらいの、ちゃんとした奴って事だな。
ただ生徒は、そうではないらしく爆発の被害を免れた狩衣を着た禅芭高校の生徒がシスティーゾをにらんでいて、その手には術で使う呪符を数枚持っていた。
「貴様……」
「何だ? 話を聞いてなかったのか? 俺にケンカを売るのは筋違いだぞ」
「黙れ‼︎ 符術、雷さ、ムグッ⁉︎」
キレてる奴が何かの術を発動させようとしたが、それよりも速く狩衣を着た奴の口から下を氷が覆い尽くす。
いや、こいつだけじゃないな。
周りを見たら他の生徒達の口から下や延焼していたところも全て凍っている。
これだけの現象を冷静に一瞬で起こせるのは、さすがだ。
「そもそも鶴見君を狙ったあの狙撃手の攻撃を止めなかったから、システィーゾ君が反撃したのよ? それに鶴見君は正式に招待された客で、その客へ攻撃を加えてるんだから、どう考えてもあなた達の責任。私達へ怒りを向けられるのは不愉快よ」
鈴 麗華は全然冷静じゃなくて、むしろあの狩衣を着た生徒よりキレていた。
あ、システィーゾもキレている鈴 麗華に対抗するように炎を生み出し始めている。
これはまずいと思い、二人を止めるために協力しようと荒幡 桜を見たら、荒幡 桜もムチを出現させて禅芭高校の生徒達に鋭い目を向けていた。
お前もかよ……。
本当にまずい。
そして残りの頼みの綱は流々原先生だが、流々原先生はさりげなく下がっていて先生も止める気はなさそうだ。
…………しょうがないか。
俺は、こうなったからには後々システィーゾと一戦交える覚悟で止めるための威圧を放とうとした瞬間、俺の右後ろに違和感を感じて跳びのく。
「こんにちは」
直前まで俺のいた場所に着物を着た女子生徒が立っていて、そいつは無表情な顔で俺に小さく手を挙げてあいさつしてくる。
俺は、こいつが近づいてきたのを気づけなかった?
こいつ、いったい何者だ?
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