第20話
数時間後、俺達は禅芭高校に着いた。
駅からの道中でシスティーゾが意識誘導に引っかかりかけて不機嫌になったという多少のアクシデントはあったものの、こうして上部の額縁みたいな部分に禅芭高校と刻まれた大鳥居と両脇にある大きな狛犬が見えるところまで来たので、ここからが本番だと意識し口調も秋臣のものに直しておく。
「それにしても、どうして高校に大鳥居があるんです?」
「禅芭高校の前身というか母体が国柱神社だからよ」
「つまり禅芭高校は元国柱神社の敷地をそのまま使用しているという事ですか?」
「その通りじゃよ」
俺が流々原先生にもう少し聞こうとしたら大鳥居の柱の影から男の声がしたため、そちらに目を向けると神主の格好をした老人が俺達を見ていた。
この老人の存在をわかっていたから秋臣の口調に戻したのもあるんだが、少なくともこいつは俺が秋臣と身体を共有しているだけで、秋臣本人じゃないという事を気づいてはいないようだ。
俺から話しかけるべきか悩んでいると、老人が俺達に近づいてきて、すぐそばで立ち止まる。
「吾郷学園の皆さん、国柱神社並びに禅芭高校へようこそ。私は神主で教師の早蕨 一心斎と申します。どうぞ、よろしくお願いします。」
「っ‼︎ ご、ご丁寧にありがとうございます。私は今回の禅芭高校訪問の引率を任された吾郷学園で治癒師をしている流々原 流子と言います。こちらこそ、よろしくお願いします」
流々原先生が早蕨 一心斎という名前を聞いて一瞬驚いていたが、すぐに平静を取り戻し態度に出していないから俺も余計な事は言わずに続いた方が良さそうだな。
「初めまして。僕は器物級の鶴見 秋臣です。この度は招待していただきありがとうございます」
「ほう、君が鶴見君か。話はいろいろ聞いておるよ。ぜひ、禅芭高校を楽しんでいってくれると嬉しいのう」
「僕も、そうなれば嬉しいなと思っています」
「うむうむ」
俺の発言を聞いた早蕨 一心斎が顎を撫でながら嬉しそうにしていて、その目がシスティーゾ達へと向いた。
「精霊級の鈴 麗華です。本日はよろしくお願いします」
「精霊級のアラン=システィーゾだ」
「魔導級の荒幡 桜です。なかなか来れない場所なので見れるだけ見たいと思っています」
「ふーむ、いずれも優秀なもの達じゃな。これは我が校の生徒達にも良い刺激になりそうじゃのう。さて、立ち話も何じゃから、わしが軽く案内しようかの。こちらへ」
俺達は歩き出した早蕨 一心斎の後について大鳥居を潜った。
…………この爺さんから学園長と同じような気配を感じるのだが、いったい何者だ?
とりあえず気になった事は早めに確かめておいた方が良いと判断して、俺は小声で流々原先生へ話しかける。
「流々原先生、あの人の名前を聞いた時に何で驚いてたんですか?」
「…………早蕨 一心斎という名前はね、国柱神社の責任者である宮司の名前であると同時に、禅芭高校の校長の名前でもあるのよ」
「へえ、トップがいきなり僕達の目の前に現れたんですね……」
「狙いは鶴見か?」
「そう考えるのが自然だと思います」
「何か仕掛けてきそうね」
「ほっほっほ、そう警戒せんでも良いわい。言ったじゃろ? まず我らの禅芭高校を楽しんでもらうのが第一じゃよ」
かなりの小声で話していたのに、早蕨 一心斎は当然のように俺達の会話へ混ざってきた。
異能力か古い術か単純に感覚が鋭いのかはわからないが、こういう事ができるとわかったのは大きい。
俺は早蕨 一心斎が他にどんな事ができるのか考えようとしたものの、それよりも道なりに進んで見えてきた木造の橋が気になった。
「流々原先生、鈴先輩、荒幡先輩、システィーゾ、止まってください」
「鶴見君?」
「少し待っていてください」
流々原先生達を俺が呼び止めると、早蕨 一心斎も立ち止まる。
一見、立ち止まったという点では同じだが、流々原先生達は困惑しているのに対して、早蕨 一心斎は何が起こるのかわかっているようで心の底から俺の言動を楽しんでいる雰囲気だな。
まあ、早蕨 一心斎の事は今はどうでも良い。
さっきから気になっている橋……正確には橋の入り口の欄干に設置されている二体の石像へ近づいていく。
…………これは大鳥居のそばの狛犬を縮小したものだな。
そして当然、ここにあるからには普通の石像ではないはず。
俺の予想は橋へ一歩足を踏み入れた時に当たった。
欄干の上に鎮座していた小さな狛犬がブルッと震えたかと思うと、次の瞬間には橋へ飛び降りムクムク大きくなっていく。
「鶴見‼︎」
「「「鶴見君‼︎」」」
「僕は大丈夫です。皆さんは、そこにいてください」
最終的に狛犬は俺が見上げるくらいの大きさになったため、流々原先生達が慌てて走ってきそうだったから改めて制止した。
それにしても見た目が完全に石の狛犬が風船みたいに大きくなっていった事と、その大きな狛犬二体が乗っても崩れない橋は興味深いな。
狛犬は異能力だと想像できるが、やっぱり橋にも異能力が使われているのか?
「「ガウッ‼︎」」
「初めまして」
俺に対して狛犬が牙を剥きながら威嚇してきたため、俺はいっさい目を逸らさず殺気を放ちながらにらみ返した。
「「ガ⁉︎ ガアッ‼︎」」
「「「…………」」」
ほー、俺の殺気を感じても引かないのは大したものだなと感心しつつ俺は狛犬を殺気を強めながらにらみ続けたので、橋の入り口で子供一人と大きな狛犬二体がにらみ合うという妙な状況が生まれる。
◆◆◆◆◆
たっぷり数分にらみ合った結果……。
「「ガゥ……」」
「ありがとうございます。通らせてもらいますね」
狛犬は負けを認めたのか小さく鳴いた後、元の大きさに戻りながら橋の欄干の上に戻った。
これで問題なく橋を通れるようになったと報告するために流々原先生達のもとへ戻ると、全員が唖然としている。
「どうかしましたか?」
「…………いや、どう考えても鶴見がおかしいだろ。守護像ににらみ勝つって何だよ」
「システィーゾ、そんなに変ですか? 他校の設備を壊さずに済んだから上々だと思ったんですが……」
「鶴見君、そこではなく、製作者に刻まれた命令を覆させた事が異常なんです」
「え? 動物との勝負で自分を上だと思わせるのは当たり前ですよね? 荒幡先輩は動物を飼った事がないか、おとなしい動物だったんですね」
「言ってる事はわかるけど、鶴見君、神社の一部でもある狛犬相手で、にらみ勝つのは違うわ……」
「鈴先輩は、こう言ってますが、無事に橋を通れるようになったから良いですよね? 流々原先生」
「ま、まあ、そうかもしれないわね。…………コホン、時間がもったいないので行きましょ。構いませんね?」
「う、うむ、良いじゃろう」
俺は早蕨 一心斎も困惑するほど変な事をしたのか?
いまいち納得できないが、あの狛犬みたいな仕掛けが他にもあるなら禅芭高校は楽しめそうだ。
…………お、次はすぐにあったな。
俺達が橋を渡っていると、向こう側に数人の人影が見えてきた。
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