第17話
学園長の号令のもと、俺達は学園の周囲にいる不審者への対応を始めた。
具体的には学園長が異能力で数人単位に分かれた俺達を不審者近くの日陰へ送り、その後、俺達が不審者の観察や接触を行うというものである。
ちなみに俺の班は、俺、システィーゾ、鈴 麗華のいつもの面子に加えて生徒会第二書記の荒幡 桜が加わった。
要は学園長の言っていた俺への監視の強化が、この荒幡 桜だな。
「荒幡 桜、生徒会の活動で忙しいところ悪いな」
「生徒会では比較的、自由に動ける時間の多い役割なので気にしないでください。それよりも考えないといけないのは、私達が倒したもの達の事です」
「そうね……」
荒幡 桜の言葉に俺達全員がうなずいてしまうほど、俺達が接触した奴らはおかしい。
まずシスティーゾ達と同年代の奴らが着物、道着と袴、巫女服、狩衣、袈裟など昔ながらの古いものを着用していた。
一瞬見た目だけのコスプレかとも思ったが、仕草と着慣れてる感じから服装に相応しい事を日常的にしているんだろう。
そして次に妙なのが、接触した変わった服装の奴ら全員が俺というか、秋臣の顔を知っていた事だ。
一人二人ならまだわかる。
しかし、それが全員となれば意図的に俺の情報を集めて全員で共有しているとしか思えない。
そして最後にして一番変な事は、接触した奴ら全員が、秋臣のふりをしている俺へいっしょに来いと同行を求めてきた事だな。
「というかだ。あいつらは、なんで鶴見を勧誘してきたんだ?」
「まったくわからん。少なくとも秋臣の記憶にあいつらから勧誘されるようなものはないぞ」
「しかも、あの人達は詳しい理由も説明せずに勧誘したのに鶴見君が断ったら驚いてましたね」
「ああ、まるで秋臣なら絶対に誘いにのるっていう確信があったようだな」
「それと鶴見君が拒否した後に、力ずくで連れて行こうとしたのも謎です」
「本当に」
「…………」
俺、システィーゾ、荒幡 桜がこいつらの行動を理解できずにいる中、鈴 麗華は地面に倒れている俺達が倒した奴らを見ながら何かを考え込んでいた。
「鈴 麗華、何か知っているのか?」
「…………正確な事はこれから調査しないとわからないけれど、私が想像してる通りなら西の禅芭高校の人達だと思うわ」
「禅芭高校……、確か私達の通う吾郷学園と同じで異能力者が集まる学校ですよね?」
「そうよ」
「その禅芭の奴らが、俺というか秋臣に何の用があるんだ?」
「学園長の方が詳しいはずだから、一度戻ってそこで聞きましょう」
◆◆◆◆◆
学園長室に戻った俺達は鈴 麗華の予想を含めたわかった事を学園長に伝えた。
すると、学園長がハア……とため息つく。
「あなた達もですか……」
「も、という事は他のところでも?」
「ええ、不審者全員が昔ながらの服装で異能力を使い、さらに鶴見君の事を聞いてきたそうよ」
「学園長、聞きたいんだが、何であいつらは秋臣と関係を持とうとするんだ?」
「それは禅芭高校の校風によるわね」
「校風?」
「禅芭高校は異能力者が通う学校だけど、異能力よりも古き力がより重要視されてるのよ。わかりやすく言うと鶴見家や蔵宮家かしら」
学園長の言った事を考えてみる。
「…………鶴見家は武術で蔵宮家は呪いと呪い。なるほど確かに異能力者が現れる前から存在していた古き力だな。あいつらの服装にも納得できる」
「つまり、鶴見を迎え入れて自分達の戦力を増やそうって事か?」
「違うわ。たぶん鶴見君のいる場所は自分達のところだと思っているはずよ」
「はあ?」
「今の世の中は異能力者が全盛で、占術や陰陽術、霊能力なんかの古き術大系や能力は廃れつつあるわ。でも、そんな流れに対抗して古き力を集積、継承、そして台頭させようとしているのが禅芭高校なの。もちろん武術も対象よ」
俺の頭に一つの疑問が浮かぶ。
「ちょっと待て。それなら、あのガラスを撃ち込んできた奴は関係ないのか?」
「いいえ、あの狙撃手も禅芭高校の関係者のはず」
「だが、禅芭高校は古き力を集めているんだろ? 狙撃は古き力とは違うよな?」
「そこが禅芭高校の柔軟というか厄介なところで、古き力を最重要視しつつも優秀な異能力者を受け入れていて精霊級が何人もいるらしいの」
「ずいぶんと都合の良い奴らだな」
「システィーゾ、目的を意識しすぎて動きが固く重くなった奴は死ぬだけだからな、都合よく立ち回れるくらいがちょうど良いんだよ」
「それも戦場での経験って奴か?」
「そうだ。生きようとしすぎた奴も敵を倒そうとしすぎた奴も、全員俺より先に死んでいった」
システィーゾは俺の口から死という単語が出て何とも言えなくなっていた。
まあ、俺は殺気は放ったがシスティーゾの目の前で誰かを殺した事はないからしょうがないな。
「…………ふん。それでどうするんだ? ケンカを売られたに等しいが、このまま何もしないのか?」
「私は約束は守ります。鶴見君を禅芭高校へ渡すつもりはありません。ですが、鶴見君の気持ち次第です。鶴見君は、どうしたいと考えてますか?」
「俺は秋臣が表に出てくるまで秋臣の身体を守るだけだ。しかし、秋臣が表に出た時に騒がしい状況にはしたくない。それと秋臣は少なからず、この学園が気に入っているから移るつもりはない」
「わかりました。厳重に抗議をしておきます」
いつになく強い口調で宣言した学園長には、前の世界での数少ない信頼できた傭兵の雇用主と同じ説得力を感じるから任せても大丈夫だろう。
◆◆◆◆◆
数日後、俺達は学園長から呼び出されたため学園長室へ来ていた。
うん? 何か学園長と武鳴と入羽の顔が微妙な感じになっている気がするな。
「学園長、今日はどうしたのですか? 緊急の任務ですか?」
「…………緊急と言えば緊急だけど任務ではないわ」
「それなら一体?」
「これよ」
学園長は机の引き出しから一枚の封筒を取り出し机の上に置く。
「それは?」
「禅芭高校から鶴見君への招待状よ」
「「「「は?」」」」
俺とシスティーゾと鈴 麗華と荒幡 桜の声が重なった声が学園長室に広がった。
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