第15話
学園長室の中には、学園長と流々原先生、生徒会連中、そして聖隊長である武鳴 雷門と副隊長の入羽 風夏を始めとした聖の幹部連中がいて、俺達を……いや、俺を見ていた。
どう話を進めるか悩むところだが、それよりもまずシスティーゾと鈴 麗華を肩に抱えたままだから降ろすのが先だな。
「システィーゾ、鈴先輩、降ろしますよ」
「早くしろ」
「お願いするわ」
「おっ……と……」
「あら……?」
二人は俺の手から解放されると、そのままペタンと床に尻餅をついてしまった。
「大丈夫ですか? 強引に動きすぎましたね。すみません」
「チッ、いちいち謝るな。すぐに元に戻る」
「システィーゾ君の言う通りよ。少し休めば治るわ」
「大口を叩いて、これか。軟弱ね」
「あ?」
「…………」
俺達のやり取りを見ていた副隊長の入羽 風夏が吐き捨てるようにつぶやくと、システィーゾは炎を鈴 麗華は氷を入羽 風夏へ放つ。
あまりに急すぎて反応が遅れた入羽 風夏は、かろうじて風を纏う事で二人の攻撃の直撃は防いだものの、衝撃までは抑えられず窓の外へ吹き飛ばされた。
俺は、これがきっかけになり聖と全面衝突になるかもしれないと考え、聖からの攻撃をできる限り想像して対策を練る。
しかし、俺の思った通りの展開にはならず、一種のこう着状態になった。
なぜなら風を纏って飛んでいる入羽 風夏が窓から入ってきてフワッと着地をしたからだ。
「軟弱の次は無作法か。お前達にお似合いだな」
「俺達の攻撃を受け切れなかった奴が大物ぶるのはダサいぞ」
「それに私の所属している聖という組織では、礼儀知らずが出世の一因になるとは知りませんでした」
「貴様ら……」
…………システィーゾも鈴 麗華もどうしたんだ?
いくら何でもケンカっぱやすぎる。
特に鈴 麗華は下手すると何人もの格上と同時に戦う事になるかもしれない状況なのに、ケンカを売るのはらしくない。
あーー……、聖の何人かも、このままの流れで戦いたいと思いながら俺を見ている奴もいるから戦うのは決まりだろう。
ただ、俺達の学園長室に来た目的を果たすのが先だ。
俺は誰かが動く前に全力の殺気を放って全員を牽制すると、システィーゾと鈴 麗華を含む全員が壁際まで退がって武器や能力を構えたな。
「鈴先輩、学園長への報告が先です」
「あ、そうだったわね……。止めてくれてありがとう」
「いえ、気にしないでください。システィーゾ、副隊長も、それで良いですか?」
「おう」
「ふん……」
副隊長の入羽 風夏を含む何人かが余計な事をという感じの視線を向けてきたものの、鈴 麗華が場を仕切り直し学園長へ任務の報告を始めたため無視しておく。
◆◆◆◆◆
十数分後、鈴 麗華の報告は終わった。
かなり学園長からの質問が多かった上に、その質問の割合は任務の全体に対してが二割、襲撃してきた不審者に関する事が三割、残りの五割が俺の一挙手一投足についてだ。
明らかに偏った質問の仕方だが、警戒している相手を知ろうとするのは当然だな。
そんな風に俺が思っていると学園長は鈴 麗華とシスティーゾを見た後に俺を見た。
「まずは、三人とも任務達成ご苦労様。システィーゾ君と鶴見君の初任務になるから低めの難易度のものを選んだつもりだったけれど、まさか精霊級の犯罪者が関わってくるとは予想してなかった。こちらの見積もりの甘さが招いた事だから謝罪させてもらうわね。本当にごめんなさい」
「全員無事で任務を達成できたので大丈夫です」
「俺が強ければ何の問題もなかった。あんたが謝る事じゃねえ」
「特に気にしてませんので」
「三人とも、ありがとう」
学園長は俺達の言葉を受けてフワッと笑った後、雰囲気を百八十度切り変える。
「襲撃者と、その背後関係の調査はこちらで進めるから、この話はここまでね。さて、それじゃあ、ある意味で一番重要な話題に入るわよ。鶴見君、流子からあなたの事で報告を受けたの。何というか……、あなたは普通の状態じゃないみたいね。あなたが、どういう状態なのか説明してくれるかしら?」
「説明ですか……」
「何か説明できない事でもあるの?」
「いえ、秋臣と出会った時点から説明はできるのですが、問題がありまして」
俺が秋臣の名前を言うと全員がザワっとした。
まあ、見た目は鶴見 秋臣なのに、秋臣本人じゃないと宣言しているようなものだからしょうがない。
「…………その問題とは?」
「異能力が当たり前のこの世界でも信じられないような事なので」
「まるで、自分は別の世界からきたみたいな言い方ね」
「はい、事実そうです」
「は?」
あー……、異能力者が現れて世界が変わっていくのをその目で見てきた学園長でも、そういう反応になるんだな。
「とりあえず説明を聞きますか?」
「……お願い」
「わかりました」
学園長に促されて俺は秋臣と出会った時からの事を話し始めた。
俺がこの世界とは別の世界で戦場の最激戦区で戦い続けた傭兵である事、戦場で死んだ俺が魂だけとなり異空間を漂い秋臣の魂と出会った事、秋臣の魂が壊れかけていたため自分の魂で包んで魂の消滅を防いだ事、なぜか秋臣の魂とともに転生した事、転生した後は俺が秋臣を装っていて秋臣は奥底で眠っていた事、そして不審者との戦闘時に秋臣と会話できた事なんかの全てを話した。
秋臣の魂が壊れかけていた辺りの話をしていたら、システィーゾが気まずそうにしていたが今話しかけた方が良いのか?
「…………つまり、あなたは鶴見 秋臣ではないという事ですね」
「そうです」
「にわかには信じ難いですが、私達は信じるか受け入れるしかないのでしょうね……」
「僕の存在は秋臣が表に出てくるまでなので、そこまで気にしなくても良いですよ?」
「あなたの目的は何ですか?」
「秋臣が表に出てくるまで秋臣の身体を守る事です。もっと言えば、秋臣の記憶を真似て静かにしているつもりだったんですが、なぜか今この場にいるんですよね」
学園長の眉がピクリと動く。
「記憶を真似る?」
「ええ、秋臣と記憶を共有できていたので、こちらでの暮らしに驚きはあっても苦労はありませんでした。それと秋臣の口調や仕草を再現して暮らせてます」
「あなたの口調は素ではないのですか?」
「完全な戦場暮らしに丁寧な口調の奴はいませんよ」
「素のあなたを聞かせてください」
「フー……、これで良いのか?」
「…………本当に別人ですね」
「まあな。俺からも聞きたい事がある」
「何でしょう?」
「秋臣の扱いはどうなる? 静かにしていろと言うなら受け入れよう。しかし、もし排除なり投獄を考えているなら……、力ずくで秋臣の平穏を勝ち取らせてもらう」
俺が一度全員を見回してから、はっきりと宣言したら入羽 風夏は暴風を纏い出した。
「貴様、この状況で勝つ気でいるのか⁉︎」
「ああ? 逆に聞くが何でお前らは俺に勝てると思ってるんだ?」
俺が言うと好戦的な何人かが再び武器を構えたので、俺はすばやく音と色のない世界に入った後、そいつらの武器を奪い元の位置に戻る。
「この通り俺はお前らよりも桁違いに速く、俺は学園長を包んでいた今まで誰もどうにもできなかった闇を斬っている。これがどういう事かわかるか? 入羽 風夏」
「く……」
「その顔は理解できてるみたいだな。そうだ。俺はお前らが何かするよりも速く動けて、なおかつ学園長の闇よりも防御力のないお前らに俺の斬撃は防げないって事だ」
「おのれ……」
「それじゃあ、学園長、いや、黒鳥夜 綺寂、返答を聞かせろ。秋臣の扱いはどうなる?」
全員の視線が学園長に集まった。
答えは何だ?
どうなる?
さすがに後々が面倒くさいから対立はしたくないぞ。
できるなら秋臣ためにも平和的であってくれ。
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