第6話
蔵宮 石永から蔵宮家のいろいろな話を聞いた翌日、俺、システィーゾ、鈴 麗華、蔵宮 霞、スミスの少人数で屋敷を出発し旧蔵宮家に呪い殺された人達の鎮魂を行う場に着いた。
その場所は屋敷から、そう遠くない住宅街の中にある別の屋敷だが、門から敷地内に入った瞬間ガラッと空気が変わったため日常生活を送る場所ではないと実感できる。
「…………なるほどな。特別な場所っていうのも納得できる。意外と近いんだな。もっとがっつり山の中とかだと思ってたぞ」
「ここは旧蔵宮家があった場所で、現在はいろいろなものを封じ込めたり、儀式のための場所として使われている。そして、この屋敷の周りに住むもの達は大小問わず現蔵宮家と関係がある」
「この屋敷を中心とした地域が蔵宮のための地域なんですね」
「そうだ」
ある一族が地域に深く根付いている。
秋臣の記憶を見る限り、鶴見の本家があった場所こんな感じだな。
そういえば叩き潰した後の鶴見の近況がどうなっているかを全く気にしてなかったが、秋臣は知りたいか?
俺は奥底で目覚めつつあり意思疎通がはっきりとできるようになった秋臣に聞いてみると、別に構わないという思いが返ってきた。
誤魔化してる様子は……ない。
本当に気にしてないようで、そんな事よりも初任務に集中してほしいという思いを続けて返してきたから、俺はわかったと返答し気持ちを切り替える。
とりあえず周囲を確認するかと考えていたら手首の端末から着信音が鳴った。
待っていた情報が聞けるかもしれないので、システィーゾ達を呼び寄せスピーカーで電話に出る
「おはようございます、流々原先生」
『おはよう、鶴見君。他のみんなもそろってるのかしら?』
「はい、すぐそばにいます」
『それならさっそく昨日鶴見君から聞かれた事に関する私なりの返答をするわね』
現役の上級治癒士であり仙人でもある流々原先生なら、呪いについて何か知っているかもしれないと思い連絡を入れた昨日の今日で連絡をもらえるのはありがたいな。
俺はシスティーゾ達を見ると、しっかりとうなずいてきたのを確認した。
「お願いします」
『それじゃあ、どうして鶴見君だけ呪いを視認できたのかだけど、私の結論は鶴見君の感覚が普通の人よりも鋭いか、鶴見君自身の性質が呪いに近いかの、どちらかだと思うわ』
「…………確か鶴見は異能力で透明になってた奴に気づいたから、感覚が鋭いで説明はできるな」
「あと呪いを死をもたらすものって考えたら、とんでもない殺気を放てる鶴見君と呪いの性質が近いとも考えられるかしらね」
俺はシスティーゾと鈴 麗華の理解力に感心しつつも、俺が一度死んでいるから呪いという死に近いものを見る事をできたが正解だろうなと思っている。
というか、普通に生きてる奴が粘液野郎みたいな気持ち悪い存在を認識できたらダメだよな。
「流々原先生、鶴見君の事も気になります。ですが、それよりも重要な事があります」
『鈴さんとシスティーゾ君に呪いが見えるようになるかという点ね』
「そうです。可能でしょうか?」
『できるかできないかで言えばできるわ。ただ治癒士としても学園の教師としても、おすすめできないのよ』
「なぜですか?」
『鈴さんとシスティーゾ君の精霊級としての力を失う可能性があるからよ』
……ああ、なんとなく流々原先生の言いたい事はわかる。
一時的にでも呪いを見えるようになるという事は新しい感覚を得る事に等しいから、その状態で今まで通りの精霊級の力を発揮できるとは限らない。
それに聖へ所属できるほどの異能力者を進んで弱体化させたがる奴はいないよな。
「どうでも良い。いつ敵が攻めてくるかわからねえんだ。できるなら、さっさとやってくれ」
『本当に良いのかしら?』
「気に入らないが、俺は器物級でバカみたいに強い奴を知っている。仮に俺達が弱くなったなら、また強くなれば良いだけだ」
「そう……ですね。流々原先生、私達は任務を達成するために、この場にいます。そして成功率を上げるためなら、どんな事でも受け入れる覚悟もあります」
『…………わかったわ。できるだけ早く終わらせて帰ってきなさい。それじゃあ二人は私の声をよく聞いてね』
「おう」
「わかりました」
端末の向こうで流々原先生が集中するのを感じる。
『仙法、自己拡張。疾‼︎』
「くぁ‼︎」
「きゃ‼︎」
『風は通り抜けて新たな道を広げる。私の声を流して二人の感覚を広げたわ。今は新たな感覚が加わった事でグラグラ揺れてると思うけど、耐えずにそのまま受け入れて。激しく乱れた水面が少しずつ静かになっていくのを想像するの』
システィーゾと鈴 麗華の気配に明らかな変化が起きている。
離れた場所にいる二人に声だけで影響を与えられるという事は、流々原先生の仙人としてもかなりの実力者みたいだな。
…………うん? チッ、来たか。
「流々原先生、通話を切ります」
『端末越しでもわかるわ。この時代にここまで負を煮詰めたような術を使える存在がいるのは驚きね。鶴見君、端末を手首から外して二人の近くに置いて。二人が新しい感覚に慣れるまでの間は私が守るから、鶴見君は遊撃として動きなさい』
「ありがとうございます。二人の近くにいれば安全なので、お嬢様とスミスさんは近くに」
「わかりました……。お気をつけて……」
「気をつけろよ」
「任せてください。システィーゾ、鈴先輩、焦って中途半端になるのはダメですよ?」
システィーゾと鈴 麗華はタイミングの悪さに悔しがっているから変な状態にならないよう釘を刺した後、俺は手首から端末を外してシスティーゾ達の近くに置く。
そして木刀を出現させ、いつでも戦える準備が完了したのを待っていたかのように門の近くに大きさや太さの違う粘液野郎が何体も現れた。
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