第18話
「やれっ‼︎」
男が手を振り下ろすとともに叫ぶと俺を囲んでいた奴らが、いっせいに雄叫びをあげながら襲いかかってくる。
…………普通だな。
数十人もいるのだから俺の驚くような奴が一人くらいはいるだろうと思っていたのに、こいつらの気配・足音・能力の発現具合なんかも本当に普通か、並以下というところだった。
少なくともこいつらの中に俺が経験した戦場を生き残れる奴はいない。
鈴 麗華の言った通り、さっさと終わらすと決めた俺は黒い木刀を右手に出現させ握る。
そして前へ倒れるように踏み出して加速し、正面から迫ってくる奴のそばへ跳び込むとそいつに木刀を叩き込む。
「ギ、ギャアアアアアアアアッ‼︎」
ゴキャッ‼︎ という鈍い音がして俺に左鎖骨を砕かれた奴が地面に倒れて叫ぶ。
うん? 俺へ襲いかかろうとしている奴らが動きを止めたな。
ああ、俺に……というか秋臣に、ここまで手ひどい反撃をされるとは考えてなかったのか。
戦闘時に隙を見せる方が悪いから、今の内に数を稼ごう。
まず俺に倒された奴を、すぐそばで呆然としながら見ている四人の手足に木刀を打ち込み骨を砕く。
ここからは単純な作業だな。
俺は俺から近い順に木刀を叩き込んでいき一人につき骨を二・三本折り、どんどん戦闘不能者を増やしていった。
「ひ、怯むな‼︎ 囲んで潰せ‼︎」
半分くらいを倒した時に俺を見下した目で見ていた男から号令が出て、残りの半分が動き出したのを確認した後、俺は目を閉じて一度深呼吸をする。
そして目を開けると、世界は止まっていて音もなくなり白黒になっていた。
まあ、正確に言えば世界は止まっているわけでなくて、ものすごくゆっくり動いている。
これは俺の能力とかではなく全力で集中した事により、俺の脳の処理速度が上がったため俺以外のものがゆっくり動いて見えているだけだ。
この状態に近いものはこの世界に始めてきた時のシスティーゾとの戦闘でなっているが、今はあの時よりも自力でごく自然にこの状態になれている。
この状態になった時の一番のメリットは、この遅い世界の中で俺だけがいつも通り動けるという事で、逆に言えば俺の動きに反応できる奴はいない。
つまり、完全に棒立ちになっているのと変わらない奴らを俺が一方的に滅多打ちにできるというわけだ。
◆◆◆◆◆
もう一度深呼吸をすると、俺の見えている世界に音と色が戻ってきて普通に動くようになった。
周りには残りの半分の奴らが身体を痙攣させながら地面に倒れている。
いくら秋臣を害そうとするムカつく奴らではあっても少し木刀での打撃を叩き込み過ぎたなと反省していたら、システィーゾと鈴 麗華の気配が乱れていた。
「お、おい、鶴見……」
「何ですか? システィーゾ」
「今……何をした? 俺の目には立ってたお前が突然身体がブレて見えるくらいの超高速で動いたように見えたぞ」
「……私も同じです」
「はい、そういう風に動いたので」
「お前は器物級で、能力は自分が触った事のある武器を生み出すだけのはず。それだけの実力を隠してやがったのか?」
「コツをつかんで最近できるようになった事を隠してたと言われても困ります」
前の世界の俺だと何年も前からできた事だが、秋臣の身体でできるようになったのは最近の話なので嘘はついていない。
「コツをだと……?」
「そうです。集中して自分の意識を身体の隅々まで行き渡らせたら誰だってできますよ」
「ふざけるなっ‼︎」
俺がシスティーゾに説明していたら、あの男が叫んだ。
「追放された落ちこぼれの貴様が、そんな事できるわけがないっ‼︎ しかも、能力を使わないでだとっ⁉︎ ありえない事をほざく狂人がっ‼︎」
「僕が実際に目の前でやって見せても否定するんですね」
「うるさいっ‼︎ 死ねっ‼︎」
「おっと」
男は腕を伸ばして俺に何かを飛ばしてきたので、俺は木刀で全て迎撃する。
木刀へ軽いものが当たる感覚があり、その何かが落ちた地面でキンという小さな音がいくつもしたので地面を見ると、細くて短い金属が光を反射していた。
「なるほど、あなたは針使いみたいですね」
「それがわかったところで貴様には何もできんっ‼︎」
「どうして、そう思うんですか?」
「いくら貴様が一部の針を防いだとしても、その百倍千倍の数を貴様は防げないからだっ‼︎ さらに貴様には遠距離に対応した攻撃手段はないっ‼︎」
こいつ……今までの俺の戦い方を見ていて、何でそんな事を言えるんだ?
俺は呆れながら男の真横へ跳んで男の首に木刀を触れさせる。
「一瞬で距離を潰して接近できるなら射程距離は考える必要はありません」
「バカな……」
男は俺を見失った後、自分の首に触れた木刀の感触に気づき顔から血の気が引いた。
「……ああ、あなた、殺される覚悟をしてないのに、この場にいるんですね」
「お、俺にこれ以上手を出せ、ばっ⁉︎」
俺はくだらない事を言おうとした男の左上腕に木刀を打ち込み骨を砕く。
「イギャアアアーーー‼︎」
「何か言いかけてましたね。何て言うつもりだったんです?」
「ま、待て‼︎ 俺は頼まれただっ‼︎」
次に左太ももの骨を砕いた。
「があああーーー‼︎ 俺の足が‼︎」
「そんな事を言いながら針を刺すチャンスを狙ってる奴に加減する必要はありません」
「クソクソクソクソ‼︎ 話が違うじゃねえか‼︎ こんな化け物なんて聞いてねえぞ‼︎」
「誰に頼まれたのかと、僕の事をどんな風に言ってのかを教えてください」
俺が木刀の先を向けながら言うと、男は顔を赤くして震え出す。
「ふ……」
「何でしょう?」
「ふざけんじゃねえぞ‼︎ 追放されたカスが俺に……ひ‼︎」
俺の身体から殺意が漏れ出す。
秋臣と殺しはしないと約束したが俺は木刀を振り上げる。
視界の端でシスティーゾと鈴 麗華が俺を止めようと動き出しているのや離れたところから俺に向けて何かをしようとしている奴らの気配を感じるものの、速いのは俺が木刀を振り下ろすだから問題はない。
「や、やめろ‼︎ 待て‼︎ 待ってくれ‼︎」
こういうゴミでも俺が本気かどうかわかるみたいで、まともに動けない身体で必死に逃げようとしている。
それにしても骨折や精神的に追い込まれているのが原因だろうが、能力が発動できなくなっているのはどうなんだ?
どんな状況でも能力を使えてこそだろ。
俺は最大限に殺意を込めて木刀を振り下ろし男の頭部に当たる薄皮一枚手前で止めたら、男は自分の頭が割られたと勘違いしたらしく白目を剥き口から泡を出しながら倒れた。
これでこの男はトラウマを抱えただろうから心は死んだみたいなものだ。
これなら秋臣との約束は破っていない……はず。
俺は木刀を消しつつ奥底で眠っている秋臣の様子を探るが、特に気配などの変化はないからフーッと息を吐いて安心する。
そして、気持ちを切り替え襲いかかってきた奴らの後始末をどうするべきか考えるため周りを見ると、中途半端な体勢で俺の方へ手を伸ばしているシスティーゾと鈴 麗華に気づいた。
「二人とも、どうしたんですか?」
「「…………」」
二人からの返事はなかった。
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