第13話
さて、まずはどこに注目するべきだ?
ドンッ‼︎
お、あそこが良さそうだな。
「あれは生徒会第一書記の奈綱 羅魏だったかしら?」
「そうです。奈綱さんの異能力はわかりやすいですね」
「シンプルな肉体強化だが……」
「はい。相手が何かしようとしても一瞬で距離を潰せる瞬発力と地面を陥没させるほどの打撃力をあわせ持てる圧倒的な強化率がすごい」
「彼女と戦ってる相手は、なんとかギリギリ反応できてるようだけど、あの速さと力で攻め立てられたら逆転は難しいわ」
俺の戦い方と似ているが、俺のは歩法と身体操作で奈綱のは能力による強化だ。
どっちが上なのか勝負してみたいと考えていると、奈綱のアッパーカットが相手の顎に命中し相手は空中で何回転もした後、地面にグシャッと落ちて動かなくなる。
すぐに奈綱が相手を運んできたので、相手の顔を見たら完全に顎の骨と歯が砕け白目を剥いていた。
「えっと、奈綱さん、お疲れ様です」
「別に疲れるほど動いてないよ。……良い機会だから言っておく。鶴見 秋臣、私はお前に負けるつもりはないぞ」
「そうですか。僕も負けるつもりはありません」
俺と奈綱の間に火花が散った時、背筋にゾワッと嫌なものを感じる。
「この感じは……」
「斗々皿の奴、遊び始めたな」
奈綱の視線を追ってみると、生徒会会計の斗々皿 詩縞がズボンのポケットに手を入れた状態で立っていて、斗々皿と戦っていただろう相手が必死な顔で全く見当違いなところを攻撃しているのをニヤニヤしながら見ていた。
「何だ、あの状況は? 幻覚でも見せているのか?」
「わからない」
「……どういう意味だ?」
「斗々皿の、あいつの能力を把握しているのは生徒会でも龍造寺のみ…………いや、もしかしたら龍造寺でも斗々皿の能力の詳細はわからないのかもしれない」
「そんな事が有り得るのか?」
「いまだに斗々皿が何を考えているかわからない。それに私達から何か聞いても、あいつはまともに答えた事がない」
俺達の視線に気づいたのか斗々皿は俺達の方を向くと手を振ってくる。
次の瞬間、斗々皿と戦っていた奴が地面に膝と手を着けると自分の額を叩きつけ始めた。
「鈴先輩‼︎」
「わかってるわ‼︎」
鈴 麗華から放たれた冷気が男の周囲に到達すると自傷行為をしないよう氷で拘束する。
「あれあれ? 止めちゃうんだ」
「斗々皿、黙っていろ」
「はいはい、わかったよ」
斗々皿は本当に残念そうだったが、自分の言動が危ないという事も理解しているのか奈綱の警告を素直に受け入れた。
何というか斗々皿を見ていると、前の世界で何度か見た戦いや血に魅了されてしまった奴らのような危なさを感じる。
元々生まれ持った斗々皿本人の性質なのか、それとも何かひどい経験をしたのが原因なのか……。
まあ、何にせよ注意しておくに越した事はない。
「鶴君、俺よりもあっちを見た方が良いんじゃない? 荒ちゃんとか見応えあるよ」
「……そうします」
俺は生徒会第二書記の荒幡 桜へ視線を移した。
「へえ、荒幡さんはムチ使いなんですね」
「状況にもよるけど、生徒会で中距離戦が一番強いのは荒ちゃんさ。そうだよねえ、奈綱ちゃん?」
「否定はしない。桜も生徒会に選ばれるだけの実力を備えている」
「なるほど」
荒幡の戦い方はムチで相手の隙や急所を攻めまくる奈綱に近いゴリゴリの武闘派だ。
しかも、荒幡の能力で作り出されたムチの、高速で振われるたびにグリップ以外の部分の数が変わるという特性は厄介すぎる。
前の世界でも距離や人数の不利を覆せる縄術やムチの熟練者を見た事はあるが、荒幡の場合、相手に叩きつける部分が攻撃のたびに一本から七本の間で増減して相手に慣れるのを許さない。
俺の初任務で補助兼監視役に選ばれたのもよくわかるなと思っていたら、荒幡と戦っていた奴は首から下のあらゆる場所をムチで打たれた事で気絶した。
どう状況でこうなったのかを知っていなければ、完全に大人数からムチ打ちの刑を受けたとしか思えないな。
「ふう、少し時間がかかってしまいました」
「荒幡さん、お疲れ様です。見事なムチさばきでしたよ」
「あはは……、褒めてもらえるのは嬉しいのですが、あまり良いように聞こえませんね」
「気にしなくても良いと思います」
「ありがとうございます。ところで鶴見君は気づいてますよね?」
「ええと、荒幡さんは僕の監視と制圧が役目だという事ですか?」
「その通りです。説明せずにいてすみませんでした」
「いえいえ、警戒するのは当然ですよ」
「そう言ってもらえると肩の力が抜けます」
荒幡はフワッと笑った後に真剣な顔になる。
「模擬戦以外で私のムチを見知った人へ向けたくないので、できれば変な事はしないでください」
「今のところそういう予定は全くないので大丈夫です」
「それなら良かった」
「鶴見」
「何ですか? 奈綱さん」
「お前が何かした場合に、まず戦うのは私だ。覚えておけ」
「羅魏ちゃん、鶴見君の担当は私だよ?」
「桜との戦績がだいたい互角の私が先に戦う事で、鶴見の強さがある程度わかる。私が鶴見に負けたら、鶴見は私の速さと力に勝る何かを持っているという事。その時は桜が切り札含めて全力でやるか二人以上で戦うんだ」
ほお、奈綱は自分を基準にする気か。
ははは、前の世界で俺が新米傭兵だった時に命懸けで勝ちへ導いてくれた部隊長を思い出すぞ。
自分が勝つ事は確かに大事だが、自分の行動で後に続くものの勝率を上げる事も重要だ。
こういう奴がいる組織は強い。
俺にとっては秋臣を守る事が最優先だが、いつか生徒会と正々堂々戦える時がくるのを楽しみにしていよう。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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