第30話
秋臣は流々原先生から治療を受けて全快しつつあるのは喜ばしい事だが、今その喜びは吹き飛んでいる。
まさかシスティーゾと鈴 麗華が敵と刺し違えても勝つという一般人離れの思考をするとは思わなかった。
どうやら俺と関わる内に強くなってきているのは確かだったが、その強さは精神面も揺るがないものにしていたらしい。
今のシスティーゾと鈴 麗華なら異能力を持っていなかったとしても、俺のいた前の世界の戦場でも生き残れるかもしれないな。
だが、今はダメだ。
あいつらは、このまま死んで良い奴らじゃない。
『秋臣、聞こえるか?』
『はい』
『外の様子はわかってるか?』
『何となくですが把握できてます』
『体調はどうだ?』
『動けるようにはなってますね』
『そうか全快じゃないところ悪いが、あいつらのもとへ向かってくれ。秋臣にとってはいろいろと複雑な思いを浮かべる奴らだろうが、俺はシスティーゾと鈴 麗華を死なせたくない。頼む』
『…………わかりました』
『悪いな』
『システィーゾに何も思っていないとは口が裂けても言えませんが、このまま見過ごすのは僕自身も嫌なので気にしないでください。…………え? あれ?』
目を覚ました秋臣は流々原先生の手をどけて起きあがろうとしたものの、どう力を込めても身体を動かせず流々原先生の手も払えなかった。
『鶴見君、…………いえ、この魂の感じ、あなたは秋臣君ね。 まだ治療は終わってないから動くのはダメよ?』
『で、でも、このままだとあの二人が……』―
『麗華とシスティーゾ君の事ならあの子達がすでに救援に出ていて、何より今回はあの子がやる気になっているから大丈夫よ』
秋臣の言葉に流々原先生は微笑んでいて、そんな流々原先生に困惑している秋臣へ答えるよう黒鳥夜 綺寂がはっきりと口にした。
あの子? あの子達?
パチンッ‼︎
俺が一瞬考え込んだ時に何かを弾く音が聞こえて、黒鳥夜 綺寂の自信が納得できた。
…………よくよく思い返してみると俺はあいつらの戦い方を知らないな。
あいつらは異能力図鑑達とどんな風に戦うんだ?
お手並み拝見といこう。
◆◆◆◆◆
パチンッ‼︎
鈴 麗華の氷に埋まり身動きもできず窒息しかけていた俺の耳にこの音が入った瞬間、一気に呼吸と身体の自由を取り戻せたから無理やり大きく息を吸った。
「ヒュア‼︎ ガ、ゴホッ、ガハッ、はー……、はー……、はー……、おい、鈴、生き、てるか?」
「ひゅー……、ひゅー……、ひゅー……、なん、とかね……。あの、二人、は……?」
鈴の言葉にハッとした俺は、最後に異能力図鑑と才歪がいたはずの場所に目を向ける。
すると、そこには確かに二人もいた。
しかも、さらにさっきまでこの場にいなかった奴らが、俺と鈴を異能力図鑑達から隠すように並んでいる。
ぼやけている視界で必死に誰なのか確認しようとにらんでいたら、一人が肩越しに俺達を見てきた。
「二人とも大丈夫か?」
「げ……」
「会長、これは、その……」
「今のところ君達二人の評価は、プラス要素が多い。でも、敵を倒す事に集中するあまり相打ちを仕掛けたのが大きなマイナスだな」
「うぐ……」
「はい……」
俺達の戦いは吾郷学園生徒会長の龍造寺健にバッサリと斬り捨てられたが反論できない。
「刺し違えても倒そうという気概はとても重要。しかし、本当に実行する意味はない。特にすぐにでも俺達生徒会が参戦できる状況なら、倒せないと判断した時点で時間稼ぎに終始するべきだった」
「ほお、これはたいそうなものの言い方であるな。まるで、自分達であれば我輩達をどうにかできると聞こえるぞ?」
「その認識で間違っていないさ。この吾郷学園にわざわざ攻めてきたんだ。俺達生徒会がどういう役割なのか知っているんだろ?」
「吾郷学園生徒会、それは学園長直轄である聖と並び称される絶対的な戦力、だったか?」
「その通り」
「それでは、その絶対的な戦力が戦場に出てくるまでずいぶんと時間をかけた理由を説明してもらおう。まさか、あの少年がこちらの戦力を大幅に削ったおかげで戦いやすくなったから、とは言わんよな?」
「理由は、いくつかある。その中の一つはお前が言った事だな」
「何?」
「絶対的な戦力を投入しても勝てなければ意味はない。鶴見と後ろの二人のおかげで、かなりお前の底が見えたから俺達は出張ってきたんだよ」
…………俺と鈴と違って龍造寺が独断で出てきたはずがねえから、たぶん学園長のばあさんには何か狙いがあるんだろうな。
まあ、良い。
龍造寺が異能力図鑑と会話した時間で呼吸は整った。
鈴を見るとすでに立っていてうなずき返してきたから、それを確認した俺も立ち上がり龍造寺達の間を割って抜け、俺と鈴は再び異能力図鑑と対面する。
「ふむ、相打ちを狙わないと我輩達には勝てないとわかったはずだが?」
「うるせえよ。第二ラウンドだ」
「そうね。負けたままじゃ終われないわ」
「おい、龍造寺」
「何だ?」
「お前らなら俺と鈴が暴れても、それを利用できるよな?」
「囮なり露払いをするから好きにさせろと?」
「何か問題があるか?」
「いや、学園長からお前達を下がらせろとも言われていないし、下手に拘束するのも手間だ。自由にやれ」
「もちろんだ」
「学園長、会長、ありがとうございます」
「「…………」」
異能力図鑑と才歪は俺と鈴の身体から火の粉と雪があふれ出たのを見て、顔を不快気に歪め構えた。
「気に入らないのである」
「…………そんなに格の違いが知りたいの?」
「やってみろ‼︎」
「私達にそこまで差はないわ‼︎」
俺の炎と鈴の氷、異能力図鑑の光線と才歪の最強の伸びる突きがお互いを排除するため放たれる。
始めの数秒は拮抗していたものの、俺の炎は異能力図鑑の光線に飲み込まれていき、鈴の氷は才歪の突きが爆散していく。
俺も鈴も窒息しかけていたから全快の体調じゃないのは確かでも、力を振り絞って抵抗にもなっていないなんて……。
クソ、クソ‼︎
うめいても、力んでも、歯を食いしばっても現状は変わらない。
ただ死が自分の前に現れたと自覚した時、その音は鳴った。
パチンッ‼︎
そして、この音とともに俺の炎、鈴の氷、異能力図鑑の光線はかき消え、才歪の突きは伸びるのをやめ縮んでもとの長さに戻る。
目の前から死が消えた事で緊張の解けたため、俺と鈴は膝をついてしまった。
「はあ、はあ、はあ……」
「うう……」
「おい、アラン=システィーゾ、鈴 麗華。俺は自由にやれと言ったが、負けてこいとは言ってないぞ?」
……くそが、龍造寺や他の生徒会連中に驚いていなかったから、俺達が競り負ける事も予想済みかよ。
確かに勝てなかった相手との競り合いだから負けるのはしょうがないと言えばそれまで。
だが、そんな事認められるか‼︎
隣にいる鈴からも歯を食いしばる音が聞こえるから俺と同じ思いらしく、ほぼ俺と同時に立ち上がり構えた。
「ふむ、格の違いを見せられても気持ちが折れないのは見事の一言。しかし、何度も向かってこようと、それは徒労にしかならないとだけ警告しておこう」
「確かに異能力図鑑の言う通りだな。システィーゾ、鈴、お前達が負け続けるつもりなら俺達生徒会は学園長から任された任務を完了できない。このままだと俺達が前に出る事が最善の選択となるが、どうする?」
「引っ込んでろ‼︎」
「譲る気はありません‼︎」
「そうか、それなら俺はお前達に二つの選択肢を与えよう。一つはさっき俺が言った通り、お前達が引く事。そして、もう一つは今、この場で異能力図鑑と才歪より強くなる事、だ」
「はあ?」
異能力図鑑が何一つ理解できないという声を出していたから、龍造寺が言った暴論に耳を疑ったのは俺だけじゃなかったらしい。
「貴様、正気か?」
「何の事だ?」
「確かに今すぐ我輩と才歪をこえられれば、諸々の問題は解決するだろう。しかし、そんなものは絵に描いた餅にすぎない」
「そうかもな。だが、決めるのはお前じゃない。システィーゾ、鈴、どうする?」
龍造寺の平坦な声が俺と鈴にズンとのしかかり逃げたくなるが、ここでこの場から引いたら今まで積み上げてきたものの意味はなくなり、今後積み上げられる可能性も全てなくなるのはわかった。
しかし、問題なのは、また異能力図鑑達に挑んでも負ける事のがわかりきっている事……。
どうすれば良い……。
俺と鈴が戦いたいのに勝ちたいのに動けなくなっていると、異能力図鑑はため息をつく。
「はあ……。理想論で望みを叶えられるなら、誰も不幸にはならん。そんな事もわからないとは嘆かわしい。所詮は子供にすぎんか」
「異能力図鑑」
「何であるか?」
「お前ごときの常識が正解だと思うのは浅すぎるぞ?」
「…………貴様、我輩を侮辱する気か?」
「単なる事実を言っただけだ。なぜなら俺がこの二人に二言かければ、お前が不可能だと考えた事が実現するからな」
「おもしろい‼︎ やれるものならやってもらおう‼︎」
「後悔するなよ? おい、システィーゾ、鈴、お前らその程度で鶴見 秋臣に勝つつもりだったのか?」
龍造寺が鶴見の名前を言った瞬間、勝つための何かがわからず動き出せなくなっている俺と鈴の頭は真っ白になる。
「確かに異能力図鑑と才歪は強いな。だが、鶴見とどっちが強いんだ?」
真っ白になっている俺達に龍造寺から不愉快な質問が投げかけられた。
「どっちが強いか、だと……?」
「そんなのは決まってる……」
「「強いのは」」
「鶴見だ‼︎」
「鶴見君‼︎」
異能力図鑑と才歪、あいつらが鶴見に勝っているという状況は絶対に認められない。
必ず、必ず消し飛ばしてやる‼︎
そう決意した俺の身体から噴き上がる今までとは比べ物にならないくらいの炎の熱で路面が蒸発していき、鈴の身体からとめどなくあふれる冷気は触れたものを凍結崩壊させていく。
…………ああ、そうだった。
俺達はぐちゃぐちゃ考える必要がなくて、ただただ力を振り絞れば良かったんだよな。
すっきりした俺は炎を全て右手に集中していった。
お、チラッと見たら鈴も俺と同じように冷気を左手に集めているな……って、何だあれは?
「お、おい、鈴、お前の腕、氷になってないか?」
「それはシスティーゾ君の右手も同じよ」
「うえ?」
妙な声を出しながら鈴の目線を追って自分の右手を見ると、俺の腕は皮膚や筋肉はなくなり炎が腕の形にまとまりながらもゆらめいている。
「…………まあ、良いか」
「そうね。重要なのは、腕が変わった事じゃないわ」
「おう。今、大事なのは、この腕がすげえ力を持ってるって事だ」
今、この場での優先順位を確定させている俺と鈴が顔を向けると、異能力図鑑と才歪の表情は引きつっていた。
「へえ、あんだけあった余裕が消えてるな」
「本当だわ。だったら、やる事は一つ」
「「消し飛べ」」
「学園長、周りの保護を‼︎」
俺と鈴が同時に変化した腕を異能力図鑑達の方へ振ったら、龍造寺が焦って叫ぶ。
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