第29話
俺と鈴が炎と氷をぶち込んだわけだが……、 俺の炎と鈴の氷の直撃を受けても、学園長のばあさんに地中から弾き出された岩と土の塊はびくともしなかった。
「チッ、硬えな」
「そうね」
「だったら、火力を上げるだけだ‼︎」
「待って」
「ああ?」
「私があれを壊すから、システィーゾは追撃をして」
「…………できるのか?」
「そう言ったわ」
「ふん、それならやってみろ。できなかったら爆笑してやるよ」
「寝言は寝てから言ってほしいもの、ね‼︎」
鈴は手で路面を叩いて岩と土の塊が路面に落ちる前に塊の真下の路面から極太の氷柱を伸ばしていき、塊を氷柱の中に固定した。
まあ、確かにどんな攻撃を仕掛けるにしても相手を動かなくすれば成功率が上がるのもわかる。
だが、ここから鈴がどうするつもりなのかわからない。
文字通り火力のある俺と合わせず一人で塊を壊すのは難しいはずだぞ。
「おい、鈴」
「…………」
こいつ、俺が呼びかけても無視してやがる。
チッ、黙ってみてろって事か。
良いだろう見ててやるよ‼︎
俺が腕を組み観戦の体勢になった瞬間、俺達が壊そうとしていた岩と土の塊がギギギギギギと軋み始めるという劇的な変化が起きた。
何だ? いったい鈴は何をやった?
俺は急いで状況を確認したら、岩と土の塊の一部だけが白くなっている事と氷柱が少しずつ太くなっている事に気づく。
「あれは、あそこだけが凍ってるのか?」
「その通りよ。私があの塊を氷柱に閉じ込めたのは固定よりも塊の表面を覆って凍らす事が目的だったわ」
「いっせいに冷やして、あそこだけが凍ったのは何でだ?」
「あそこが一番土の割合が多いからね」
「土の中で氷が大きくなってるせいで、この軋む音が鳴ってるんだな」
「もっと正確に言えば、周りから氷柱の圧力をかけられながら塊の表面に差が生まれた事で、異能力図鑑と才歪のいるはずの内部空間が潰れようとしている音よ」
しかも、あの塊の中は冷凍庫よりもさらに冷えていってるはず。
こ、こいつ、結構エグいな。
いや、引いてる場合じゃねえ。
俺はすぐさま気を取り直して構え、掌に炎を圧縮した火球を生み出しいつでも追撃ができるように備えた。
「ふむ、なかなか良い攻撃であるな」
「…………私達じゃながっだらやられでいだわね」
「おらあっ‼︎」
反射的に声の聞こえた方へ火球を発射し炎が炸裂した後に視線を向けると、そこには涼しい顔の異能力図鑑と才歪が立っていた。
「直撃したなら我輩達でも無事ではすまない攻撃だとほめておこう」
「どうやって、そこに移動しやがった?」
「移動? そんなものはしていない。君達の奇襲を避けてからは、ずっとここにいたのだよ」
「うそよ。そこの位置なら私達の制圧攻撃を避けられるわけないわ‼︎」
「空間を纏って全ての攻撃を透過しつつ隠蔽で消えていただけ。簡単な話だろう?」
「それじゃあ、あの岩と土の塊は……?」
「囮としてわかりやすいものだな」
「この野郎……、上等だ。消し飛べ‼︎」
「まあ、待つのである」
「あ?」
俺がさらに炎を放とうとしたら異能力図鑑は掌を向けて止めてきた。
全く意図が読めず警戒しながら鈴を見ると、鈴も俺と同じようにいつでも攻撃できる準備をしている。
…………ふん、罠だとしても喰い破れば良いだけか。
「何だ? まさか、ここまでやっておいて降参するとかいうくだらない事は言わねえよな?」
「言わん言わん。一つ確認したいだけである」
「確認ですって?」
「そうだ。なぜ君達は我輩達の前に出てきたのだ? 犬死になる事はわかりきっているだろう?」
「…………てめえ、俺達を下に見てるのか?」
「それはそうだ。なぜなら戦力という意味で君らはあの少年より劣っている」
「「…………」」
俺と鈴は異能力図鑑の発言にキレて身体から火の粉と雪を出し始めたが、それでも異能力図鑑の顔に焦りの色は浮かばない。
「君らが感情に反応して異能力をあふれさせる精霊級の中でも上位だというのは理解した。しかし、やはりあの少年よりも脅威とは思えんな。才歪、お前はどうであるか?」
「…………同感」
「そもそもあの少年が我輩達と一人で戦っていたのは、我輩に君達の異能力を奪われる危険性を考慮したからのはず。この短時間で我輩の他人から異能力を奪う方法を完璧に把握しているとは思えん。なぜ自分から愚かな選択をとっているのか、ぜひ聞かせてもらいたい」
異能力図鑑が淡々と俺達に質問してくる。
…………イラつくな。
横にいる鈴をチラッと見たら氷像なのかと思えるような冷たい表情をしていた。
どうやら俺以上にキレているらしい。
「あなた達の質問に答える必要性を感じないわ。それと」
「ふむ、それと?」
「鶴見君一人に追い詰められて、全力で時間を稼いで鶴見君を弱体化させるっていう小細工までしたのに、その弱体化した鶴見君にも小細工をしたあなた達に私達の行動をとやかく言われたくないわね。客観的に見たら意気揚々と攻め込んできてグダグダになっているあなた達の方が愚かよ?」
「「…………」」
鈴の容赦ない口撃に今度はあいつらが黙ってピリつき始めた。
「言ってくれるのである。ならばこのまま我輩達に負けて犬死にすると良い」
「クス……、図星を刺されて荒れるなんて小物の見本ね」
「…………侮辱ば許ざない」
さらなる鈴の口撃に我慢のできなくなった才歪が鶴見を傷つけた突きを放とうとしてきたが、すぐに動きを止めて辺りを見回し始める。
「侮辱は許さない、か。本当にその通りね。自分達の目的のために他人を傷つける。異能力者から異能力を奪って侮辱する。そんなあなた達を絶対に許さないわ」
「ほう、どうすると言うのだね? 君達の攻撃は我輩達に効かないのは証明済みだろう?」
「鶴見君に習って私の長所をゴリ押しさせてもらう」
「…………異能力図鑑、待っで。おがじいわ。明らがに空気が冷だぐなっでいで地面にも霜がでぎでいる」
「何? …………これは」
「いくら私達の攻撃を透過できると言っても、あなた達が人である事には変わりない。それならどうとでもなる。こんな風に、ね‼︎」
バキバキバキ、ピキーン。
うおおお‼︎ 鈴の奴、さっきの制圧攻撃の時の十倍以上の氷で俺達の周り以外の辺り一帯を埋め尽くしやがった。
「ふう……、ふう……、ふう……、ふう……、ふう……、ふう……、いくら私の氷を透過できても氷の中で呼吸できるのかしら?」
「本当に鈴の攻撃はエグいな」
「鶴見君が速さで圧倒するなら私は物量よ。それよりシスティーゾ君、追撃を頼むわ」
「ああ、わかっている」
俺が返事をした後、俺達は黙り耳を澄ます。
数十秒が経ち、あいつらがいた場所から離れた場所で破壊音が鳴った。
鶴見ぐらい修羅場を潜っているなら突然息ができなくなっても俺達を倒しに来るんだろうが、常に自分の有利な状況で戦ってきたあいつらにその呼吸よりも俺達を倒すという切り替えができるはずがない。
その証拠にあいつらはまず鈴の氷から抜け出そうとしたみたいだが、あの鈴が肩で息をするくらい振り絞って氷を生み出したんだ、ちょっと走ったくらいで抜け出せるような範囲の氷の量なわけがないだろ。
俺はそう思いながら、あいつらが鈴の氷を壊して作っただろう空間を狙って炎を発生させた。
今度は俺の炎で空気を奪ってやる‼︎
「へえ、離れた場所に炎を出せるようになったのね」
「俺だって成長してるんだよ。……鈴‼︎」
「対応するわ‼︎」
あいつらがいるだろう場所をにらみながら答えていると、突然鈴の氷が溶ける音が近づいてきた。
鈴は俺の呼びかけに反応して氷を圧縮しながら歪みも傷もない氷の板を作り出し、俺達の前に立てる。
その次の瞬間辺りを埋め尽くしている氷を貫いた光線が、鈴の氷の板に当たり空へ反射された。
「あの光線を見た時から考えていたけれど、即席でもやってみるものね」
「あの光線の跡は埋められるか?」
「もう埋め切ったわ。次はどんな事をしてくると思う?」
「鶴見との戦いで見た限りなら重力か大地じゃねえかな」
「うーん、重力みたいな強力な異能力を私達のいる離れた場所に発生させるのも、あの人達がいる場所から私達の場所までを巻き込む広範囲で発生させるのも難しいと思うのよね。それと地中も私の氷で固定できているから使えないはずよ」
「だったら新しい異能力を切ってくるか?」
「それしか考えられないんだけど、それだと全く予想がつかないのよね……」
「考えたところで出たとこ勝負なのは変わらないってわけだな。やってやろうじゃねえか」
俺がそう気合いを入れ直した時、俺と鈴はガクンと体勢を崩し手と膝をついてしまう。
「ぐ、こ、この身体が押し潰される重さは重力の異能力。バカな。あいつらのいる場所からここに発動できるはずが……」
「その推測は的を得ているのである」
「な、てめえ⁉︎ 何でお前らがそこにいやがる⁉︎」
何とか顔を向けると服のボロさが増しているが、ケガらしいケガはしていない異能力図鑑と才歪が立っていた。
「うん? 空間の異能力はあの少年との戦いでも使ったから知っているはずだぞ?」
「で、でも、空間の異能力は相手を閉じ込めたり防御に使うものでしょ⁉︎」
「…………今の使い方が基本。彼方と此方のループは応用みたいなもの」
「そう、離れた場所と場所を繋ぎ距離をゼロにする、これこそが空間の異能力の真価。一瞬で君達の後ろを取る事など造作もない」
「ち、くしょう」
「我輩達に攻撃が効かないと知るや我輩達の呼吸を妨げようした着眼点は見事の一言。しかし、この接近された状況でも同じ事ができるかね? 自分達の首を絞める覚悟があるとは思えないのだよ」
異能力図鑑の発言を聞いた俺と鈴は思わず顔を見合わせて、吹き出してしまった。
「ぶはっ、は、はは、ははははははは‼︎」
「うふふ、あははは」
「な、なぜ笑っている……?」
「あなたの想定の甘さがおかしいのよ。あれだけ鶴見君からやられて、その程度の認識しかできないなら私達の勝ちね」
「…………異能力図鑑、気絶させて‼︎ 早く‼︎」
「う、うむ……」
「遅え‼︎ 鈴‼︎」
「ええ、わかっている、わ‼︎」
次の瞬間、俺達がいる氷のない空間も鈴の氷が埋め尽くした。
ははは、異能力図鑑の驚いた顔が見れて清々したぜ。
ざまあみやがれ‼︎
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