第24話
俺は突然の視界の変化に思わず周りを見渡してみるが、ここは間違いなく奥底だ。
絶対に秋臣の眠っている奥そ……、秋臣?
『秋臣⁉︎』
焦りながらもう一度辺りを見回しても秋臣の姿は、どこにもない。
…………どういう事だ?
突然視界が切り替わったのは秋臣が表に出たせいなのか?
しかし、秋臣は俺の感じた限りそこまで思い切れる状態ではなかったし、そもそも俺が戦っている途中で変わるような考えなしの行動をとる奴でもない。
とにかくわからない事だらけのため表に出ようとしてみたが……。
『…………は? 表に出れない?』
なぜか奥底へと引き戻される妙な手応えに邪魔をされ、奥底から出る事ができなかった。
今の状況を解決できないイライラが大きくなっていく中で、俺は少しでも情報を得るために表の気配を探っていく。
すると奥底にいるせいか表で感じるよりは精度が落ちているものの、今の状況は間違いなくまずいものだと理解できた。
まず表に出ているのは秋臣なのは確かで、その秋臣は突然表へ引きずり出されたために硬直している。
そして最もまずいのは棒立ちになっている秋臣へ、異能力図鑑達が強力な遠距離攻撃をしようとしていた事だ。
『秋臣、動け‼︎』
俺は秋臣への気付け薬代わりと異能力図鑑達を牽制するために殺気を放つ。
…………ふー、俺の殺気を受けて異能力図鑑達が跳び退いたから、なんとか時間を稼げたのは良いとして、このモヤがかかった様なこの感じは何だ?
やりづらい事この上ないが、この間に少しでも状況を良くするとしよう。
『秋臣、俺の声が聞こえるか?』
『は、はい‼︎』
『落ち着け。あいつらに俺達の交代をなるべく気づかせるな。できるだけ俺らしくなる雰囲気で立ってろ』
『え……?』
『あいつらの内の、おそらく異能力図鑑か才歪の異能力で俺と秋臣は入れ替われないようになっている』
『え? え? あ……』
『秋臣、現状はわかったな? ここからはお前が戦う番だから覚悟を決めろ』
『そんな……』
『いつかは表に出ると決めていただろ? そのいつかが今になっただけだ』
『うう……』
…………くそ、表に出るだけならともかく、今の秋臣に実戦は辛いか。
表に出ている秋臣と通じ合えた事で、秋臣の感覚越しに俺が表へ出ていた時の半分ほどの情報量を感じ取れるようになったのは良い事だが、奥底にいる俺にできるのはあくまで戦闘補助のみ。
戦い慣れていない秋臣にどう助言をすれば良い……?
俺が必死に打開策を考えていると異能力図鑑達から俺達を探るような気配を感じた。
『才歪、どういう事だ? お前の異能力で裏返らせたのではないのか?』
『…………私の異能力で心臓が止まっでもおがじぐないぐらい感覚を激減ざぜでいるわ。異能力図鑑があの子の時間を一瞬止めた時に私が触れだのば見でいるでじょ?』
『それは確かに見ていたが、それなら先程の殺気は何なのだ?』
はあ? 時間を止める?
いや、異能力図鑑があれほど準備に時間をかけていたから時間を止めるみたいな必殺級の異能力だったとしてもおかしくないか……。
『要は意識すら止まった状態にされて弱体化されたって事かよ。それで俺は弱り過ぎたから無意識に秋臣と代わって表に出られなくなったわけか。本当に裏返すと言って良いようなものだぞ。くそが、反則だろ……』
『あの、ほぼほぼ予備動作なしで相手を瞬殺できる速さの方が反則だと思いますよ?』
『俺の速さは秋臣の身体でも再現できたから鍛錬すれば誰でもできるようになる可能性はある。だが、あいつらの異能力はあいつらにしかないものだ。どう考えてもあいつらの異能力の方が反則だろ』
『言ってる事はわかりますが納得しづらいです』
『そうか?』
『はい』
こんなところで俺と秋臣の意見が分かれるとは思わなかったな。
『まあ、今この議論をする意味はない。秋臣、わかってるな?』
『…………僕が才歪さんを倒すしかない、ですね』
『そうだ。やれるなら戦って勝て。だが、逃げたいなら逃げろ』
『えっ⁉︎ 良いんですか……?』
『ここまで単独で敵を倒し続けて異能力図鑑達の手札も確認した。さらに黒鳥夜 綺寂達は戦力を温存できたから、戦果としては最上級なはず。誰も文句は言えねえよ』
『……………………そうできたら楽ですね』
『戦うのか?』
『僕にうまくできるかはわかりませんが、やってみます』
『わかった。俺も助言はする。お前は一人じゃない事を忘れるな』
『ありがとうございます』
ドゴンッ‼︎
俺と秋臣がこれからの方針を決めていたら突然響いた破壊音に驚いた秋臣がそちらを見ると、紋綴りが路面に拳を叩きつけていた。
『ぐぢゃぐぢゃ、まような。いのうりょぐずがんのじがんでいじも、ざいびづのうらがえじもあだっだのば、まぢがいない。あどば、ぜめるだげだ‼︎』
『チッ、こういう時にああいう真っ直ぐな奴は厄介だな。秋臣、もう時間がないから大事な事だけ言うぞ』
『はい……』
『俺は秋臣の身体で最速になれた。つまりお前の身体にはそれだけの力がある。自分の身体を信じてうまく使え。そしてそのために、まずは身体を使う事に慣れろ』
『わ、かりました‼︎』
秋臣が気合いを入れたと同時に異能力図鑑達は動き出す。
…………俺の鈍っている感覚を総動員して導き出したのは遠距離攻撃だな。
おそらく、もう一度攻撃して秋臣の反応を確かめるつもりだろう。
『秋臣、また一斉に遠距離攻撃がくるぞ。光線も伸びる突きも瓦礫の投擲も、どれも危険だ。俺が合図を出したらとにかく動け。危ない方向は俺が教えるから一瞬たりとも止まるな』
『はい‼︎』
『…………今だ‼︎ 左へ跳べ‼︎』
『う、わあ⁉︎』
『そのまま円を描くように走れ‼︎』
瓦礫や伸びる突きが絶え間なく飛んできて、さらに光線が数瞬前にいた場所を貫くという災害級の攻撃にさらされた秋臣は必死に走っていた。
よし、動きは悪くない。
それにあいつらの攻撃はまだ秋臣に探りを入れているようなものだから、あいつらが勝負を決めに来ない限りは耐えられるはず。
あとは、秋臣にまだ攻めるだけの力があると警戒させる必要があるな。
『秋臣、少し、いやかなり無茶をするぞ‼︎』
『何をするんですか⁉︎』
『合図をしたら一瞬、足を止めろ‼︎』
『ええ⁉︎ わ、わかりました‼︎』
『…………三、二、一、止まれ‼︎ それですぐに動き出しつつ木刀を右側へ振り上げろ‼︎』
秋臣が歯を食いしばって俺の指示に答えた結果、才歪の伸びてくる突きの一つにかすらせる事ができた。
欲を言えば才歪の指のどこかに当てたかったが、鈍っている俺の指示と戦い慣れていない秋臣ならこれくらいで良い。
その証拠に異能力図鑑達は攻撃を止め才歪の手についたかすり傷を見た後、秋臣へ向ける疑惑の目が強くなる。
『今のは明らかに狙いを持った動きであったな?』
『だが、あいつのうごぎば、まえぼどのばやざじゃない……』
『…………たぶん弱っでいでも、ごれぐらいばでぎるどいう意思表示がじら?』
『はあ……、はあ……、はあ……』
『秋臣、あいつらが話し込んでいる内にできるだけゆっくり大きく呼吸を整えろ』
『は、はぃ……』
『返事は良い。あいつらは俺が見ておくから回復に集中するんだ』
く……、秋臣の消耗が大き過ぎる。
誰でも慣れない事をすれば疲れるのは当たり前ではあるが、やはり慣れない命がけの実戦の消耗は桁が違う。
時間を稼ぎつつ実戦の空気に慣れさせたいと思っていたら、紋綴りが足をもとの状態に戻し今にもつつかみかかってきそうな構えをとった。
『おれがいっで、ばっぎりざぜる。おまえらばみでろ』
『ふむ、それが一番効率的ではあるな』
『…………気をづげで』
『秋臣、いけるか?』
『スー……、ハー……、スー……、ハー……、がんばります』
『ヌオオオオオッ‼︎』
紋綴りは雄叫びをあげながら突進してきたため、すぐに秋臣へある程度引きつけてから避けるよう指示をしようとしたが、それよりも嫌な感じに指示を変更する。
『秋臣、身体をふせてできるだけ丸めろ‼︎』
『え? あ、はい‼︎』
『ガアッ‼︎』
秋臣が俺の指示に応えて身体を路面へ倒した瞬間、紋綴りは全力で路面を蹴り大量の瓦礫を吹き飛ばしてきた。
…………あのままだったら秋臣の上半身は瓦礫でズタズタになっていたはずだから危なかったな。
だが、安心なんて少しもできない。
『秋臣、すぐに右へ跳べ‼︎』
『はいぃい‼︎』
『そのまま転がり、俺が合図したら起き上がって走れ‼︎』
俺は紋綴りが大量の瓦礫で秋臣を伏せさせている間に接近してきたのを感知したため、回避を指示する。
うおっ‼︎ 何とか紋綴りの拳の振り下ろしを避けられたが、秋臣は路面を砕いた時に生まれた爆風で飛ばされてしまった。
まずいまずい‼︎
どうにか体勢を整えないと、このままじゃなぶり殺しになる……。
俺は鈍っている感覚を総動員して状況を把握した結果、うまく身体を捻って足の向ければギリギリで進行方向にある壁に着地できるとわかった。
しかし、その前に深刻な解決しなければならない問題がある。
それは、紋綴りが秋臣の進行方向に回り込んでおり、さらに拳を振りかぶっている事だ。
『秋臣‼︎ 合図したら全力で木刀を振り切れ‼︎』
『わ、かり、ました……』
『じねえぇぇぇ‼︎』
『まだだぞ。…………今だ‼︎』
『ふん‼︎』
カッ、ガキン‼︎
秋臣が振るった木刀は紋綴りの突き出された拳にぶつかり弾かれる。
俺ならこの状態でも紋綴りの拳を斬り裂けるだろうが、今の秋臣の一撃はそれを狙ったわけではなくこの木刀が弾かれた際の衝撃で飛んでいる秋臣の身体を無理やり動かして紋綴りの拳を避けるためだ。
吹き飛ばされた勢いに弾かれた回転が加わるから、体勢を立て直す労力は増えている。
しかし、紋綴りの拳の直撃を受けるよりは数百倍マシだ。
『うわあああ‼︎』
『秋臣、意識を保て‼︎ それと木刀を突き出せ‼︎ 今すぐだ‼︎』
『うわ、お』
『木刀を消せ‼︎』
よし、回転の力で強くなっている秋臣の突きは路面に突き刺さりガクンと秋臣の勢いを激減させる事に成功する。
そしてさらに木刀を消す事で、急激な動きの変化による手首や肘の関節への負担も和らげられたため両手が痺れた程度という軽傷で路面を転がれた。
『あ、ぐうぅ……』
『このまま寝てたいだろうが相手は待ってくれない。少しでも威嚇するためにも立つんだ』
『は……はぃ……』
秋臣の両手は…………痺れがとれて木刀を握れるようになるまで多少は時間が必要だな。
くそ……、やはりこっちから攻撃できない事がとにかく不利としか言えない
手はあると言えばあるが、どうするべきだ?
『やっばり、ざっぎまでのおまえじゃないな。あぎらがによわい』
『…………』
『秋臣、気にするな。俺の補助があるにせよ、お前は生き残れている。それもお前の強さだ』
『ごれなら、おれびどりでじゅうぶんだ』
『…………』
『なにがをがんがえでいるようだが、むだだ。おればおまえをごろぜるが、おまえばおれをごろぜない。ぞれがずべで。いのうりょぐずがん、ざいびづ』
紋綴りは異能力図鑑と才歪へ振り返ると、吾郷学園の方を指差した。
く……、ここに来て今の秋臣を見極められてしまったか。
俺がどうするべきか迷っていると、秋臣の気配が変わった。
『秋臣?』
『使いますね』
『な⁉︎ いや待て‼︎ それを使う事がどういう事なのかわかっているのか⁉︎』
『はい、二つ目の覚悟もできました』
『秋臣……』
『正直に言えば、せっかくあの人達を追い詰めてくれたのに僕が足を引っ張って逆転されているのが悔しいんです。だから、今の僕にできる事を全部やらせてください』
『…………わかった。俺も全力で補助をする。思いっきりやれ』
『ありがとうございます。力を貸してください。葛城ノ剣』
『やれやれ、ようやく我の出番が来たか。主人よ、待ちくたびれだぞ?』
『すみません。僕じゃあなたをうまく使えないとは思います。それでも負けたくないんです』
『我は主人の武器だ。主人の使いたいように使え』
『はい。それじゃあ…………行きます‼︎』
秋臣が一度目を閉じ気合いとともに目を開けると、その手には葛城ノ剣が握られていた。
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