第21話
異能力図鑑、才歪、紋綴りのそれぞれがどのような行動をとり始めたかと言えば、異能力図鑑は手もとの図鑑から今の状況にふさわしいと思う異能力を発動していて、紋綴りは最大強化の状態で俺にあっさりと迎撃された事を考えて身体の強化度合いを抑え始める。
この二人に関しては、まあそういう風に動くだろうという感想しか思い浮かばなかったが、才歪は違う。
左足を前に出して軽く半身になり構え細かくステップを踏む様は一流の打撃系格闘家のようだ。
才歪がここまで格闘特化の戦法を選ぶのは意外そのものだったものの自分の身体能力すらも極端に調整でき、さらに異能力図鑑から手を伸ばせる異能力を付与されているなら何もおかしくないなと納得してしまった。
三人それぞれが最上の選択をし戦意をみなぎらせる事で空気がピンと張りつめていく中、本当なら俺も三人に対抗するように構えるべきなのだろうが、俺は何のためらいもせず散歩のように歩き出した。
「「「…………」」」
よほど俺の行動が意外だったのか三人は一瞬ギョッとしたものの、すぐに乱れた精神を整えたのを見て俺は冷静さというか自制心はあるんだなと三人に感心しながらスタスタ止まる事なく進む。
お、三人の表情がどんどん苦々しげになっている事から、三人は今の状況がチキンレースだと理解しているようだな。
まず、通常ならお互いの距離がどんどん縮まっていても先制できる遠距離攻撃を持つ異能力者の方が有利ではある。
しかし、相手が俺のため話は変わっていて、圧倒的な速さを持つ俺を前に不用意な攻撃をしようとするという事は自分から隙をさらすのと同じ意味だ。
三人はうかつに攻撃はできないが俺の戦闘力をわかっているため俺に近づいてほしくないというこの苦しい状況で、どんな選択肢を選ぶのかお手並み拝見といこう。
「ク……、俺が先に行く‼︎」
「やられ役は任せたぞ」
「…………無駄死にはさせない」
「うおおおおおお‼︎」
覚悟を決めた紋綴りが叫びながら突進してくる。
それだけを見ればさっきまでと同じだが、今回は自分の巨体で俺の視界から異能力図鑑と才歪を隠すように動いていた。
たぶん斬られる事を覚悟して俺の隙を作り異能力図鑑と才歪に攻撃させようとしているらしいので、俺は加速して紋綴りの横を走り抜け異能力図鑑の前に立つ。
そして目を見開き驚いている異能力図鑑の骨をへし折るつもりで木刀を振り下ろしたが……。
「ここで主犯のあなたを無力化できれば良かったのですが、そう簡単にいきませんか」
「「「「「ふー……、油断も隙もないのである」」」」」
俺が木刀を叩き込んだ瞬間、異能力図鑑の身体が溶けるように消え俺を囲むように五人の異能力図鑑が現れた。
さっき発動させた異能力は光の異能力で……、さらに隠蔽の異能力も発動しているから本体の位置はわからないと。
「まずは隠れて僕と戦うための準備を整えようとするのは実にあなたらしいですね。しかし、一度攻略されているものをまた使うのは芸がないのでは? 図鑑の名が泣きますよ?」
「「「「「それは使い方によるというものだ。例えばこのように新たな手札を切れば良い」」」」」
ズン。
五人の異能力図鑑の内、二人が俺へ手を伸ばすと身体に感じる重さが体感で倍くらい増した。
「……重力の異能力ですか。光と隠蔽に合わせて三種類の同時発動とは、なかなか器用ですね」
「「「「「君が速さと戦闘力という理不尽を押し付けてくるなら、我輩も我輩の理不尽を君に押しつけるだけだ。もちろん、我輩以外の理不尽も、だがね。才歪‼︎ 紋綴り‼︎」」」」」
「…………好機は見逃さない」
「ここで決める‼︎」
異能力図鑑の残りの三人は手を伸ばし掌に光球を作り、才歪と紋綴りが走り寄ってくる。
三人の迷いのない仕草から本当に俺を仕留められると思っているらしい。
俺は身体を倒しつつ加速し五人の異能力図鑑へ木刀を打ち込んだ後、全員を視界に入れられる場所へと移動した。
「「「「「「「な⁉︎」」」」」」」
「なるほど、あの場所から移動して体感重量がもとに戻ったという事は、重力の異能力は範囲指定か座標指定みたいですね。ところでこの程度の何が理不尽で、どこが好機なんですか?」
「…………化け物」
「人間じゃねえ……」
「「「「「過小評価したつもりは欠片もないのだが、これでもまだ甘かったとは……」」」」」
才歪と紋綴りに加え再び現れた五人の異能力図鑑も困惑や驚きなどが混じる複雑な表情をしていた。
「それで、どうします?」
「「「「「何?」」」」」
「僕とあなた達の実力差を理解したと思いますが撤退しますか? もちろん僕はあなた達を逃すつもりはありません」
「「「「「く……」」」」」
「…………私達には勝つしか道はない。異能力図鑑、あれをやるべき」
「しかし、あれは……」
「ここまで来て引けないだろが‼︎ さっさと準備しろ‼︎」
異能力図鑑は迷いが生まれたのか厳しい顔で動かなくなる。
しかし、その隙は才歪と紋綴りが動いた事で埋められてしまう。
なるほど異能力図鑑は性格が自分本位の屑でも仲間には恵まれているのは良いとして、「あれ」ね……。
異能力図鑑が使うのをためらうくらいの準備が必要な何かだとしかわからないものの、少なくとも俺の音と色のない世界のように必殺技なんだろうな。
まあ、戦術的には準備を整わせる前に異能力図鑑を無力化させるべきなのだが、俺の前には今まで以上に真剣な顔をしている才歪と紋綴りが立ち塞がっている。
「シッ」
「ガアアアアアッ‼︎」
才歪の手が伸びる事を利用した槍のような突きを何発も繰り出し突きの壁を生み出し、紋綴りは路面や建築物を壊しながら手当たり次第に無数の瓦礫を俺へ飛ばしてくる。
どうやら俺の速さを封じるために面や範囲の攻撃に切り替えたようだ。
俺は避けるよりも正面から全てを斬り捨てて突破し異能力図鑑に接近しようとしたが、その前に頭上から太い光線が落ちてきたため後ろへ跳び退く。
才歪と紋綴りは振り返り、多少のイラつきを込めた目で異能力図鑑をにらむ。
「異能力図鑑‼︎ てめえは、あれの準備に集中しろ‼︎」
「…………手出し無用よ」
「「「「「どれだけ死力を尽くしたところで、お前達だけでは威力も手数も足りない事は明白。それならば我輩も攻撃に加わるべきと判断したまでだ。それと我輩の頭脳を過小評価するのは許さんぞ。この程度の並列処理ごとき完璧にこなせるに決まっているだろう‼︎」」」」」
「ふん、言った以上やり遂げろよ‼︎」
「…………口先だけはカッコ悪いわ」
「「「「「委細承知‼︎ そんな事は当たり前である‼︎」」」」」
さらにやる気をみなぎらせる七人を見ながらも、異能力図鑑が本体の隠蔽、分身の維持、光線での攻撃、空間の歪みによる光線の軌道湾曲に加えて、切り札の準備という五つの処理を同時にこなしている事に驚いている。
俺は突きの壁と無数の瓦礫に降り注ぐ光線を味わいながら、こうまでして準備をやりきろうとする重力の異能力よりもすごいだろう異能力図鑑の切り札とはどんなものだろうかと少しワクワクしてしまった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。
また「面白かった!」、「続きが気になる、読みたい!」、「今後どうなるのっ……!」と思ったら後書きの下の方にある入力欄からのいいね・感想・★での評価・イチオシレビューもお待ちしています。




