第15話
吾郷学園周辺の気配の感知に一時間ほど集中していたが、結局新たな襲撃は起きなかった。
敵が撤退したためなのか、それとも隠れているためなのかわからないから、これはさらに集中力を高めて気配を探っておくべきだなと判断して実行しようとしたが、その前にシスティーゾと鈴 麗華が俺を呼びにきたため時間切れとなる。
とりあえず何が起きても、すぐ動けるよう緊張感を保ちながら学園長室へ向かった。
◆◆◆◆◆
俺を呼びにきたという事は、尋問によってあの老人から聞き出した情報が聞けるんだと思い学園長室の扉を開けて入ろうとしたが、俺は反射的に扉を閉じる。
なぜなら学園長室の扉を開けた瞬間、香仙が床に倒れている老人の顔を踏みつけていて、その踏まれているはずの老人の顔がニチャアと笑っていたからだ。
俺の行動を見たシスティーゾと鈴 麗華から、そうなるのはしょうがないみたいな視線を感じるため俺の見間違いという線はない。
しかし、どう考えても秋臣への悪影響にしかならない光景だったため、その記憶を意識から排除した。
一息つき冷静なった俺は改めて学園長室の扉を開けて中へ入る。
そしてできるだけ忌まわしい記憶のもととなる対象を見ないようにしつつ黒鳥夜 綺寂に近づいていった。
「知りたい情報はわかったのか?」
「え、ええ、そうね」
「それで異能力に干渉できる奴は何人いるんだ?」
「私達の知り得た情報に正しいという保証はないっていう前提で聞いてちょうだい。吾郷学園を襲撃してきたもの達の中で、異能力へ干渉できるものは三人よ。一人目は鶴見君が戦った異能力を強化できる力招く筆の紋綴り。二人目は私達の予想していた異能力を奪い取る通称異能力図鑑。そして最後の三人目が異能力を弱体化させているだろう才歪」
「異能力図鑑に才歪か……。そいつらの異能力の詳細は?」
「そこは、お互いに秘密にしているみたい」
「…………それならこの学園を襲撃した目的は何だったんだ?」
「学園内にいる私を始めとした強力な異能力を手に入れる事らしいわ」
「なるほどな」
詳しい相手の異能力はわからず、それでいて目的は黒鳥夜 綺寂達の異能力か。
俺は少し考えて、これしかないだろうという結論を出す。
「黒鳥夜 綺寂」
「何かしら?」
「学外での敵の迎撃は俺だけでする。お前らは専守防衛に専念してくれ」
はっきりと俺が結論を伝えると学園長室内にいたほとんどの奴が殺気立ったが、これはお前らは足手まといだと言ったに等しいからしょうがない。
「…………理由を聞かせてくれる?」
「理由は三つあって、まず一つ目は敵の目的と思われる強力な異能力を持っているお前らと、敵の接近を避けるためだ。わざわざ敵の目的達成の成功率を上げる必要はないだろう?」
「そうね。二つ目の理由は?」
「一つ目と絡んでくるが、異能力図鑑と才歪の異能力への干渉方法がわからない点だな。不確定な状態で戦ったあげく異能力に干渉されて、こちらの戦力が削られる危険性は避けたい」
「理解したわ。それじゃあ最後の三つ目の理由を聞かせて」
「ああ、三つ目は一番単純で、お前らが異能力を奪われたり弱体化されたら戦えないからだ」
三つ目の理由を言った瞬間、学園長室内の空気がビシッと凍りつく。
「攻めに徹してたらかなりの数の不利を跳ね返す自信はあるが、そこに戦えなくなった奴らの護衛や退避まで加わると、どうしても攻めの効率は落ちる」
「鶴見君の意見は全て正当性があるわ」
「それなら俺一人で戦わせてもらうぞ。俺が敵の数をできるだけ減らすまでは待機しててくれ」
「…………わかったわ」
「学園長‼︎」
「風夏、ここが分水嶺なのは理解できているはず。これ以上、後手の回るわけにはいかないのよ」
「く……、貴様、無様な戦いをしたら殺すぞ」
「誰に言ってやがる。俺は外で警戒してるから学内の迎撃体制を任せるぞ」
入羽 風夏の他にも納得できてない奴らはいるが現状だと言い合う時間がもったいないため、俺は無視をして絶対に香仙と老人を視界に入れないよう細心の注意を払いつつ学園長室へを出て屋上へ戻った。
◆◆◆◆◆
屋上での気配感知を再開してから三十分ほど経過したわけだが、おそらく今のところは異常なしだ。
いつもなら相当集中して探っていれば言い切れるのに、おそらくとかたぶんとしか言えないのは歯がゆいな。
攻められる側の俺達が敵の出方を待たねばならない不利な立場のはわかりきっていても、前の世界の俺なら不眠不休でもある程度は問題なかったが、今の俺は秋臣の身体を借りている状態なので無茶な身体の酷使は避けるべき。
さすがに水分と軽食ぐらいは持ってくるべきだったと思い、トイレ休憩がてら調達しようと腰を上げかけたら屋上の扉を開ける音がした。
この気配は…………龍造寺?
意外な人物の登場に驚きながら視線を向けると、そこには売店の袋を持った龍造寺が歩いてきていた。
「生徒会長のお前が一人とは珍しいな」
「鶴見君と話したい事があったから差し入れついでにね。はい、これ僕の好みで悪いけど飲み物とパンを買ってきたよ」
龍造寺から渡された売店の袋の中を見ると、お茶と水のペットボトルが各一本に菓子パンと惣菜パンが二つずつ入っていた。
「悪い。ちょうど調達しようと思っていたところだ。いくら払えば良い?」
「僕のおごりさ。前衛を張る人への支援物資とでも思ってくれ」
「そういう事なら、ありがたくもらっておく」
俺は袋からお茶と惣菜パンを取り出しそれぞれ口をつけ飲み込んだ後、龍造寺へ話しかける。
「食べながらで悪いが俺に話とは?」
「ああ、うん、そうだね……」
「なんだ。そんなに話しづらい事なのか?」
「そういうわけじゃないんだけど……、いや、でも、いつ襲撃されるかわからない状況でグズグズ引き伸ばしてる場合じゃないか」
「それで?」
「コホン、鶴見君、単刀直入に聞かせてもらうよ。君は敵方の異能力に干渉できるものという発言を聞いた時、僕を疑わなかったのかな?」
「…………質問に質問を返して悪いが、なぜ、そんな事を気にする?」
「鶴見君は秋臣君を守る事を最重要視しているだろ。そんな鶴見君が敵方の言う条件に当てはまる怪しい僕を排除しない理由を聞いておきたいんだ」
龍造寺の顔は真剣そのもので、本当に聞きたい事みたいだな。
「さすがに学内の事なら黒鳥夜 綺寂が見逃さないだろうと言えばわかりやすいか?」
「なるほど学園長が問題ないと判断しているから、僕を敵方じゃないって思ってるのか。ちなみ他の理由もあるのかな?」
「他にか? 強いて言うなら俺の感知範囲内で龍造寺がごく普通の生活をしているからだな」
「逆に言えば、鶴見君の感知範囲で怪しい行動をとったら排除されるんだね」
「それは俺にも当てはまる事だ」
「あ、確かにこの学園を大事にしている学園長ならやるね」
「だろ? だから、お互い守りたいものがあって味方だと思って奴から排除されたくないなら、まじめに、真剣に、本気でやるべき事をやるだけだ」
「あはは、僕の疑問は気にするだけ損する奴だったのか」
「そういうこ……」
「鶴見君?」
俺は龍造寺と話しながらも続けていた感知に微かな違和感を感じたため、俺の影を叩いた。
「黒鳥夜 綺寂、学内にいる全員へ伝えろ。たぶん来るぞ」
『…………私の影には何も反応はないけれど、鶴見君が言うなら来るみたいね。すぐに迎撃体制に移るわ。健も戻ってきて』
「わかりました。鶴見君、武運を祈っているよ」
「おう」
俺は龍造寺を見送った後、食べかけのパンを口に詰め込みお茶で流し込んでから立ち上がる。
そして木刀を出現させながら屋上から飛び降りた。
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