第10話
俺に裏拳を避けられた男は俺を見て一瞬驚いた顔になるものの、すぐに憎々しげな顔に変わり追撃を仕掛けてきた。
まずは大きな踏み込みからの渾身の左中段突き、これは先ほどの裏拳と同じく半歩下がって避ける。
次に男は俺に雑な動きの攻撃は当たらないとわかったのか、速さを重視した細かい突きを繰り出してきた。
ふむ、なかなかな判断力だと思うが俺に通じるほどのものじゃないため、俺はその場から動かずに顔を傾けたり上半身を反らすなどして男の攻撃を無効にしていく。
「く……、ならばっ‼︎」
「攻撃の時に掛け声をするのは下策ですよ?」
「な⁉︎ ぐお‼︎」
男は自分の攻撃をことごとく避けられた事に焦れたのか、狙いを俺の上半身から膝へ変更し前蹴りを放とうとしてきたが、そんな見え見えの攻撃を受ける趣味はないため男の体勢が蹴りに変わった瞬間に一気に跳び、俺の行動が予想外だったせいで反応ができていない男の顔を殴り地面に転がした。
「きゃあ‼︎」
「あ、お騒がせしてすみません。僕は吾郷学園のもので、この人に話を聞くために対応中になります」
「は、はあ……」
「短時間で応援も来るとは思いますし、この人に何もさせるつもりはありませんが安全のために避難をしてください」
突然戦いだした俺達に驚いていた数名の一般人達へ避難を促し見送った後、改めて顔を押さえながら俺をにらんでいる男を観察する。
身長が百八十以上はありそうな筋肉質の巨漢で、髪型は手入れを全くしていないくすんだ金髪のぼさぼさ頭。
きちんと身なりを整えれば良い感じになりそうなのに、服装は黒のタンクトップに迷彩柄のパンツとゴツイブーツと周りから浮きそうな見た目だ。
そして一番はっきりしている事は俺、もしくは秋臣に激しい怒りや憎しみを覚えている事。
しかし、そこに疑問がある。
「あなた、僕に何か恨みや怒りでもあるんですか?」
「…………」
「正直なところ、僕には心当たりがないんです」
異世界出身の俺は当然こいつと関りがないし何なら秋臣の記憶を見てみてもこの男は出てこないから、本当に謎なんだよな。
男は俺の反応が気に入らないのか身体を震わせながら歯を食いしばる音を響かせている。
「恨みだと? 怒りだと? そんなもの当たり前だろうが⁉︎」
「理由を聞いても?」
「これがその理由だ‼︎」
叫びながら男が迷彩柄のパンツについているデカイポケットへ右手を入れ何かを引き抜く動作をすると、その手には見るからに古い筆が握られていた。
筆か……。
外見との差が激しい大人しい異能力だと普通なら思うだろう。
しかし、俺にはあの筆と似たものを知っている。
「ああ、あなたは人じゃないんですね」
「俺は力招く筆の紋綴りだ‼︎」
パッと見は完全に人であるこいつは、禅芭高校の聖域で戦った葛城ノ剣と同じ意志と身体を持つ器物だった。
あの時に出会った宙擦りは自分で描いた絵を実体化させる異能力だったが、まず紋綴りに同じ異能力はないだろう。
自分で力招くと言っているからには強化系の可能性が高いと予想しつつ見ていたら、紋綴りは本体である筆を自分の左腕に触れさせてサラサラと何かを書く動作を始めた。
しかし、俺の位置からでは墨汁や絵の具の線のような何かが書かれているとは見えないため不思議に思っていたら、紋綴りが筆を止めた数瞬後に赤黒い蛇のはっているような線が浮かび上がり、身体を大きくさせていく。
「その赤黒い線は見覚えがあります。なるほど、あなたがあの槍使いの異能力を強化したんですね」
「その通り、だ‼︎」
身体が一回り大きくなっただけあり、紋綴りの動きは速さも力強さも増している。
「おっと」
「がああああああああ‼︎」
おそらく体力も強化されているだろうなと思いつつ、俺が紋綴りの拳を避けたらそのまま途切れのない連撃が始まった。
◆◆◆◆◆
だいたい五分くらいか?
紋綴りの連撃は休む事なく放たれていたが今は止まっている。
なぜなら……。
「はあ……、はあ……、はあ……」
「なかなか良い連撃でした。僕以外の器物級なら、ほとんどは何もできずに倒し切られたと思います」
「はあ……、はあ……、ばけ、ものが……。何を、代償に、その、力を、手に入れた⁉︎」
「何の事です?」
「とぼけるな‼︎ 少し調べたら貴様は本当に落ちこぼれだったとわかる。それにも関わらず、貴様はある時を境に驚異的な戦闘力を発揮し始めたんだぞ‼︎ 我らのような人の器に干渉できる存在から力を渡されたはず‼︎ 言え‼︎ 誰から、何を代償としてその力を手に入れた⁉︎」
こいつ……、やけに感情的になってるな。
それに、我らのような、か。
「そんな事を、どうして気にするんです?」
「俺の仲間達を壊したお前と、その力を渡した奴に報いを受けさせるためだ‼︎」
「なるほど、あなたは復讐者ですか。ただ、その程度の実力では無理では?」
「く……、まだだ‼︎」
紋綴りは叫んだ後、今度は右腕に取り出した本体の筆で紋様を描いていった。
その結果、元々の体格から比べると三回りくらい大きくなっている。
そしてその状態に見合うだけの力や速さを身につけて襲いかかってきたわけだが、俺にとってはさっきよりも楽に紋綴りの連撃を避けていた。
「なぜだ⁉︎ なぜ、当たらない⁉︎ なぜ、避けられる⁉︎」
「体格が大きくなれば、それだけ制御するのも難しくなります。そんな予備動作を全く消せていない雑な攻撃なんて、いくら速くても当てられないですよ。それと……」
ガコンッ‼︎
「がはっ⁉︎」
「あなたがいくら速くなっても僕の方がより速いので意味はないです」
俺は紋綴りの連撃の中で一番大振りで雑な攻撃を仕掛けてきた時、加速しながら跳び逆に紋綴りの顎を右斜め下から掌底で打ち抜いた。
すると脳震盪を起こした人と同じように意識が朦朧となって倒れたため、俺は紋綴りが持っていた紋綴りの本体の筆を取り上げる。
「身体があるからって感覚が身体に引っ張られるのはもったいないですよ? あなた自身が生み出したものなら、いくら痛めつけられても意味がないくらいに感覚を切り離すべきでしたね」
「か……、え、せ……」
「これを壊せばあなたは消えるわけですが、さすがに証言できる存在を始末するのはまずいですね。学園長に渡しましょう」
「お、れに、さわ、るな……」
「さっきからずっと見ているあなた達に言いますが、ここで僕を止めないとあなた達にとって不利になるんじゃないですか?」
俺が紋綴りの本体の筆を観察したながら問いかけると、周りの物陰から俺を取り囲むように五人が出てきた。
…………そういえばこの状況は、禅芭高校の聖域で宙擦りを倒した時と似ているな。
これも縁と言えば縁か?
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