第4話
「「「「「…………」」」」」
流々原先生達の視線が痛い。
この反応を見ると、どうやら俺にも影響力というものがあるらしい。
うん、あるらしいのだが、正直なところ興味を持てないから知るかという感じだ。
「あー……、まあ鶴見が鈍感なのは置いておいてだろ。それよりもだ。婆さん、どうするつもりだ?」
「システィーゾ君、何の事かしら?」
「決まっている。鶴見の扱いについてだ」
「続けて」
「現状、鶴見が狙われているのは間違いないとして、これからも鶴見を聖の任務につけるのか?」
「排除対象の鶴見君が動く事で相手を釣れるかもしれないけれど、それは私の中で最終手段として取っておくつもり」
「…………チッ」
「その様子だと、鶴見君と任務をともにすれば戦えたのに、かしら?」
システィーゾは黒鳥夜 綺寂の指摘が的を得ていたようで黙ってしまった。
というか、どこまでもまっすぐな奴だな。
黒鳥夜 綺寂もそんなシスティーゾを微笑ましそうに見ていたが、次の瞬間には切り替えて組織の長の顔になっている。
「とにかく吾郷学園の方針は、さらなる襲撃を警戒しながらまず聖や他の協力者による情報収集を最優先にするわ。その間、鶴見君は学内待機よ」
「わかった」
「もちろん学内にも聖を配置するつもりだし、鶴見君の護衛として麗華とシスティーゾ君をつけるわ。鶴見君もそこには了承してちょうだい」
「まあしょうがないだろうな」
「言っておくけれど、鶴見君ほどの人材を浮かしておくつもりはないから、学内でできる任務についてもらう予定だから、そのつもりでいて」
「良いだろう。了解した」
「みんなには相手の情報が集まったら知らせるわ。それまではいつ何時襲撃があってもおかしくない事を頭に片隅において各自警戒を忘れないように」
今日のところは、これ以上の進展がないと全員理解しているため、このまま解散となった。
ただ俺が学園長室から出ると同時にシスティーゾと鈴 麗華が俺のすぐ横に並んだ。
「おい、今までの距離感で良いだろうが。さすがにうっとうしいぞ……」
「俺の事は気にするな」
「システィーゾ君、そこは俺じゃなくて私達の事はよ。鶴見君は護衛される側なんだから慣れなさい」
「はあ……」
予想以上にめんどくさいが、鈴 麗華の言う通り慣れるしかないんだろう。
俺達は他の学生や職員から変なものを見る目を向けられつつ歩いて行った。
◆◆◆◆◆
数日が経ったある日の昼、黒鳥夜 綺寂から学内任務が伝えられる。
任務の内容は俺が適任なのかわからないものが一つと、任務達成ができるかよくわからないものが一つだ。
一応黒鳥夜 綺寂に二つ目の任務についてどうなるかまるでわからないと伝えたら、別に構わないと言われてしまう。
よくよく聞くと、どうやら黒鳥夜 綺寂にとっては一つ目の任務を成功させられればそれで良く、二つ目に関しては一、二割の成功を引ければ良いという感じらしい。
そんなので大丈夫なのかと考えつつ、俺はその日の放課後を迎えシスティーゾと鈴 麗華を連れて学園の運動場に来ていた。
そこには今回の学内任務に関わりのあるもの達が数十人集められていて、複数の教官による説明を聞いている。
「…………」
「鶴見、ずいぶんと自信なさげだな」
「初めての事なんだ。当たり前だろ」
「あ? お前は秋臣を鍛えているから初めてじゃないだろ」
「俺と秋臣は感覚や経験なんかを共有していて確認作業に近いから違う。前の世界でも生き残るのに必死で誰かに何かを教えている余裕なんてなかったしな」
「そんなものか」
「そんなものだ」
「ちょっと意外だったかも。でも今回の任務は学園長直々の指名任務なんだから絶対成功させる気持ちでやってもらわないと困るわ」
「わかっている。引き受けた以上は真剣にやるつもりだ。お、時間みたいだから行ってくる」
システィーゾと鈴 麗華の二人と話していたら教官の一人が俺を見てきたため、俺は集まっている奴らの前まで進み出た。
「ええっと、僕の事を知っている人もいるかとは思いますが、まずは自己紹介をしておきます。皆さん、初めまして鶴見 秋臣です。等級は器物級で今回皆さんの教官役を任されました。誰かに教えるというのは初体験なので上手くこなせるかわかりませんが、皆さんにとってできるだけ有意義な時間にしたいと思っています。よろしくお願いします」
秋臣の口調であいさつし頭を下げると、結構大きめの拍手が返ってきた。
俺に影響された他の生徒のやる気が高いとは聞いていたが、ここまでだとは思わなかったなと内心で驚きつつ頭を上げたら無数の目が俺を見ているのに気づく。
キラキラした目、興奮してカッと開いている目、俺を動きを少しも見逃さないようにジッと見てくる目などがあり、気圧されたが気合いで自然体を装う。
…………ふう、よし落ち着いたから、黒鳥夜 綺寂から任された任務である伸び悩む器物級への指導の開始だ。
「それでは始めたいと思いますが……、今回の参加者は何人ですか?」
「三十九人だ」
「なるほど、それでは参加者を三人一組にわけてください」
教官達は俺の指示受けて、テキパキと参加者を振り分けていく。
そして数分でだいたい同じ戦力の十三組ができたため、その内の一組を指名する。
「一組あたり三分で良いでしょう。僕へ攻撃を当てるつもりで来てください」
「え……?」
「どうぞ」
俺が手でかかってくるよう示すが、一組目の三人はお互いの顔を見合うだけで動かない。
このままだと時間が無駄になるため一度下がらせるべきかと考えていたら、教官達が三人へ呼びかけた。
「おい、お前達が何を困惑しているのかは知らんが、少なくともお前達の攻撃が鶴見君に当たる事はないから全力で胸を借りていけ」
「鶴見君は学園長から直々に指名されてこの場にいるんだ。その意味を考えろ」
教官から背中を押された三人は、それぞれの異能力を発言させる。
ふむ、小刀と腕くらいの棍棒と……掌大の鉄球か?
間合いの違うもの同士の組み合わせ、さて、どう来る?
お、小刀持ちと棍棒持ちが走り出し、鉄球持ちは動かず……いや、ジリジリと俺から見て左へ移動しているのを考えると、小刀持ちと棍棒持ちが俺を攻め立て隙を作り、そこへ鉄球持ちが投げてくるといった感じか。
単純だが有効な戦術を選んだ事を評価しつつ、俺は小刀持ちと棍棒持ちの攻撃を最小限の動きで避けていく。
◆◆◆◆◆
「そこまで三分だ‼︎」
「「「はあ……、はあ……」」」
教官から制限時間が過ぎた事を告げられると、三人はガクッと膝をついた。
たった三分でこの消耗具合はおかしいと思い教官へ質問する。
「あの、ここに集まっている皆さんの実戦経験は?」
「ほぼほぼないな」
「そうですか。それなら皆さんの動きを一通り見るのは止めて、絶対に知っておくべき事を説明する方が先ですね」
俺は三人を下がらせた後、全員へ腹に力を入れるように言い準備ができたのを確認してから軽く殺意を放った。
すると、だいたいの奴が青い顔になり後退る。
「今、皆さんが感じているのは僕の軽い殺気です。実戦になれば、これの何十倍も強いものが敵から放たれると思ってください」
参加者の顔が明らかに絶望に染まった。
…………これは本当に大丈夫なのか?
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