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第2話『UpDown』

 あの日出会った運命の人。

 可愛らしい顔つきだからてっきり女の子だと思っていたら、本当は男の子だった。彼女……ううん、彼は岡本君って呼ばれていたな。まさか、三次元にもこんなに可愛い男の子がいるとは思わなかった。

「私服姿だったら、女の子だと思っても仕方ないよね。あの可愛さじゃ……」

「そうだよな」

 出会った日の彼の服装はパンツルックだったけれど、私にはそういう服装をした女の子にしか見えなかった。今だって、男子の制服を着ていることに違和感しか覚えない。

「それにしても、真央ちゃん。あんなに可愛い子が好きになったんだ……」

「……別にいいじゃん。私はか、可愛い方が好きなんだから」

 梓はそのことを知っていると思うんだけれど。それでも、口に出してみると恥ずかしいものがあるな。

「……そういえば、そうだったね」

 そう呟く梓の笑みはどこか寂しそうだった。

「大丈夫。私はずっと梓の親友だから」

「もう、何なの。いきなりそんなことを言ってきて。ちょっと照れちゃうな」

 梓の笑みがいつもの感じに戻った。やっぱり、そうだったんだ。

「さっ、きっとそろそろ先生が来ると思うよ。自分の席に座ろっか」

「そうしよう」

 最初ということもあって、席は端から出席番号順になっているようだ。

 男女混合ということもあって、私の出席番号は一番だった。よって、窓側の一番前の席。うん、なかなかいいじゃないか。

 運命のあの子……岡本君の席は私のいる列の後ろの方だった。これじゃ、授業中に自然な形で彼のことが見られないじゃん。

「つまんないの」

 せめても隣の列の一つ後ろくらいだったら、黒板を向くときにチラ見できるのに。

 あと、運命の彼にも人だかりができていたけれど、彼の後ろに物凄いイケメンの男子が座っていて、女子生徒が黄色い声を挙げながらイケメン君を囲むように立っている。全然興味ねぇ。

 梓も同じ中学出身の女子や、私の見覚えのない女子と話してる。どうやら、さっそく友達ができたみたい。梓も男女問わず人気が高いもんなぁ。

 そして、私は誰にも話しかけられず。でも、決して良いとは思えない目つきで私のことを遠くから見ている奴等はいた。中学で見覚えのある奴が、私のことを危険人物だって吹き込んでいるようだった。見覚えのない生徒が怯えた表情でこっちをちらちらと見ていた。

「ちっ」

 思わず舌打ちをしてしまう。

 何だかさっそく窓側の一番前の席で良かったと思えてしまった。普段、独りぼっちでいる分には最高の席じゃないか。誰の顔も見えないし、適当に窓の外を見ていられる。三階のここから見える景色もなかなか良かった。

「さあ、そろそろオリエンテーションを始めますよ」

 若そうな担任の女性教師がそう言って教室の中に入ってきた。すると、面白いくらいに全員が自分の席へと座っていく。

「皆さん、入学おめでとう」

 その一言からオリエンテーションが始まり、今後の予定や部活のことなどを中心とした連絡事項が伝えられる。

 部活かぁ。最初はどこかに入ろうかと思ったけれど、両親が海外に行っていて家にいないから、部活はせずにバイトをするつもりだ。小遣いくらいは自分で稼がないと。

「それじゃ、早めに終わったから、皆さんに自己紹介して貰おうかしら。本当は明日やる予定だったんだけれど」

 自己紹介の流れになったからか、クラスの中が急に騒がしくなった。

 やっぱり来たよ、自己紹介。高校生活最初の壁になるであろう自己紹介。同じ中学出身の生徒もクラスメイトには何人もいるから、自己紹介が事故紹介になってしまう可能性が非常に高い。

「それじゃ、出席番号順でやりましょうか」

 ですよね! それが自然なやり方ですよね! 安藤って苗字が嫌なのはこういう場面で最初の方に当たっちゃうことなんだよ!

「では、安藤さんから」

「は、はい……」

 短い時間なんだろうけれど、皆の前に出なければいけないのが本当に嫌だ。それでも、ちゃんと前を見ることが礼儀だと思って、下を向くことはしない。

 梓は笑顔で私のことを見てくれているけれど、既に私のことが広まっているのか、警戒した表情で見ている生徒が多い。

 そして、運命の彼……岡本君は柔らかい笑顔をして私のことを見ていた。その笑顔を私だけに見せてくれたら最高なんだけれど、きっとこれが普段の彼なんだろう。


「えっと、安藤真央です。好きなものはロックとコーヒーです。これから一年間、宜しくお願いします」


 このくらいのシンプルさでいいんだ。あと、恐くないアピールもしたかったけれど、どうせ恐いって思われるんだろうから言わなくていいや。

 私はさっさと席に戻った。その時に聞こえたなけなしの拍手がとても寂しく、そしてみっともなく聞こえた。一つだけしっかりとした拍手があったけれど、それはきっと梓からのものだろう。

 自己紹介は順調に進んでいく。何だか、私のときと比べて終わったときの拍手が大きくなってないか。

 そして、順番は岡本君に。彼が私のすぐ側を通り過ぎたとき、何だかいい匂いがした。それは男の子じゃなくて、女の子の匂いに思えた。


岡本由貴おかもとゆきです。女の子と間違われますが、男の子です。ええと、趣味はお茶を淹れることで、茶道部に入りたいなって思っています。これから一年間、宜しくお願いします」


 彼の自己紹介が終わると、これまでで一番の拍手が起こった。

『かわいいー!』

 そんな声が男女問わず聞こえてくる。

 本当に可愛いよ、岡本君。男の子だからこそ、その可愛さにより魅力を感じる。

 最初は男の子だと知ってショックを受けたけれど、よく考えたら男の子で良かったじゃないか。

 結婚ができる!

 子供だって作れる!

 女の子同士だったらできないことが、男の子である岡本君とだったらできるんだ。彼とだったら一緒に幸せになれそうな気がする。直感でもそう思えてしまうほど、私は彼のことが好き……なんだな。

 この恋を成就させたいな。彼と仲良くなって、付き合いたい。そうすれば灰色の高校生活がバラ色に変わるはず。

 彼の自己紹介が終わってからずっとそんなことを考えていた。ううん、妄想していた。梓の自己紹介もろくに聞いていなかった。

 そして、入学初日のオリエンテーションが終わるのであった。

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