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第22話『事後報告』

 午後六時。

 桃花の付き添ってくれたおかげで、安心して自宅に帰ってくることができた。自分の家ってやっぱり落ち着けるな。

 沙織さん達、ホモ・ラブリンスのメンバーに襲われたこと。由貴と梓だけには伝えておくか。

 まずは由貴に電話をかけてみる。彼に電話をかけるのは緊張するけれど、伝えたいことがあったからか不思議と躊躇うことは一切なかった。

『真央。デート楽しかった?』

「途中までは楽しかったんだけれど、実は……襲われかけちゃって」

『えええっ!』

 顔が見えないと、驚いた声がもう女の子にしか思えないんだけれど。

『怪我はなかった? 何かして欲しいことがあれば、僕、真央の家に行くけれど。あっ、でも真央の家の場所知らなかった……』

 電話の向こうであたふたしている様子の由貴の声を聞いて思わずふふっ、と笑ってしまった。

「……ありがとう、由貴。怪我もしていないし、大丈夫だよ。襲われたときはカラオケボックスにいたんだけれど、桃花と小田桐が私のことを助けてくれたんだ。それで、桃花に家まで送ってもらったよ」

『そっか。良かった……』

 その言葉の最後には、ほっとしたであろう大きな呼吸が聞こえた。

『でも、何だか悔しいな』

「悔しい?」

『……うん。真央のために何もできなかったな、と思って。月島さんだっけ。彼女が真央を傷つけるような人だと気付くこともできなかったし』

 沙織さんが私を襲うような悪い人だった、か。その部分についてはちょっと引っかかる部分がある。部屋を出る際に見た彼女の涙の所為で。

 心配するかもしれないとは思っていたけれど、まさか何もできなかったことを悔しいと思うなんて。それが嬉しく思えてしまって。本当に由貴は心優しい男の子なんだな。

「……沙織さんは私を襲おうとしたよ。ただ、それが本心だったか分からないところがあって」

『……そっか。ごめん、真央のバイトの先輩を悪者呼ばわりしちゃって』

「いいよ、気にしないで」

 沙織さんが悪い人だった、と思ってしまっても仕方がない。

 沙織さん自身があのようなことをしようと決断したのか、それとも別の誰かが指示をしたのか。もしそうなら、黒幕は『ばらゆり』なのか。

『じゃあ、もう今日は家から出ない方がいいね』

「そうするよ。それにちょっと疲れちゃったし」

『そっか。何かあったら連絡してきて』

「……うん、ありがとう」

『じゃあ、また月曜日にね』

 そして、由貴の方から通話を切った。好きな人の声を聞いて安心した。

「よし、次は梓かな」

 もう六時を過ぎているから、今日の練習はもう終わっているはず。彼女に電話をかけてみよう。

 梓に電話をかけると彼女がすぐに出てきた。

『真央ちゃん、デートは楽しかった?』

「途中までは楽しかったんだけどね。カラオケボックスで沙織さん達に襲われかけて……」

『えええっ!』

 梓の声があまりに大きかったので、スマートフォンを思わず耳から離してしまう。

「それは大変だよ!」

「うわああっ!」

 振り返るとそこには慌てた表情の梓が立っていた。玄関の音も全く聞こえなかったし、どうすれば一瞬のうちにここまで来られるんだよ、おい。

「真央ちゃん、怪我はなかった? 大事なものを奪われたりしなかった?」

 鬼気迫る表情で訊いてくる今の梓が今日一番恐かったりする。

「怪我もないし、奪われたものもないから」

 むしろ、今着ているワンピースを買ってもらったし。

「か、体の中にあるものとかも……」

「……体の中にあるものが何なのかよく分からないけれど、本当に何も奪われていないから。そこは安心して、梓」

「そっか。それなら良かったよ……って、あれ? そのワンピース……」

「ああ、これ……今日デートした沙織さんが買ってくれたんだよ。バイト中に助けてくれたお礼だって」

「そうなんだ……とっても可愛いね。似合ってるよ」

 さっきの表情から一変して、梓はうっとりとした表情をして私のことを見ている。そういえば、梓が私のことを可愛いって言ってくれるの、随分と無かった気がする。かっこいいとばかり言っていたから。ワンピースってそこまで女子らしく見せてくれるのか。軽く感動してしまった。

「でも、真央ちゃんを襲おうとした人が選んだと思うと複雑だな。自分好みに合わせたかったんじゃないかって思っちゃう」

「……まあ、私も気に入っているし、別に気にしないよ」

 私に似合う服を選んでくれた、と信じているし。

「でも、ちゃんと逃げることができて良かったね」

「ああ。桃花と小田桐のおかげだよ」

「成宮さんと小田桐君……?」

「……うん。襲われた場所がカラオケボックスで。小田桐はそこでバイトしてて。桃花は……偶然だったんだ。一人でカラオケに来ていたんだって」

「そうだったんだ。二人に感謝しなきゃね」

 月曜日にしっかりとお礼を言わないと。二人がいなかったら、今もなお、あのカラオケボックスで沙織さん達に”愛でられて“いたかもしれない。

 そんなことを考えていたら、梓にそっと抱きしめられた。その瞬間に梓らしい甘い匂いと、部活があった所為か汗の匂いを感じる。

「……良かった。真央ちゃんが無事で、本当に良かった……」

 震える声でそう言うと、梓の抱擁は強くなる。

「……今日はもう、ずっと私が側にいる。真央ちゃんを一人にさせたくない」

 その声色からして、梓は悔しさを抱いているように思えた。それは由貴と同じように優しさから来ているんだろう。そんな人が私の知り合いに二人もいるなんて。私は人に恵まれているな。

「……ありがとう、梓。私も一人じゃ不安だから、今夜は泊まっていって」

「……うん。ずっと側にいるからね」

 ようやく顔を上げた時の梓の笑みはとても可愛らしかった。その笑みを見て、思わずキュンとしてしまった。

 それから、私は梓と二人の時間を過ごした。

 梓が側にいてくれることはとても嬉しいし、心強いんだけれど……一緒にお風呂に入ったり、ベッドで寝たりするのはちょっと恥ずかしかった。まあ、梓が物凄く嬉しそうだからいいけれど。

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