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第20話『Date Day-後編-』

 午後二時。

 私と沙織さんは近くのカラオケボックスへと向かう。

「いらっしゃいま……あれ? 安藤じゃないか」

 そう言って私のことを見る店員は小田桐だった。こいつ、ここでバイトをしているのか。確か、こいつってサッカー部に入部していたはずだが。

「今日は部活が休みなんだよ、安藤。そこら辺は上手くやっていくつもりだ」

「……そっか。さすが小田桐って感じだ」

「俺はただやりたいようにやっているだけさ」

 そう言って、小田桐は爽やかな笑みを見せた。こいつの笑顔って営業スマイルじゃなくて地の笑顔に思えるから凄い。

 それよりも、部活とバイトもやって、噂では勉強もかなりできるのだとか。万能という言葉は彼のような人間のことを言うのだと思う。

「この子は真央ちゃんのクラスメイトなの?」

「ええ」

「小田桐蓮といいます」

「そっか。私は月島沙織。真央ちゃんとバイト先の仲間なの」

「そうですか。一瞬、お二人が付き合っていると思いました。安藤は男女問わずに人気があるからな」

 小田桐にも沙織さんと付き合っているように見えているのか。それだけ、お互いに二人の時間を楽しんでいるということなのだろう。

「フリータイムで学生二人。ドリンクバー付きで」

「ありがとうございます」

 そして、料金を割り勘で払おうと思ったんだけれど沙織さんが奢ってくれた。お昼ご飯はちゃんと自分の分は自分で払ったんだが。小田桐がいるからか?

「しかし、安藤が音楽好きだなんて。俺も大好きなんだ。それもあってここでバイトをしようって思ったんだけれど」

「そうなのか。じゃあ、学校でゆっくり話そう。勘だけれど、音楽に関しては小田桐と気が合いそうだから」

「俺も同じことを考えてたよ。今日は月島さんと目一杯カラオケを楽しんで」

「どうも。沙織さん、行きましょう」

「うん」

 私は沙織さんの手を引いて、小田桐から渡された伝票に書かれている番号の部屋へと向かう。

「ここみたいですね」

 中に入ってみると意外と広い。二人で過ごすには十分すぎる。久しぶり来たけれど、前に来たときはこんなに広かったっけ? 

「久しぶりに来たから緊張しちゃってる?」

「ええ。前に来たときよりも広くて驚いてます」

「そっか。二人だから結構広く感じちゃうよね。贅沢しちゃってるかも」

 どう見ても四、五人サイズの広さって感じだからな。まあ、せっかくだし伸び伸びと過ごすことにしよう。

「歌う前に何か飲み物用意しよっか。何が飲みたい?」

「そんな、自分で取りに行きますよ」

「今日くらいは私に甘えてよ。このくらいのこと、むしろしたいくらいなんだし」

「……じゃあ、コーラでお願いします」

「コーラね、分かった。歌いたい曲がもう決まってるなら、もう歌っちゃっていいから」

 そう言うと、沙織さんはコップを二つ持って部屋を出ていった。

 何だか今日は沙織さんに甘えっぱなしだなぁ。沙織さんがこんなにも私のためにしてくれるきっかけは、きっと火曜日に彼女を助けたことだろうと思うけれど、あのことがそんなに彼女にとって嬉しかったのかな。

 けれど、さっきの沙織さんを見ていると、どうもそれだけじゃないような気がする。私には見えない何かが彼女を動かしているような気がするんだ。

「真央ちゃん、コーラ持ってきたよ。……あれ、歌う曲決めてない感じ?」

 沙織さんのことを色々と考えていたら、気付けば彼女が戻ってきていた。目の前にはコーラが並々と入っているコップがあった。

「じゃあ、さっそく一曲歌ってもいいですか?」

「うん。真央ちゃんの歌う姿が楽しみだったんだ」

 そう言って待っていてくれる人がいるのは嬉しいな。

 そして、私は大好きなロックバンドの代表曲を歌った。それは沙織さんも知っているようで時々、歌詞を口ずさんでくれる。

 あぁ、歌を歌うってこんなにも気持ちいいんだな。体から色々なものが発散されていくような感覚だ。体がちょっと暑くなるけれど、この暑さは悪くない。むしろ、気持ちいいくらいで。

 歌い終わったときは爽快感しかなかった。歌った後のコーラが最高に美味しい。これならフリータイムの終了時間までずっといけるような気がする。

「真央ちゃん、凄く上手いね!」

「久しぶりに歌いましたけど、歌うのっていいですね」

「歌うと気持ちが良くなるよね。それにしても、やっぱり真央ちゃんってロックなんだね。そんな感じがしてたんだ。真央ちゃん、かっこいいから」

「ガツンってきて、スピードがあって、気持ちいいんですよね、ロックって」

 ロックをしている人達はきっと、この歌ったときの快感を求めているのかもしれない。カラオケ、はまりそう。

「まあ、アイドルもアニソンも好きですけどね」

「私はそっちの方ばっかりなんだ。アニメタイアップでたまにバンドの曲を聴くけれど」

「そうなんですか。じゃあ、今度は沙織さんが歌ってくださいよ。沙織さんの歌声を聴いてみたいなぁ」

「……うん」

 そして、沙織さんの歌った曲は可愛らしいアイドルソング。沙織さんの声はとても魅力的な可愛らしい声をしていて、もちろん歌は上手だった。

 それから、交互に歌って、時には沙織さんと一緒に歌うこともあって。想像した以上に楽しい時間を過ごすことができている。歌い終わったときは毎度毎度気持ち良くて。

 でも、何でだろう。

 歌っていく度に気持ちよさが強くなっている気がするんだ。それは気持ち的な話だけじゃなくて、体の方も。ふわふわとした感じになってきて。歌い疲れなのか、段々と眠気も襲ってきていて。

「ちょっと休憩してもいいですか……」

 歌い終わって、私はソファーに座る。

 今までに味わったことのない感じだ。視界も少しずつぼやけてきている。気付かない間に疲れが溜まっていたのかな。

「何だか眠そうだね、真央ちゃん」

「すみません。でも、眠くなっちゃって」

「ううん、いいんだよ。きっと、学校もバイトもまだ慣れていないから疲れが溜まっていたのかも」

「ごめんなさい」

「謝らないで。ゆっくりできるのもカラオケボックスの利点だから」

 そう言うと、沙織さんは私のすぐ側に座って、そっと手を重ねた。その温もりに安らぎを覚え、眠気を誘う。

「ねえ、真央ちゃん。私、真央ちゃんに伝えたいことがあるんだ」

 すると、沙織さんはゆっくりと私を跨ぐ形で私と向かい合うように座る。そのことで私の視界は沙織さんに支配される。

 顔にかかる沙織さんの吐息はほんのりと温かくて、柔らかな甘い匂いがした。


「私、真央ちゃんのことが好きなんだ」


 その言葉には驚きもあったけれど、やっぱりという気持ちも確かにあって。でも、驚きの方が断然に強かった。

「真央ちゃんのことが好きなの」

「……ごめんなさい。私には、好きな人が――」

「そんなこと関係ないよ」

 私の言葉を断ち切るかのように、沙織さんは低い声できっぱりと言った。


「真央ちゃんが好きで好きでたまらない。真央ちゃんのことが欲しい……!」


 その瞬間、胸元に柔らかな感触。

「……んっ」

 今の状況を脱しなきゃいけないのに、力が入らない。普段なら沙織さんくらい力尽くで引き離すことができるのに。

「真央ちゃんがぐったりするタイプで良かった。実はね、真央ちゃんのドリンクにお酒をちょっと入れておいたの」

「そ、そんな……ひゃっ」

 胸と内股を沙織さんに触られてる。それが体をびくつかせ、自分でも耳を疑ってしまうような声を漏らしてしまう。

「ふふっ、可愛い声。うっとりした表情をしちゃって。本当は私にこんなことをされて気持ちよくなっているんじゃないかなぁ」

「……いい加減にしないと、沙織さんでも怒りまずよ」

 そして、今出せる精一杯の力で沙織さんを振り切ろうとしたときだった。


「皆、入ってきて」


 その言葉が合図だったようで、外から沙織さんと同じくらいの年齢の女性が数人、部屋の中に入ってきたのだ。

 理由は分からないけれど、この状況で察した。

「まさか、ホモ・ラブリンスなのか……?」

「……その通りだよ、真央ちゃん。私を含めて、ここにいる女の子達はみんな、ホモ・ラブリンスのメンバーなの。そして、あなたのことが気になっている。もちろん、恋愛対象としてね」

「そんな感情を満たすために、こんなことを……!」

 そんなの、やっていいはずがない! 彼女達は、私を使って自分の欲求を満たそうとしているだけじゃないか! 好きっていう感情とは絶対に違う!


「それじゃあ、みんなで真央ちゃんを愛でよっか。私が許可するよ」


 沙織さんを含めてここにいる人達、全員が恐い。

 私はもう彼女達の欲求を満たされる材料にならないといけない運命なの? そんなの、絶対に嫌だよ。

 ――誰か、助けて。 

 その時に真っ先に思い浮かべる顔は、ここにはいない私の好きな人……由貴の顔なのであった。

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