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第11話『バイト』

 四月十二日、日曜日。

 近所のコンビニでバイトをしようと、昨日、面接試験を受けたら二つ返事で採用となった。あまりにもあっさりと採用が決まったので少し不安だけれど、それもきっとこれからの頑張り次第なんだと思う。

 コンビニには色々な人が来るから、梓の忠告通り、何があっても手を出さないように気をつけないと。

 午前九時。スタッフ用の部屋に行くと、そこには店員の制服を着た女性がいた。ワンサイドアップヘアの茶色の髪が特徴的で、結構可愛らしい人だ。私よりは年上だと思うけれど幾つくらいなんだろう。

「あっ、今日から入ったバイトさんだね」

「初めまして、安藤真央といいます。今日から店員として働かせていただくことになりました。宜しくお願いします」

 緊張しながらも精一杯の自己紹介をすると、茶髪の女性はにこりと笑って、

「私は月島沙織つきしまさおり。円加大学の三年。このコンビニで二年くらいアルバイトをやっているの。私が色々と教えてあげるから、これから宜しくね」

「はい、宜しくお願いします、月島さん」

 月島さんが手を差し出してきたので、私はそっと握手を交わす。明るくて気さくそうな方で良かった。梓と重なるところがある。

「安藤さんってこの春に大学生になったの?」

「いえ、この春から高校生になりました」

「えっ! そうなの? いやぁ、スタイルも良いし、しっかりと受け答えをしていたから大学生だと思ってたよ」

「そ、そうですか」

 まあ、私と同じくらいの背丈の女子高生は全然いないからな。月島さんが大学生だと勘違いしてしまうのも仕方ないか。

「制服はここにあるから更衣室で着替えてね。あと、私のことは沙織でいいよ。真央ちゃん」

「……はい、沙織さん」

 私が下の名前を口にすると、沙織さんは嬉しそうに笑っていた。本当に笑顔のよく似合う可愛らしい女性だ。こういう人になりたいな。

 制服を持って、沙織さんの案内で女性用の更衣室へと向かう。

「そういえばさ、真央ちゃん。高校に入学してすぐにバイトを始めるなんて偉いね」

「そうですか?」

「今から始めるなんて、遊びお金がたくさん欲しいとか? お金がかかる趣味とか。もしかして、彼氏とかがいたりするの? でも、真央ちゃんはかっこいいから、彼女かもね」

 着替えている最中だから、矢継ぎ早に訊いてくる沙織さんからの質問に答えられない。やっぱり、高校に入学してすぐに働くのって珍しいのかな。昨日の面接でも店長から軽く訊かれたし。

「ただ、遊ぶ金を自分で稼ぎたいだけですよ。彼氏とか彼女はいません」

「へえ、そうなんだ。偉いなぁ。私は高校の時なんて部活ばっかりで、バイトは全くしなかったよ」

「そういう方が多いと思いますけどね」

 部活で打ち込めることがあるっていうのは羨ましい。高校に入学しても女子テニス部で頑張っている梓のことが眩しく見えるし。高校生らしいっていうか。そういうことを考えている私は高校生らしくないっていうか。

「沙織さん、着替え終わりました」

「似合ってるね。サイズは大丈夫かな」

「はい、これで大丈夫です」

「……じゃあ、さっそく仕事を始めよっか」

「はい、お願いします」

 そして、沙織さんの側についてバイト初日の仕事が始まった。

 沙織さんの横でまずは彼女のやっていることを見て、私も同じようにやってみる。覚えなければいけないこと、心がけるべきことはたくさんあるけれど、できたときの達成感は気持ちがいいな。何よりもお客さんが笑顔で店を出て行くのを見ると、元気を貰える。これが仕事なのかなと初日にして思う。

 そんなこんなであっという間に休憩時間になった。

「うん、真央ちゃんいいね。仕事を覚えるのが早くて」

「沙織さんが分かりやすく教えてくださるおかげです。沙織さんが教育係で本当によかったなって思ってます」

「あははっ、そっか。真央ちゃんが男の子だったら、今の一言できっと恋してたよ。真央ちゃんイケメンだし。女の子のお客さんが真央ちゃんのことを見ていたの、気付いてた?」

「そうだったんですか? やることを覚えるのに必死で……」

 周りのことなんて全然見えていなかったと思う。沙織さんのこと見ているときも、ああいう風にやらなきゃ、って覚えることに必死だったから。

「真央ちゃん目当てで来るお客さんが出てくるかもね」

「そんなことってあるんですかね」

「あると思うけどな。私も一時期、同じ男の人が定期的にこのコンビニに来ていたし」

「なるほど……」

 沙織さんは可愛いから、男の人に人気がありそうだ。ただ、中にはストーカーじみている奴もいるから、そういう人間には気をつけないと。制服を着ているから迂闊に手を出すことはできないし。

「じゃあ、そろそろ再開しよっか」

「はい、分かりました」

 休憩明けも基本的には沙織さんの近くで仕事を行なう。ただ、自分でやってみる場面が段々と増えてきた。分からないことがたくさんあるので、沙織さんに聞きながら何とかこなした。

 そして、今日のバイトの時間がもうそろそろ終わりそうな頃だった。

「真央、ここのコンビニだったんだね」

 振り返ればそこには桃色のワンピース姿の――。

「ゆ、由貴!」

 今日からコンビニでバイトだとはLINEで伝えたけれど、どうしてここが分かったんだ。そして、何よりも訊きたかったのはどうしてワンピース姿なのか。バイト中だから訊けないのが惜しい。物凄く気になる。

「真央ちゃんのお友達かな?」

「はい。岡本由貴といいます」

「私は月島沙織。真央ちゃん、今はお客さんもあまりいないから、ちょっとだけなら彼女と話していいよ」

「ありがとうございます」

 沙織さんはレジの方へと向かっていった。

 そして、周りにお客さんがほとんどいないことを確認してから、由貴の方を見る。

「実は真央がどこで働いているのか気になっちゃったんだ」

「そっか。それよりも私は由貴のその恰好が気になるんだけれど」

「ああ、このワンピースのこと?」

 すると、由貴は一回ターンをする。その姿は可愛い女の子にしか見えない。

「僕、姉と妹がいるんだ。昔からこんな顔だし、体つきも女の子っぽいからお姉ちゃんのお古ばかり着ていて。妹が同じくらいの背丈になったから、この服も実は妹のものなんだ。僕に似合うって着せてくれて」

 妹さんグッジョブ。由貴に物凄く似合ってる。

「……ど、どうかな? 実は真央にこの姿を見て欲しかったんだ。僕、男だけど……こういう可愛い服装を着るのも嫌じゃないから。むしろ、こっちの方が自然体っていうか」

「そうなんだ。私はありだと思うよ。凄く……似合っているし」

 むしろ、学校の制服も女子用の制服を着てもいいんじゃないか、って思うくらいだ。由貴さえ嫌じゃなければ、プライベートでは女性の服装をすればいいと思う。私は大歓迎だけれどな。

 由貴は喜ぶというよりも、ほっとした笑みを浮かべていた。まるで、今まで抱えていた不安が取れたかのような。

「真央がそう言ってくれて嬉しいよ」

「……可愛いところが由貴の魅力の一つだと思っているし。私はそういうところ……す、好きだけれど」

「……う、うん。ありがとう」

 頬を赤くしてはにかむなんて、本当にどれだけ可愛いんだよ。もし、家で二人きりだったら襲ってしまっていたかもしれない。

「真央もその制服、似合ってるよ。可愛いと思う」

「……ありがとう」

「じゃあ、これ以上お仕事の邪魔をしちゃいけないから、スイーツを買ってそろそろ帰るね。バイト頑張って」

「うん、頑張るよ」

「じゃあ、また明日ね」

「うん、また明日」

 由貴はスイーツを一つ購入して、コンビニを出て行った。由貴のワンピース服姿、凄く可愛かったなぁ。

「真央ちゃんと話していた女の子、凄く可愛かったね。由貴ちゃんだったっけ」

「……あの子、男ですよ。可愛いですけど」

「えええっ!」

 まあ、由貴のことを知らない人がさっきの姿を見たら、女の子だって思っても仕方ないよなぁ。というよりも叫び声が店内に響いてますよ、沙織さん。

 由貴のおかげで残りのバイトも頑張ることができた。一生懸命だったこともあってか、本当に時間が過ぎるのが早かった。

 沙織さんっていう頼れる先輩もいるし、ここでなら頑張れそうかな。そう思ったバイト初日なのであった。

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