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第10話『コクハク』

 ――好きなんだ。

 私に向けて、小田桐が確かにそう言ったのだ。それは聞き間違いじゃなかった。

 由貴以外の男子にはこれっぽっちも興味ないんだけれど、こうして真剣に告白されると多少なりと胸がキュンとなるものなんだな。これが異性からの告白というやつ――。


「……岡本のことが」

「……は?」


 何か今、小田桐の口から耳を疑うような言葉が聞こえた気がしたんだが。おかもと、っていう四文字が聞こえたような、聞こえなかったような。聞こえたくなかったような。

「小田桐、あのさ……もう一回、私に同じことを言ってくれないか?」

 確認のために小田桐に問う。

 すると、小田桐は真剣な表情のまま、


「好きなんだ! 岡本のことが!」

「はあああっ!?」


 大きな声で由貴が好きだと告白してきたから、それを畳み掛けるような声で叫んでやった。

「一瞬でもときめいてしまった私の気持ちを返せっ! まったく、他にも言い方があるだろう」

 由貴のことが好きなんだ! って言えばいいものの、どうして何も主語を付けずに言うんだか。

「私に告白したのかと思ったんだからな」

「安藤も十分に魅力的な女の子だけれど、それよりも俺は岡本に恋をしてしまったんだ。あいつ、何もかもが可愛くて」

「そ、そうなのか」

 まさか、ボーイズラブが実際にあるとは思わなかった。まあ、小田桐が言うように由貴は可愛いから、女の子に恋をしているようにしか思えないんだけれど。

「でも、何でそんなことを私に言うんだよ」

「だって、安藤は岡本のことが好きなんだろ?」

「……へっ?」

 由貴が好きなことをさらりと指摘されてしまい、私は思わず間の抜けた声を出してしまう。ま、周りの人に由貴が好きなことがバ、バレてるの? 梓だけだと思っていたんだけれど……。もしかして、由貴にもバレてたりするの?

「いや、岡本には知られてないと思うぞ」

「だ、だって今、お前は言ったじゃないか! 私が由貴のことが好きだって……」

「岡本のことを見る安藤の顔を見たら、すぐに分かったんだよ。香坂を除いては、岡本と話しているときだけ表情が柔らかいからな。その時、俺は岡本のことが好きなんだろうっていうシンパシーを感じたんだ」

 シンパシーねぇ。まあ、同じ相手を好きだと不思議と感じてしまうことがあるのかも。

「……私のことをよく見ているんだな」

「何せ、俺が好きな人と仲良く話しているんだ。気になって仕方ないだろう」

 私には小田桐が由貴のことを好きだとは見えなかったけれど。誰にでも分け隔てなく話しているいい奴としか。思い返せば確かに由貴と話すことは多いように見えたけれど、それは席が近い男子だからとしか思っていなかった。まさか、本当は由貴に恋心を抱いていたなんて。そんなことが想像できるはずもなく。

「私には席の近い男子同士にしか見えなかった」

 思ったことをそのまま口にすると、小田桐はふっ、と笑った。

「……正直なところ、岡本にもそういう風に思われているんだろうな。俺は席が後ろの男子生徒くらいにしか」

「そうかなぁ。お前と話しているときは楽しそうに見えるけれど」

「でも、安藤に比べたらまだまださ」

 その言葉にはとても自信があるようだった。好きな人が関わっていることだ。自分の方が上なんだって言いたくなってしまいそうだけれど、小田桐は違った。

「どうしてそう思うんだよ。私は由貴の後ろの席で羨ましいなって思っているんだ。だって、授業中とか何時でも彼のことを見ていられるじゃないか」

 お金出してでもいいから席替えしてほしいくらいなんだけど。それだけ、由貴の後ろという小田桐の席はとても羨ましかった。

「確かにそうかもな。でも、見えるのは岡本の後ろ姿なんだ。岡本の顔が見えるわけじゃないんだよ」

 小田桐は満足いっていないご様子だ。どんな形でも由貴の姿がいつでも視界に入れておくことのできる幸せさを噛みしめた方がいいと思うんだけどな。

「岡本の周りには男女問わず、たくさんの生徒が取り囲んでいたんだ。その時も岡本は楽しそうだったよ。でも、そんな状況を変えたのは安藤、お前だ。安藤と親しくなってから、岡本はお前の所に行って話す機会が多くなった。その時の岡本は一段と楽しそうなんだ。それが……俺にとっては凄く羨ましくて、悔しいんだよ」

 笑いながら言われる悔しさって、悔しい顔をしながら言われるよりもかなり強く感じる。

 確かに今朝も朝礼が始まるまで、由貴は私の所に来て話していた。皆に囲まれていたことが当たり前だったことが、がらりと変わったんだ。そのきっかけは、きっと私と話し始めたことなんだろう。小田桐もそれを分かっているから、羨ましく、悔しいんだ。

「浮かれていたら、俺が岡本の恋人になる。それを言いたくて、ここに呼び出したんだ」

「……なるほど」

 要するにライバル宣言ってわけか。受けて立とうじゃないか。

「私だって負けるつもりはない。私は由貴と恋人になる未来しか見えてないから」

「……安藤ならそう言うと思ったよ。お互いにフェアにやっていこう」

「当たり前だ。そうじゃないと、由貴が悲しむ」

 由貴に小田桐のことを悪く言うつもりはないし、小田桐が由貴のことを好きであると伝えるつもりもない。想いはやっぱり自分で伝えたいものだから。

「もちろん、岡本に安藤のことを変に言うつもりはない。好きだっていうことも伝えないつもりだ」

「……私も同じことを考えていた」

「そうか。安藤とは気が合うかもな。……あと、やっぱり安藤は悪い奴じゃないな。すぐに暴力を振るう悪女とか言われてたけれど」

「本当に? 暴力女は何度もあるけどなぁ」

 悪女と噂されたのは初めてだ。私の中での悪女は言葉責めをしたり、ネチネチと弄ったりするイメージがある。言葉よりも先に拳が出がちな私には合わないだろう。

「まあ、でも、昨日くらいから実は良い奴なんだ、っていう噂も広まってきているぜ」

「そいつは有り難いよ。悪いことを言われるよりはよっぽど気分がいいから」

「それは誰でもそうだろう。まあ、俺はお前を悪い奴だと思ったことはなかったけれど」

「……どうも」

 さすがはクラスで一番人気が出るだけある。心の広さというか懐の深さというか。小田桐連がどんな人間なのか、ちょっとだけ分かったような気がした。

「俺はそろそろ帰るよ、今日はありがとう」

「気にするな。お前のおかげで今一度、由貴への想いが本気になったから」

「……俺もだ。じゃあ、また月曜日に」

「ああ」

 そして、小田桐はベンチに置いてあったバッグを肩にかけて、ゆっくりとベンチから去っていった。

 それにしても、まさかまた……同性愛を目の当たりにするとは。今度は男同士。小田桐はホモ・ラブリンスに関わっていたりするのだろうか。何で気になってしまうのかねぇ。

「まあ、どちらにせよ、由貴のことが好きな気持ちは変わらないか」

 そして、私が恋のライバルであることも。

 小田桐曰く、今は私の方が優勢らしいけれど、油断をしてはいけない。正々堂々と小田桐と戦おう。そして、由貴とこれまで以上に一緒にいられるようになろう。

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