プロローグ『恋の始まり』
『EN-エン-』
夢中だった。
あなたの困った顔を見た瞬間から、あなたをどうすれば笑顔にできるのか。あなたの手を引いて、どうにかあなたを安心させたくて。
ああ、こんなところが男っぽいって言われるのかな。そんなことを言われるのが嫌だ。けれど、私はかっこいい人か可愛い人のどちらの方が好きなんだ、って訊かれると、可愛い人の方が好き。
「あっ、ここです!」
立ち止まったとき、あなたはとびきりの笑顔を見せてくれた。
「本当にありがとうございます!」
あなたがお礼を言ったときには、あなたに夢中で仕方なかった。こんなに素敵な人に出会うことは二度とない。そこまで言い切れる。
あなたの姿が小さくなっていくと、私の寂しい気持ちは大きくなっていく。道に迷って困っていたあなたをずっと連れ回したかったな。白くて美しい、あなたという百合の花を手放したくなかった。
――あなたとはまた出会うことができますか。
――もう、二度と会えませんか。
――この縁はこれっきりで終わってしまうのですか。
そんな想いが私の体を駆け巡ってゆく。そんな私が今、どんな状態になっているのか、私には心当たりがあった。
ほら、やっぱり。
私は可愛いあなたに恋をする。
四月一日、水曜日。
私、安藤真央が高校生になった日。
それは私の初めての恋が始まった日にもなった。世間ではエイプリルフールなんて言うけれど、あなたに出会ったことと恋をしたことは確かな事実。
念のために頬をつねると少し痛い。でも、心地よく感じた。
「また、会えるといいな……」
その淡い願いが叶うときは来るのだろうか。叶うと思えば、何だかちょっとだけ強くなれた気がしたのであった。




