間違いです、好敵手。
結局、花火大会は、無事に終わった。
他の幼馴染たちは、気を聞かせてくれたのか2部目は見ないで、私たちを置いて先に帰ってくれた。
帰り道は、二人きり。
「さて・・・帰りますか?」
「あぁ、」
先ほどから何か言うたびに返る返事は、二言「あぁ」「うん」「いや」だけだった。
同じマンションに帰るのだから、逃げ道はない。
歩き出した私とあいつの距離は、変わらない2メートル。
「ねぇ、聞いていい?」
「なに?」
「なんで?今までさ、なーんにも無かったよね」
「いや・・・まぁ、・・・」
二言再び。長ーい沈黙が続く。
足は止めない、止められない。後ろに居るあいつの顔を見るのが怖いから・・・。
「・・・・じゃあ、何時から?」
「何時って・・・」
しょうがないと助け舟を出してやれば、そう不思議そうに聞き返す。
「何時、私を好きになったの?言わせんな、恥ずかしいっ!」
「そりゃこっちのセリフだろう!」
結局いつも通りだ。
「はぁ・・・?っ!」
ため息を吐いたらいつの間にか後ろの足音がなかった。急に不安になって振り返って見れば、2メートルあった距離がいつの間にか1メートルになっていた。
道にある街灯の明かりが照らす光をあいつが遮ってて顔がよく見えない。
「・・・中学。」
「へ?」
ぼそりと言われた言葉に反応できなかたのは、普段とは違う距離にいる相手が、そっと手を伸ばしてきたから。
「中2だよ・・・」
「は?っちょ」
慌てて距離を取ろうと後ろに下がった私、孝之の手が降ろされた。
なぜかそれに安心した。
「中2って・・・何年前だと思ってるの?」
「5年、いや6年か?」
そうだ、6年も前からっておかしいじゃないか。何を言ってるのだろうか。
「そう・・だよ。で、急にこんな事したのなんで?」
6年も前からという衝撃的事実を突きつけられてもどこか現実感が湧かない。
まるで少女漫画でも読んでるかの様だ。
「20歳になる前に言いたかった・・・それだけ」
お前は、どんな階段を上ろうとしてるんだっ!
「・・・そっか、」
上手い返しが出来ない。
「で、返事は?」
「・・・・・・っご・・・めん」
なぜか言葉が上手く出て来なかった。
「なんで?って聞いてもいいか?」
この問いにダメという言葉を返せる人間が何人居るだろうか。
『ライバルだからっ』そう正直に応えられたらよかった。
でも私も一応女の子です。だから・・・
「そういう風に見たことなかったの・・・・」
「そういう?」
「恋人とかじゃなくて・・・その友達っていうか、ライバル的な?」
濁して言う。
「そっか・・・」
「うん・・・ってちょっと!!」
私の言葉にいきなりその場にうずくまった180越えの男に慌ててその背に手をそえる。
「俺の事、嫌いってわけじゃない・・・?」
「う・・・うん」
寧ろ男友達の中でぶっちぎりの一番だ。
「俺は、どうすればいい?」
「どうすればって・・・まぁ・・・え?」
「好きなんだよ。どうしても」
「お?・・・は?いや、その」
なにが起きてるのだろう、この男のこんなに情けない姿を見た事がなかったから、どう対処したらいいかわからない。
「今まで、3回お前に告白して、全部スルーなのは望みなしだからか?」
やっと顔を上げた孝之の目が少しだけ潤んでいた。
「何時の間にっ!?」
そんなに告白を受けていたのか・・・私は。
「えっ・・・・」
「っ」
まずった!ここは、そうですと言う処でした。
訂正させてください。
「気づいて・・なかった?」
「・・・・」
そんな事ないと言うタイミングは、潤んだ瞳に奪われる。
「分かってなかったんだなっ!」
そうです。でも間違いです、好敵手さまっ!そんな目で私を見るな!!
気まず過ぎたその場の空気に、脱兎のごとく逃げだしたのは、私です。
私が悪いわけじゃないっ!




