恋、教えましょう。
ちょっと長くなりました。
総勢8人の大所帯。それぞれが決められた出店に行って、目的のものを確保する。
丁度花火が上がるまで30分ほどとなった頃、私たちは、移動を始める。
海岸線を沿うように植えられた雑木林を抜けて、奥へ進むとテトラポットの集団が目の前に広がる。
その左奥に大きなコンクリートの階段があるのだ。
穴場スポットであったそこには、既に私たち以外に数十人の人々が楽しげに夜空を見上げていた。
穴場だったこの場所が穴場でなくなるのは近い。
各々が好きな場所に座って、戦利品を広げてた頃遠くでアナウンスが流れる。
花火大会開始の合図だ。
ひゅーーーーどん!ひゅーひゅーひゅーどん!どん!どん! ばちばちばち・・・
暗闇を彩る光の千花。刹那に咲き誇る美しい花々に人々は感嘆の息を呑む。
光と闇が作り上げる芸術。
ひゅーひゅーどん!どん!
私もそして其処にいた誰もが夢中で夜空を見上げていた。
花火大会は、二部構成になっている。丁度もうそろそろ前半が終わろうとする頃、最初のフィナーレとして連続で花火が上がる前、数分の沈黙と闇が世界を支配したその時、私は聞きなれた声を耳にした。
「なぁ、梨桜・・・好きなんだ」
あまりにも周囲が静かだったから、それは、しっかりと聞こえた。
空耳と誤魔化せないほどに。
そしてその声の持ち主を私は、嫌というほど知っている。
十年以上一緒に居て聞き間違える訳もない。
ずっと上を見上げていた首を勢いよく横に向ける。
そこには、今まで見たことのない表情をした孝之が思ったよりも近くに居た。
さっきまで隣にいた女の子たちはどうした・・・慌てて周囲を見渡せば、遙か後方に何人かの集団がこちらを伺っているのが見えた。
そして悟った、これはたちの悪いいたずらなのだと。
大学生にもなって呆れるがしょうがない。ここは説教だけで許してやろう。
殴るのは、誰がこんなバカないたずらを思いついたか聞き出した後でだ。
「ねぇ、・・・こういういたずらはどうかと思うな。で今回はどんなゲームに負けて誰がこんな罰ゲームを思いついたかしゃべってごらん?怒らないから・・・」
孝之にそう告げれば目の前の真剣な顔から急に目を真ん丸にして私を見た、好敵手は一瞬だけ目を逸らしてもう一度私に告げた。
「違う。マジで・・・」
「だから何が?早く吐かないと殴っちゃうぞ?」
「なっ・・・」
まるで困ったという風に急に下を向いた好敵手は、いきなり立ち上がった。
驚いた私が見上げれば、タイミング良く花火が上がる。
「こっちは、本気で言ってんだ!」
「・・・・え・・?」
前半のフィナーレ、連続で上がる花火の音。シチュエーションだけなら、まるでどっかの少女漫画のようだ。
だから現実感がないのだという冷静な自分がいた。
現実逃避のためか、4か月前の桜の花を思い出してしまうのは、あの後友人たちから言われた『にぶい、天然さん』という言葉が脳内をリピートしてしまっているから。
「お前って、どうしてそうなんだ?わかるだろ、」
「そう?・・・えっと、ごめん。じゃあ、今のって本当の告白?」
「そう」
「本当・・・」
「で、返事は?」
こいつはこういう奴だ。相手を待てない、待たない。
「後で。」
「は?」
この男に、恋愛は向かない。知ってる、誰よりも・・・。
だから教えてやろうじゃないか。
「返事は、後で。こんな場所でいきなり公開告白なんてアホに返す返事なんてない。」
「おいっ!」
「後半は、1時間後だけど、どうする、帰る?居る?私は後半も見てから帰るから、返事を聞きたいなら待ってなさい。」
「なっ・・・」
絶句する幼馴染、これは趣返しだ。
ねぇ、教えてあげるよ、好敵手。
恋は、どういうものなのか。




