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お約束とは破るものです。

さてはて、やっと帰ってしました。

行きと帰りでは格好が違う私たちを生ぬるーい目で出迎えて下さった方々に私は内心で必死に言い訳をしていた。

違いますからね・・別にその・・ただテニスをしてただけです。


「お帰りなさいませ・・・夕食のお時間はどうなさいますか?」


「えっ・・あのその」


「夕食はお風呂の後にしたいので少し遅めでお願いします。」


そつなく応えるこの男がものすっごく大人に見える。

いや、なんていうか、少しだけね。


「わかりました。では7時ごろでよろしいでしょうか?」


「はい」


今現在は、午後の4時だ。


「お前は風呂どうする?」


「えっ・・もちろん、入るけど」


「そう・・んじゃ行くか」


なんだ、その間は。

私間違ってました。この間をもっと考えればよかったのだ。


ーーーー

温泉特有の硫黄の匂いがした。

部屋に戻ってから着替えを手にしてお風呂までの間はそこまで時間が掛からない。

なんというかテンプレートな浴衣を手に私は温泉を楽しもうとしました。えぇ、しましたとも。


「なっ・・なんで」


私が入った脱衣所には既に先客の浴衣があった。

だが、問題はだ、ここが内風呂であって、しかも・・この浴衣の下のジャージは見覚えが在りすぎるのだ。

ついさっきまで見ていたものとまったくと同じデザインです。


「やっぱ知らなかったか・・」


そう後ろから聞こえて慌てて振り返ったのが悪かった。

私の目には黄色人種特有の肌色が見えていてしかもそれなりに鍛えられた胸筋が目の前にあったのだ。


「うえっ””」


「お前さ・・・なんというか、女として致命的に間違った反応だろ。それ」


「うっうるさっい!!叫び声なんて上げるかっ。こんな所であげたら“温泉宿湯けむり殺人事件”が起きちゃうだろうが」


「いや、起きねぇから。っていうかその場合殺されるの俺じゃねぇかっ!」


「うるさいわっ、このセクハラ変態男がっ服を着ろ。服を。」


「いや、ここ脱衣所だしお前が入って来たんだろうが」


「だって・・・・っていうかなんでこんなところにいるのよ、堂々と覗きか!!今すぐ警察呼んでやるから」


持っていたスマホを手にして私はそう言い切るが何故か思いっ切りタオルで殴られました。


「やめろっ!っていうかここ内風呂だからな。俺とお前以外いないんだよ。わかる?」


わかりませんっ!っていうかタオルってこんなに痛いのか。


「痛いわねっ!うち風呂だから何よ!」


「だから、ここに入れるのは俺とお前だけなの。だからお前が風呂入るって言った時から混浴決定だ。」


「はあああああああああ!!なに言ってんのよ。じゃあ私が露天風呂に行けばいいのねっ」


「ばーか。だから、俺達が予約してるのはこのうち風呂付の部屋だよ。だから露天風呂には入れねえの」


「聞いてないっ!!」


誰だ、こんないかがわしいテンプレート展開を用意してた神様はっ!。

そう思いながら、なんとか脱衣所の外へと足を向ければ、大きなため息が吐かれた。


「お前ってさ。抜けてるよな」


「なにか?」


「いや・・ただ言っておくけど俺、今夜お前を抱くぞ?」


「・・・だく・・・ダック・・・タック?」


「わざと間違えるのはいいけど・・嫌なら逃げろよ」


「・・・えっ・・いや逃げるって」


「いい加減俺が男だって自覚しろって事だよ。俺がお前の彼氏だってこともな」


ないです・・・いやマジで。

ほんと・・なんてお約束な展開を用意してくれるのだろうか。

脳内でリピートされる友人たちの言葉。“大人の階段”を思い出して顔が熱くなって。

ないないないない。


「自覚ってねぇ・・・まさかそのためにここを取ったとか言わないでよ?」


「そのまさかだけど」


「どんだけだっ!このラブコメオタクめっ!」


「は?」


マンガみたいな事が起きている。しかもだ、私には逃げる選択肢はほぼないのではないだろうか。

そう思いながらも私は、慌てて部屋に戻る事になった。

今からでも新しい部屋が取れないか直談判に行くまで30秒。

そうラブコメのお約束・・・そんなの破るに決まってるよね。





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