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ええ、負けましたとも。

テニス勝負は、お互いにストレッチと準備運動を終えた後に始まった。

私は久しぶりのテニスに最初はラリーからと言って5分。・・・そう、たった5分のラリーの後に私たちは真剣勝負が始めてしまったのだ。


「だーかーらー、サーブは手を抜けよ!!」


そう叫んだ私のスコアは、0-40です。もちろん私が0だ。

滲む汗が5月の風に吹かれて丁度いいのだが、とてつもなく悔しい。週3でテニスをしてる人間と2年ぶりにラケットを持った人間に勝負が出来るか?・・・言わなくてもわかるでしょ。

さっきから無駄に良いコースにばかりサーブをするこのバカに私はとにかく走らされまくっている。

上がる息を整える暇さえない。


「お前運動不足なんだよ、もっと走れ。だからその太い足が細くなんねぇんだ」


ぶちっという音が私の中で確かに響いた。うん・・だってムカつく。切れましたよ理性の糸が。

いや実際足は太いし、2年前に履いていたスキニージーンズが穿けなくなって久しい最近、運動不足を自覚していたのは確かだけど・・他人・・しかも一応は彼氏にそんな事を言われてムカつかない女は居ない。

えぇ、本気でムカつきました。

やってやろうじゃない。あいつにテニスを教えたのは私の父だけど、最初にテニスを習っていて、あいつよりうまかったのは、私だ。

負けるなんてありえないし。


そう思ってた2時間前の私・・バカ。

本気の勝負が始まっていつの間にか周囲には人だかりができていた。コートの外には、それなりのギャラリーがいる。最後の最後・・黄色のボールに届かなかったラケットを見て私は叫んだ。


「負けた―――――っ!!」「よっしゃあああああ」


同時に好敵手からの雄たけびも上がる。暑い・・熱い・・とにかくあつかった。

上がったままの息を整えようとしていたら、何故か周囲から拍手が上がっている・・気になってそちらに視線をやれば、好敵手様がなぜかさっきまであんなテニスウェアを着てこいと言った相手達に囲まれている。

うん・・かわいいよね。

さわやかな色合いのテニスウェアから除く私とは雲泥の差の細い足としっかりとケアを行き届いている美しい手。

それに比べて、藍色のシンプルなデザインのテニスウェアの私のなんてかわいげの無さ。

二重の意味で負けた感が半端ない。しかも現在は汗だくで化粧もばっちり崩れてる・・ほんと一回汗流したいとそう周囲を見渡せば男の人たちがこっちにやって来た。

ヤバい・・・今は近くに来ないで欲しい。化粧はばっちり崩れてるし慌ててコートサイドに向かいタオルを取った私の後ろから話しかけられる。

そこには私と同じくらいの身長の男の人とめちゃくちゃ身長の高い人が居た。短い黒髪がさわやかで典型体なスポーツマンと茶髪のカラーがキラキラしてるお兄さん。軽そうな感じじゃないからまぁ、いいかとそのまま話す事にする。


「お疲れ、君テニス上手いね」「おつかれー・・君強かったよ」


「負けちゃいましたよ?」


「いや、相手が悪いよ。あれは・・俺達隣のコートでテニス講座してるんだけどさ、ちょっとだけやってみない?もっとうまくなれるよ」


人懐っこい人だなぁと重いながら、そっとタオルで顔を隠しながら様子を伺う。さわやか青年であるし、彼の後ろには彼の生徒であろう女の人たちがこちらをみている、これはちょっとまずいかも。


「いえ・・趣味でやってるだけだし・・まぁ、負けたのは悔しいんですけどね」


「ちょっと見ただけだけど・・もう少し足を開いて動く出しを意識した方がいい。相手の視線もいいけど相手のラケットの角度でボールの飛ぶ場所は判断できるからさ。」


「そうそう・・後ライン際の1メートルでの足の位置取りだな。もう半分歩幅を広くするだけでも届くボールは増えるって」


流石は講師をしているだけであるのか私の問題点を的確に指摘する、プロを目指してるわけじゃないし、なによりも久しぶりの試合で疲れ切った私にとって彼らはちょっとウザイ存在だった。


「はい・・意識して見ます。」


「よーし・・うんじゃ、俺らと試合しない?」


「えっと・・・そのもう今日は」


「いいじゃん、君の彼氏も楽しそうにしてるし」


そう言われてそちらを見れば、女子大生に囲まれて、飲み物まで貰ってる私の・・多分彼氏が居た。いや、別にやきもちなんて・・ね。

いやあ、すっごいかわいい子達だよね。スポーツやってるからスタイル抜群ですし・・。いいなぁ・・あの足。そして細い二の腕。かわいい・・代われ、この野郎。

あっ間違った。脳内一人ツッコミをしながら、私は目の前の人たちに視線を戻した。


「ごめんなさい・・ちょっと疲れちゃったし、汗だくだから」


「あぁ、ならあっちの方に一般の人が着替えとか出来る更衣室があるから・・・持って来てる?」


着がえなら、バックに詰めているので丁度良かったとそっちに視線を映すと何故か私の肩に思いっきり重い何かが置かれた。


「っ!!」


いきなりなんだっと自身の肩を見ると好敵手の練習バックが掛かっている。そのまま勢いよく振り返れば、ものすっごい顔の好敵手と向き合う事になった。

ちなみにこのものすっごい顔というのは別に怒った顔とか不機嫌ではない。今まで見たことがない程の満面の笑みを浮かべた好敵手がそこにいたのだ。


「ちょっ・・・たか・・?」


「俺の彼女なんで・・ほら、負けたんだから罰ゲームな」


あれーなんかめっちゃ怒ってるんだけど。どうしてかしら・・・ここってさ、普通逆だよね?女の人に囲まれて嬉しそうにしてたのあんただよね。

なんでそんな顔してんだ、お前はっ。そう思いながらもここでそれを言ったらヤバいと第6感に感じるのでそれにしたがった。


「っ罰ゲームって?」


「まっそれよりも早く着替えてこいよ、俺も着替えたいし・・いくぞ。じゃ、また誘ってください。」


そう言って引っ張って行かれる私は慌てて自身のカバンを取ろうとしたが、それは孝之が持ってくれたのでそのまま文句を言わずについて行く事になった。

いつの間にか集まっていたギャラリーに一応は軽く会釈をして離れるとそのまま手を振られたり会釈を返されて私達はそのまま500メートルぐらい先の更衣室まで行く事が出来た。


「お前・・なにナンパされてんだよ」


「いや、そっちでしょナンパされてたの」


「違うし、とにかく勝負に勝ったのは俺だから」


「・・・そうですね」


「罰ゲーム楽しみにしとけよ」


「なにさせるきだっ!」


「さぁな。とにかく汗流して着替えてこいよ。俺もそうする。ああ楽しみ」


「・・・・次は負けないから」


今回はね、えぇ、負けました。負けましたともっ!

でもね、次は負けないんだからっ!!



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