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サティって・・本気ですか?

サティ「ジュ・トゥ・ヴ」 お好きな人は多いと思います。

出来ればこちらの曲を聞きながら読んでいただければと思います。


声の主は、私の大好きで大嫌いな奴。



「おいっどこ行ってた?」


嗚呼、さよならが言えない。

でもね、またねを告げる事が出来るようにするから・・今はっ。

走り寄った私を迎える無駄に高い身長の男を前に私はそのまま勢いよくその体に抱きついた。


「っおいっ!!うえわあああ」


思いっきり抱きついたら、勢いが良すぎて2人で倒れ込んだ。

下は、土だし問題ない。


硬い・・・ものすっごく。

痛いっての。

そう文句を心でいながら、私はそっと息をついた。


「おいっ何すんだっ!」


怒鳴り声と共に頭が軽くはたかれる。


「・・・ミュール痛かったの。っていうか、女一人を支えられないってどうなの?」


顔を上げれば、真っ赤な顔の好敵手。

おいおい、純情かっ。

ちょっと驚いたがそれは面に出さず私はそっと離れた。

2人で立ち上がると着ていた服のあっちっこっちに桜の花びらがついている。


それをそっと払っていると何故か頭に暖かなぬくもりがして、撫でられているのが分かった。

驚きながら顔を上げれば、そっと今度は、確かに抱きしめられた。

こいつの家で使ってる柔軟剤の香りがする。

やわらかく優しく・・・恋人見たいに。


「っちょっ・・何?」


「なにじゃねーよ。・・・それはこっちのセリフ」


ヤダヤダ・・・だから幼馴染なんて嫌だ。

隠してもわかってしまう。互いが互いに。


「・・・離せよーセクハラ―」


冗談めかして目の前の胸板を軽くたたく。それでもやっぱり私背中をトントンと宥めるようにするこいつが本当にムカツク。

でもね、好きになりたくない。


「・・・なにがあたんだ?」


耳に心地いい低い声。

いつの間にか高いアルトからテノール・・そしてバスと変わって行く。

大人になって行くこいつがとても嫌いだった。


「聞くなよ・・・・言わないの知ってんでしょ」


「まぁ・・・その意地っ張りな所かわんねぇし・・・顔上げろよ」


さっきまでのせいで肩が震えた。そっと顔を上げれば桜が舞った空がいっぱいで。

そこには間抜けな顔の幼馴染。

だって顔が真っ赤・・・耳も首もだ。

ほんと変なところで純情なんだから・・・わが好敵手様は、少女マンガを読み過ぎた。


面白くって、私は勢いよく立ち上がった。


「ピアノ・・・弾きたいかも・・・」


「なんだよ・・急に」


「ピアノ、弾こう。」


幼馴染と一緒に走り出す。



ーーーーーー


最寄駅から快速で20分の場所。

二人で通ったピアノ教室は、オフィス街の真っただ中にある。

21階まであるそのビルの13階から17階のフロアーを締めている教室、都心まで快速で15分だしそれなりに利便性がいい場所だから、お月謝がとんでもない・・・相場の3倍だ。


気まぐれに訪れるにはあまりにも敷居の高い場所だが・・今は無性にピアノを弾きたかった。

本当に久しぶりに訪れたそこに、手ぶらはまずいと途中でプチケーキを買ってみた。

エレベーターから降りれば、キッズルームの前の受付がある。

そこの受付は、生徒のバイトさんだ。私が中学に上がるちょっと前にやっていたお手伝いというか小遣い稼ぎである。


今日は、後輩であった男の子が受付だったらしい。私と孝之をみた瞬間立ち上がって、迎えてくれた。


「先輩っ・・久しぶりですね」


「おうゴウ久しぶり。」


剛と書いてツヨシじゃなくゴウだと教えられたのを思い出した。

隣の男の信者だ。


「ゴ―――――っ久しぶりっ!!」


細面の顔が狐っぽいので和風の曲を譜面に落とすと必ず弾かせてたら、嫌われた。


「・・・・なんですか、月山さん」


わかりやすーーー。

ツンデレ感半端ない。でも言っとくけどかわいくねぇからね、とこっちも戦闘態勢に入る。

だって私いじめっ子だもん。


「月山さん?・・・おっとそこは様だろう?ツヨシくん?」


「だかーらー俺はゴウですよ。あんたがなんどもアナウンス間違ってくれたおかげで未だにコンクールで間違って呼ばれるんだ・・ヒドいですよね、たか先輩」


「・・・まぁ、で先生は?」


「今空いてる先生は2人ですけど・・もしかして復帰ですか?」


ものすっごく嬉しそうにそう聞く彼に好敵手はいやと切って捨てた。


「なんでっ!去年の夏は完璧に弾いてた癖」


「あれバイトだし」


剛くんは、昔からこの好敵手様のファンだったりする。彼にとってあこがれのピアニストが此奴なのだから。


「・・・悪いけどピアノ貸して?」


「えーーーー1時間3000円です」


「高いわっ!!ラブホじゃないんだから」


そう叫びながら、彼の持つ訪問者の記入欄に名前を書く。元関係者であるのでゆーるーい感じで練習室を借りる事が出来た。

これが、夏休み中や、発表会間近だったりするとできないのだ。

3フロアーのうち練習室があるのは2フロアーだけだ。それなりに広いので23室あって、2部屋だけが大部屋でそこでは3歳児のクラスが合同で練習したりする。


借りたのはW4でWと付く部屋には、ピアノが2台ある。

うちの教室には、グランドピアノが4台、アップライトが20台、電子ピアノが4台、エレクトーンが18台打楽器の一部・・ドラムなどが8台ぐらい。

楽器の修理兼楽器店、楽譜専門店を総合しているので様々な楽器を売っているここでは、様々な人が、楽器を取り扱うまた習える場所となっている。


借りれた練習室に二人で入れば、そこには、アップライトのピアノが並んで2台置かれている。

練習室は、既に夕日が差し込み、まるで別世界にでも入り込んだような、そんな場所となっていた。

上着をぬいで、二人とも慣れた仕草でピアノに向き合う。


「バイトで弾いてから、もう触ってないの?」


防音加工のしっかり聞いた部屋で、私の声は嫌によく響いた。


「いや・・まぁ、ちょっとだけなら触ってるよ。お前もだろう?」


「バレた?」


「たまに聞こえてくるんだよ。お前の家の上が俺の家なんだからわかるだろう?」


「すんませんね、騒音被害出しちゃって」


「まぁな・・・でも、お前のところのはアップだし・・俺とちがって電子じゃねぇからしょうがないだろう」


カバーを外して、ピアノの音を確かめる。


良く響く。


春だからかな。


わざと電気を入れないで、セピア色に染まるそこで弾く。

基本ロマンチストがピアニストだ。

そしてはっきりと言えば、ソリストとはナルシストである。


「理由聞かないの?」


なんで急にこんな所に来たのかとか、いきなりピアノを一緒に弾きたいのかとか・・・なにも聞かない。


「落ち込んだバカにはこれが一番だからな」


そう言っていきなり音が鳴り響く。

ショパンの「子犬のワルツ」・・・・バカにしてんの?

私は子犬ってことか、この野郎とイラつきながらも私は、こいつが弾くワルツに耳を澄ませた。


いつものこいつとは違う、どこかゆったりとして、優しい響きのワルツ。

それでもやっぱり此奴らしい音。

覚えてる所までで・・・音が止まる。


今までたくさんの曲を弾いて来た私達が、そらで覚えている曲は少ない。


お返しに選んだ曲は、ドビュッシー「夢」。

途中が曖昧になってきたので、適当に編曲して終わらせれば、続いて弾かれた曲はリストの名曲「愛の夢」。


本当にムカつく程上手く弾く。

去年の夏から全然腕がなまってない。

・・・お互い様だけど。


途中で視線で合図がされた。


はいはい・・お望みなら・・弾くわ。

ドビュッシー 「亜麻色の髪の乙女」・・好敵手様がお気に入りの曲。


一応覚えていたので最後の一音まで弾いた。その音が消える直前にまた音が紡がれる・・・。


そして次に奏でられたのは・私の思いもよらない曲だった。


サティ「ジュ・トゥ・ヴ」 


あまりの事に驚いて固まった。

意味は・・お前が欲しい。



























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