フラグは折るためにある。
自分の部屋に他人が居る状況にここまで冷や汗を流す日が来ようとは思いもしなかった。
「・・あの・・・マジに」
「いいから、寝ろっ」
そう言われてもこのフラグをどうしたらいいのか。
誰か助けてっーー。
そう叫びたいのをなんとか抑えて私は自室のベッドに腰かけた。
「・・・ピアノ最近弾いてないな」
部屋にあるアップライトのピアノと楽譜がぎゅうぎゅうに詰まった本棚を見て興味深そうに見てそう言う男。
あまり変わらない好敵手につい笑ってしまった。
だが笑ってる場合じゃない。
このまま看病を受けるわけにはいかない、思考回路はショートどころじゃないです。
「あの・・」
「薬は飲んでるし、今は薬効いてるから楽だろうけど夕方から上がるだろう。熱」
的確な予想をしっかりと立ててくれるが、それでどうしろと?
「おばさんは明後日には帰んだろう」
「そうだけど」
「今日俺泊まるな」
だから何のフラグなのっ!!誰でもいいからへし折ってっ!!全力でっ!!
こんなボロボロの状態で好敵手の前に居ることが嫌なのだ。
弱みを見せたくない相手。
絶対に負けたくない相手。
それが目の前にいる。
「泊まるってね、あんたのお母さんは?」
「今日は帰るってメール来てるし、後で来てもらうよ」
おっと・・フラグがなんとかなりそうですよっ!!
「えっ・・」
「夜のシフトじゃないから、多分8時ぐらいだと思うけどな」
折れなかった・・いや折れてほしい。何故そこで期待を裏切った。
「・・・じゃあ」
「氷枕と・・・飲み物は持って来たから。加湿器は?」
「やだ、カビが大変だから」
「お前なぁ・・とにかく寝とけよ・・俺準備してくる」
なんの?・・・信じていいのかわからない相手が目の前に居て、まな板に寝れるコイはいません。
「いいってば、あと着替えるから帰って」
「そうだな、パジャマの方がいいよな」
「そう、だから」
「看病はする、後そんな警戒せんでもいいぞ。今のむくんだぶっさいく顔じゃ俺も反応しないから」
そう言って部屋から出て行く好敵手いや彼氏(仮)。
なんて奴だ・・むくんで・・ぶっさいくだと・・・。
「・・・・治ったら・・覚えてろよ・・・」
絶対殴る。絶対蹴る、絶対謝らせる。
土下座・・・いやスライディング土下座。
ムカつく・・・ムカツク・・・、むかっ!!
イライラしながら、なんとか着替えを済ませると苛立ちのままにキッチンへと私は向かった。
キッチンではびっくりの惨状が繰り広げられていた。
「っちょっ!!」
たくさんの食材と、ナベ、包丁に皿・・にんじん、なす、キャベツ・・卵がコロコロと転がってるテーブル。
「おい、寝とけって」
そう言いながら、スマホ片手にナベを火にかけているこの男に私は叫んだのだった。
「寝られるかあああああああああ」
まな板にも寝ないけど。
コイが大人しいとは限らないのだ。
「おかゆ一つ作れんのかお前はっ!!」
大慌てで火にかけられた鍋に近づくと中は惨状とかしていた。
「ひっ」
何を入れたのか、大体わかるがそれでもとても粥とは思えないモノとなっていた。
そう・・・この男。
外面はそれなりにいいが、生活能力が皆無です。
慌てて鍋を救出して、私は流し台の前に仁王立ちした。
「あんたが座ってなさいっ!!」
鍋と包丁をもった私の剣幕は幼馴染の男を黙って座らせる威力を持っていた。




