きっと君が嫌いです。
ぼやける視界。心配気な瞳が近い・・半年後にこの人を失うのだ。
好きってなんだろう・・・先輩。
「泣き上戸か意外かも・・・吐き気があるならすぐ言えよ、水を飲んでしばらく休んでろ。いいな」
正論な忠告ありがとう。そして私は酔ってない・・・急性アルコール中毒手前なだけだ、あれこれって酔ってる?
「うん」
「あと30分もしたら解散らしいし、2次会には俺いかねぇから帰んぞ」
そう言って当たり前のように触れる手のひら。冷たいそれが心地よいのがまたムカつくわ。
嫌な奴。
つい1月も経たない時には甘酒で失態を犯したバカのくせして、今は当たり前のように私を介抱する男。
「いい子」
慣れた仕草で頭を撫でられた。
ーーーーー
しばらくは喧噪から逃れていた私を現実に戻したのは、数人の女の子だ。
見覚えがありすぎる事が苛立つな・・・。
「どうかした?」
「お酒弱いフリ?」
「いいなぁ、彼氏持ちわ・・しかも近場で手に入れた人はさ」
「医大生のコンパとかあったら教えてよ」
3人か・・・少なくてよかった。
3人とも女子力満載の格好ですね。無地のセーターを無造作に着てダークグレイのジーンズ、胸元があいてるからネックレスだけとテキトーな私と大違い。
「・・・お久しぶりだね」
そう返すと嫌そうに笑う。繕って・・・せめて表面だけでいいから。
「幼馴染さんは彼女になっていいご身分ですね。しかも相手は医者」
いやあいつはまだ医大生であって医者ではないです、そう否定したいが今はもう全て面倒だった。
「あんたってさ、結局なんなの?」
「彼氏じゃない、付き合ってないって言ってたのに」
そりゃ中3の頃から何年たったと思ってます?そう言い返す事もしない。
「ズルいね」「ほんと卑怯よ」「しかもそんなんでだし・・・デブのブス・・」
おお最後は悪口いただきました。お酒の場ですから、全部流してあげるけどね。
彼女たちが私に言いたい事は、わかるが私にどうしろというのだろうか、とにかく全てを受け流して見る。
「もういいわ、行こう」
「あんたの彼氏、この後借りるけどいいわよね?」
「帰れるでしょ」
そう言いながら私から離れていく、そしてその後には私を心配した幼馴染たちがこちらにやってきていた。
今日は厄日で間違いない・・・成人式ってこんなに面倒だっただろうか。
「りーお、二次会いけそう?」
「無理」
即答してうなだれる私を心配気に見つめる数人の友人に私は手を振って応えた。
周囲の倒れた人間も少しずつ回復しているらしい、何とか歩けそうな人間から自主的に帰っているらしい。会場には既に二次会に向けてのハイテンションが構築されつつあった。
「梨桜、送ってく?」
「サンキュ、でもいいの?」
一番仲のいい幼馴染である玲奈が私にそう言ってくれて、私の様子を確認してくれる。彼女は少し特殊な高校に行ってたので既に新人看護師として働いているしっかり者さんだ。
「いいよ・・・ちょっといい?」
そう言われて、再び手首で脈拍を見られて、いくつかの問診を受け体調を測られる。
本当私の周囲は医療関係者の宝庫だ。ありがたいけどちょっと怖い。なぜって?優しさが痛いからだ。
「なんで飲んだの!!、まず飲んで」
口元には既になみなみに注がれた水があった。そのまま有無を言わさず水を飲まされた私は気持ち悪くなりそうなので抵抗をする。
「ちょ・・・もう無理」
「ダメ、血中のアルデヒド濃度を下げないと」
「う・・・休めば」
「はいはい、休む前にトイレね、上からでも下からでもいいから吐け」
いいのかそれで、看護師さん。
優しさが痛い、というより苦しいです、玲奈さま・・・。抵抗虚しくトイレに行かされた私は、上からというか結局お腹の中身をトイレに流す事になった。
すみません、下品で。
とにかく、吐いた事で体力がごっそりなくなった私はそのままぐったりと飲み会会場に戻った。
だが私がふらふらと会場にもどれば、そこには帰りの準備をしてる数人と未だ倒れたままの犠牲者。
「あれ・・・」
「大丈夫か?」
後ろからかけられた声は、言わずもがな好敵手じゃない、彼氏様だ。
「みんなは?」
「2次、カラオケだってよ」
そういいながら、私の上着をわざわざ持って来てくれる。
本当にあんたが嫌いだよ。
彼女になんてなりたくなかった、好きって言ったら負けなんて・・・そう思いたくないよ。
「なんであんたが居るの?」
「一緒に帰るから・・ほら行くぞ」
上着を渡され、ちょっとだけ泣きそうになった。
「泣き上戸・・・ほら泣くなよバーカ」
私の頭を軽く叩く、こいつが・・・好きだ。
「帰るぞ」
そのまま先を歩き出す。その背中を追いかけた。
後半年後は追いかけられない。
好きの先はさよならだ。




