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慣れてます。

過去編 パート2

 次で最後です。

幼馴染とは、面倒事の一括りである。

これは私だけじゃない、世界中の幼馴染を持つ人たちのほとんどがそう感じる経験があるはずだ。


そう、今のように・・・。


「おはよう、孝之。で起きたところ申し訳ないけど熱計って」


「・・・・おう」


反応の悪い相手にさっさと体温計を渡せば、2秒程のラグで受け取られてぼんやりと動き出す。

目の充血、青白い顔色。素人目でも不調が分かる。


「喉は?」


「・・・おう」


「節々痛い?」


「いや」


「頭痛は?」


「ある・・・あとインフルじゃねぇ・・・ワクチンうった」


流石は現役看護師ですね、おば様。簡潔な問診をすれば再びの二言返事。


「今年はB型じゃないの?」


「いや、今のところ・・・ごほっ・・Aの方が主流らしい」


「そう・・・でご診断は?」


薬剤師を目指す私と医者を目指す学生の素人診断ならたとえどんぐりの背比べでも医者の方を取る。


「・・・・・上気道・・・」


ただの風邪を学術名で告げようとするのでそこは止めて、持ってきていたアイスノンを渡すと嫌そうに受け取りそっと体温計と逆の脇に挟む。


「風邪でしょう・・・・でおばさんは?」


「夜勤がずれたって今朝言われた」


「あっそう・・・じゃあ今夜は無理か・・・」


ぴぴぴぴぴ・・・

体温計が鳴ったのでそれを確認するために手を出せば、素直に渡してくれるので今回は問題がなかったらしい。これが本当にやばい時なんて表示を私に見せないで消す意地っ張りな男なのだ。


「38.7度ですか・・・解熱剤わ?」


「飲んでない・・・飲もうとして探してたら寝てた」


「そう・・・じゃあ探してみますか」


幼馴染の家の救急箱は普通の家庭の3倍以上ある。看護師の母親が常備薬だけはたくさん用意してくれているらしいのだがそれが量が多すぎて必要な薬を見つけ出すのが一苦労なのだ。


「ロキソでいい?」


「いや・・・アセトで」


「アセトアミノフェンっかよ・・・それよりもさ」


二人で解熱用の薬について談義するが結局本人が飲みたいというものを探してやると見つかったそれを嬉しそうに受け取る。

慣れすぎたやり取りが終わり、私は一度キッチンに向かった。鍋にかけていたおかゆの状態を確認するためだ。


鍋の中に揺れる白い米、それなりに会話も出来るので粥は7分ぐらいにしようと慌てて来てみればそれなりに煮込まれていたそれに塩と卵をおとす。

数分中火に煮込めば完成だと計算して茶碗を用意していれば、後ろからぱたぱたという音が響いた。


「寝ときなよ・・・」


「粥に・・・毒いれんなよ?」


「ふり?ふりなの・・・入れて欲しいなら何かいれようか?」


「やめて・・マジ・・今やられると死ぬから」


「そう・・・部屋行って寝なよ、持ってくから」


「今、俺の部屋のエアコン壊れてて最近リビングで寝てんだよ」


「おい・・・風邪って」


「いや、昨日の雨」


「余計悪いわっ!!」


昨夜、みぞれ混じりの雨が降っていたがそれに濡れて風邪をひいたという自己申告を受け呆れながらも出来上がった粥をよそる。

ほんと他人の家でなんでこんな事してるのだろうと自分でも疑問に感じながら、キッチンダイニングにぐずぐず鼻水たらしながら座るクマにエサという名の粥を与えた。


「・・・・・なんか質素」


「・・・文句が?」


「いいえ」


渋々という体で食べ始める幼馴染に私は持って来たリンゴをむき出す。

おかゆの食べぶりからで予想していたよりも体調は悪くないのだと判断出来たので少し安心したのだが、そんな自分を悟られたくない。


リンゴは久方振りにうさぎちゃんリンゴにしてみた。もちろん嫌がらせだ。


「はい・・・これ」


「りんご・・いやなんで兎なんだよ」


「えっわざわざ救援要請に来てやった幼馴染にその態度?」


「兎リンゴとの関係は?」


「私の趣味。しかもちゃんとゴマまでつけて顔もわかる力作ですぜ」


「・・・・・」


「この耳が曲がったのが長男のうさ太郎で好奇心旺盛はっちゃけタイプ、この他のより大きいのが長女のうさ子左目がウインクしてるの。でこの目が」


「それ以上はいいからっ!ごほっごほっ」


そういいながら咳をするので慌てて水を用意する。好敵手の趣味はテニスだ、それ用のスポーツドリンクが冷蔵庫にあるのだからそれを渡せばよかったと気づいたのは彼が私が渡した水を飲み終えた後だった。


「薬飲んだ?」


「おう・・・お前もういいから」


「・・・・はいはい」


折角の救援でさえ、食事を渡してやればさっさと帰れと言われるのだ。

そう、こいつは意地っ張りの問題児。

私の幼馴染は、それでいて寂しがり屋だと私だけは知ってる・・・しょうがないと諦める。


「さんきゅ・・・礼は後で」


「はいはい・・・熱上がったら連絡して・・・すぐ来る」


「おう・・死にそうになったら夜間に行く」


「当直中のおば様に診てもらってね」


「・・・・・・死んでも夜間には行かん」


軽い言い合いのさなか、薬をしっかり飲んだのを確認して私は席を立つ。そのまま玄関へと向かうと意地をはる男に私はそう言って玄関の扉に手をかけた。


「ばーーーか・・・あったかくして寝てろよ、1時間ごとには水のんで、2時間たったら熱の経過だけメールしろよ」


慣れた言い合いを終えて、ドアを開けて私はここで一度家に戻る。


15分後にはここに戻るために準備して・・・今夜は寒いし、湯たんぽと編み掛けのマフラーとみかんを装備して読み掛けの小説も一緒に持って来て・・・。

言い訳は、借りてたゲームで夜通し対戦だなぁと母親への言い訳も考えながら私は階段を下りた。


意地っ張りな幼馴染を持つと苦労するのだ。

まっ慣れてるけどね。







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