昔からのお約束です。
過去編ですので一気にいきます。
一年前の大みそか・・・私は目の前の男の家に居た。
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「たかー・・生きてる?」
玄関のインターホンを鳴らしても無反応でノックを数回するとそのドアの冷たさに指が凍るかと思った。
そんな12月31日の夕方5時。
昨年の今ごろは、互いが受験勉強に勤しんでいたが、二人とも浪人とはならなかったので今年の冬は平和だった。
つい7日前にはお誕生日プレゼントとして、好物のチーズケーキとカシミア風の手袋を渡した相手は現在瀕死らしい。
突然のメール、内容は たった一言。『ちょっと来てくら』
誤字がまるで方言だぞ好敵手よ。
そのメールを不審に思ったがこのパターンは既に経験済である。
伊達に10年以上も前からの付き合いじゃないのだ。
しょうがないと諦めて手に持つ袋にはりんご。
注意・・毒りんごではない。白雪姫にはゴツ過ぎる。
真っ赤なリンゴを二つ持って、マンションの階段を登れば1分もしないで幼馴染の自宅に到着していた。
そして冒頭に回帰する。
いくらノックしても反応がないので、諦めて大きなため息とともにドアに手をかける。
カギもかけられてない他人の家に突撃晩御飯ですっ。
「しつれーしまーーーーす。たかーーーーーーー」
そう声を張り上げても反応なし、玄関の鍵を確認するついでに足元の惨状を元に戻す。
脱ぎっぱなしの靴が散乱してたからだ。他人の家なのにこんな事をしていいのかと自問自答しながらも一応リビングに行ってみれば、大きな背中を丸めたクマがいた。
「やっぱりかい・・・・」
呆れてものも言えない。 もう19歳だろうとイライラしたがそれでも静かなリビングに響く呼吸音の荒さに眉を顰めて私は静かにその背中に手を置いた。
「おーーーーい、孝之・・・生きてる?」
「・・・・む・り・・・」
「なんでリビングなのよ。風邪っぴきはベットで寝なさい。」
そう言ってやればうーーーんとうなって再び体を丸く丸めた、クマさんかっ冬眠は巣穴という名のベット
でしてくれっ!!
着ている服が普段着だから多分だが出かけ先で体調不良を起こして、そのまま帰って来たはいいが、一人では対処が難しいという事での救援要請だったという所だろう。
この救援要請は、10年前ぐらい前には当たり前になっていた。
母親が看護師で父親は単身赴任が多い職場。幼馴染の家庭環境はあまり良いとはいえなかった。
けしてあいつがないがしろにされている訳じゃないし、ちゃんといろんな行事には顔を出してくれる両親たちなのだろうが普段の好敵手は、きっと習い事で寂しさを紛らわせていたのだろうと今になって思う。
一人っ子のあいつと一人っ子のわたし。
「おーーい起きろっ」
そう肩を揺さぶっても反応はない。傍にあったブランケットと最強になっている電気ストーブ。
テーブルの上には、普通の家より数倍は大きな救急箱が開きっぱなしになっていた。
そこから体温計だけを取り出す。
丸くなった背から除く手を触ると僅かに冷たい。そして首元に手を当てると燃えるように熱かった。
もう一度手首をかりて脈拍を確認する。
30秒で68だから約一分で136と速め。
熱は測ってみないとわからないが、38℃は超えているだろう、これで節々の痛みがあればインフルエンザを疑うが眠ったままの相手に何もできない。
とにかく出来るだけの事をすると決めて動き出す。
頼る事を知らないあのバカの世話は私の役目。
例えば、お弁当を忘れた時も。
部活で使うテーピングを忘れた時も。
ピアノの楽譜を互いに交換する事も。
そうこれはいつものお約束だ。
幼馴染とは途に面倒なものだ、ストーブはそのままにブランケットをしっかりかぶせて、私が着て来た大きいサイズのカーディガンをその上からかぶせてエアコンの温度をさらに2度上げさせてもらう。
我が家と寸分変わらない間取りだから、そのままキッチンへと向かう。
他人の家の冷蔵庫を開けるのに罪悪感が半端ないがしょうがないと開けてみれば、流石はおば様・・・冷蔵庫も冷凍庫もまさかのレトルト三昧。
予想が出来ていたのでしょうがないと諦め、冷凍庫の中の冷凍米を取り出し、おかゆの準備をする。
プラスチック製の氷枕も取り出すと、そのままバスルームへ。
置いてあったバスタオルでそれを包んで。
これはお約束です・・・幼馴染っていいねっていうけど。
「孝之・・一回起きて・・・これ脇に挟んで」
そう言って揺するとやっとこさ起きて私を認識すると第一声はこれ。
「・・・・う・・・・りい?・・・お前なんでここにいんの?」
「インフルエンザ脳症か?・・・とにかくおはよう!」
「・・・うわマジかぁ・・・・さいあく」
「・・・・」
幼馴染っていいよねという友人いる。好きになったりしないのと言って来た子もいる・・・ロマンチックだとも王道だねとラブコメ風に言う人間に言いたい。
これがいいんですか?
みなさん・・・・。




