落ち武者は、進撃を恐れます。
暗闇は、人の本性を見る事に効果的である。
そう目の前の男のように・・・・。
「なぁ、梨桜お化け屋敷とはいえ暗過ぎねぇか?ここ」
「確かにね、で先輩は居た?」
「居ない、て言うか中身のお化けのジャンルのバラバラさ加減半端ないんだけど・・・なんで落ち武者が居る場所に包帯男なんだ、さっきの生首はわかるけど」
「いや最初のメデューサさんの登場からおかしいでしょうが、今更か!」
目的のデパートはすぐに見つかった。ただまさかの大盛況でお化け屋敷に入るまでに40分以上並んで、その間聞こえる他のお客さんの悲鳴は、はっきり言って笑い混じりである。
カップルも多いが子供連れの親御さんが号泣する子供をあやす姿は微笑ましい。
「あれは、お岩さんだろう?」
「髪の毛あんなに逆立てたお岩さんって嫌だなぁ」
互いが冷静な状況のお化け屋敷のなんとつまらない事だろう。
ほとんどが人形のお化け屋敷は、音が大きいだけで驚く事はあっても恐怖する事にはならない。
しかも二人で入ったはずが、2メートル以上離れている私たちに少ないお化け役の人は、どちらを怖がらせようと迷ってしまうらしいのだ。
さっきの包帯男さんは、がおーーーと2回叫んだのが喉にきたらしく咳き込んでいた。
「まぁ、パンフの通りならもうすぐ目的の墓だし・・・」
「たーかーにーしー」
孝之の左後ろから急に現れた手、名前を呼ぶ相手が落ち武者。
ここは気を使って叫んだ方がいいのだろうか、そう思いながらも落ち武者を凝視してしまったのは、孝之を思いっきり抱きしめた落ち武者が私よりも小さい武者だったからだ。
人選間違いも甚だしい、いや孝之が通常の男より大柄である事も問題なのだろうか。
さて、私こと月山梨桜は、身長168センチ。一般女性としてかなり高めの身長であることは自覚済みだ。
幼馴染の高西孝之は、188センチ。この身長を持ちながらこいつの趣味はテニスである。
現在私は、ちょっとおしゃれなミュールを履いているのでそのヒールが8センチ。
そんな私の前には頭一つ分低い落ち武者がコアラのように幼馴染に抱きついている光景が広がっていた。
「きゃー?」
良し、上手く悲鳴を上げられたと思う。語尾が疑問符であることは、ご愛嬌だろう。
「先輩・・・離してください」
「デカい・・・でかい・・・」
小さな落ち武者が恨めしそうにそう嘆く。
「なんの嫌味だっ!この進撃野郎っ!」
いや誰も進撃にも食べにも来てないから、しかもお化け屋敷に。
「女連れて来いって言ったの先輩です。」
「俺好みの子を連れて来いよ!主に140センチぐらいの女の子をっ!」
「知りませんよ。ほら行くぞ・・・梨桜。」
「いや、私先行ってるから、もう少しここで先輩の相手してろよ。進撃はお前に任せた。」
「ばーか、一緒に行く。」
そう言ってあいつは、どさくさに紛れて私の手を掴んで歩き出した。
ドキッとなんてしない。
だってこれはただの先輩から逃げる口実だから・・・。
しょうがない、小人武者から助けてやろうじゃないかと内心笑いながらそのままついて行く。
こいつは、10年前から変わらない。私の友達で好敵手だから助けてやるのは当たり前。




