負けてません、効いただけです。
箱の中身は・・・予想通りリングでした。
「うわぁ・・・」
「一応、誕生日はなんも出来なかったし」
宝石は付いてなかったがそれでもピンクゴールドのそれは、繊細な装飾を施されていた。
確かに綺麗だし、派手なものが好みじゃない私にはちょうどいいデザインだった、私を伺うように見つめる彼に私は、そっと息を吐いた。
「これ・・・高くなかった?」
「・・・無粋」
「うるさい・・・ありがとう」
そう言ってやれば満足気に笑うこいつに、何故か少しさびしさを覚えた。
本当にこれを受け取ることで本当に何かが変わるわけじゃないのに、彼はこれを選ぶのにどれだけの時間とお金を費やしたのだろうか。
「なんだよ、その顔・・・」
「えっ・・だって今日はあんたの誕生日だし」
私のカバンには好敵手のために選んだプレゼントが入ってる。少し高めの万年筆だ。
これからも使えるように考えて選んだのだがこれと比べると流石に霞む気がする。
「お前の祝えなかったから・・・だめか?」
あぁ、また子犬のような目をする。それでも私の好敵手ですかあなたはっ!
不安気に見つめられたら首を振るしかない。そっと箱を仕舞おうとすれば何故か手が差し出された。
返せってこと?
「えっ?」
いやそれはどうなのと思いながらその手に箱を渡すと指輪を取り出した。
「・・・・ほら」
なにがほらですかっ!ってそんな期待に満ちた目で見つめるなっ・・・ちょっとトキメイたわっ!
あれ・・・これもしかしてやばい。
「なに?」
「左手」
ですよね、これって。
言われるままに左手を差し出せば、真っ赤になった好敵手が私の左手小指に震える指で指輪を通した。
ピンキーリングだから・・・そう心で唱える。
「ちょっと大きいか?」
「えっ・・大丈夫」
確かに少しだけ緩いけど、気にするほどじゃない。そして自分の左手小指に嵌められた指輪は、レストランの淡い光に照らされて綺麗に光った。
「うん・・・いいな」
満足そうに笑う好敵手に私が複雑だ。
胸によぎるこの罪悪感、彼の本気に私は答えられないのだ。
「・・・ありがとう、孝之」
「おう」
「私もプレゼントあるんだけど・・・」
鞄を探って、しっかりと包装されたプレゼントを取り出す。指輪なんてもらった後だから出しにくくてしょうがないが、覚悟を決めてテーブルに置く。
「なに?」
「開けて・・」
箱の包装が少し乱暴に外され、箱が開けられた。
「ペン?・・万年筆かっ」
「最近じゃ、電子カルテが主流だけど、一本でもいい万年筆を持ってた方がいいと思って」
「サンキュ」
そう言って胸元にペンを差す好敵手は、やはりどこか物足りなげだ。
なんか負けたかもしれない・・・だってあっちは指輪でこちらはペン。
さて、どうする私。
「そういうの、気に入らなかった?」
「は?」
「いや、・・・やっぱりいらなかったかもって・・・」
相手の反応が薄いからではない、こいつは気に入らなければその場で口に出すタイプだから・・。
「ばーか・・・これ俺のためだろう?」
あぁ、そんな風に笑わないで、心臓が痛い。
ドキドキとうるさい鼓動を何とか悟られないように、心を落ち着かせるために水を飲む。
「っそうだけど・・」
社会人になればそれなりに必要になるだろうとそう思って渡したのだ。
「ならいい。」
満足そうにそして嬉しそうに胸元の万年筆を指で撫でるこの人は、私の好敵手?それとも・・・。




