嫌な予感は、あたります。
1週間に3回、メールが着ます。
内容は、≪Sub:会えるならメールくれ 本文:レポートどうにかなったから、いつでもいい。≫
いや、1か月半音信不通もねなかなか辛いけどさ、その後にこのメール攻撃は、いくらなんでも落差ありすぎです。好敵手。
そしてその攻撃に負けたのが本日・・・11月最初の日曜日です。
秋も終盤で色づく銀杏が黄色の絨毯をしいて道を飾る。
「お前って金かからない女だよな」
「・・・それって褒めてる?」
「一応」
現在自宅近くの公園でコーヒー片手にデート中です。茶菓子として私の手作り洋ナシタルトが既に2切れほど幼馴染のお腹に入ってます。
「映画で見たいものなんてないし、買い物っていっても本でしょ?」
「まぁ、」
「なら、ゆっくりしようよ・・でどう?今日のタルト」
「うまい」
「アーモンドの粉をたっぷり入れて君好みにしましたから」
昨夜焼いたタルトはちょっと工夫してある。
砂糖は、少なめにクッキー生地は、アーモンド粉を多めで香ばしさを出すために二度焼きまでした力作のタルト。洋ナシはちょっと高かったけどおいしく出来たらいい。
「さんきゅ」
おいしそうに3切れ食べ終えてあいつは、まだタッパを覗き込んだ。
いくらなんでもこれ以上は、と慌てて閉めてそれを持ってきた包みに入れその膝に乗せる。
「後は、明日にした方がいいと思うから」
「えっと・・・・くれるのか?」
「そりゃあ、あなたのために作ったからね」
私の好みは、焼いたタルトより生の果物がのせたものだ。
それにこんなに喜んで食べてくれる相手は、なかなかいない。
「ほんといい女」
「もっと言葉を選んで・・・らしいけど」
ロマンチストの中にたまに地が出てます。好敵手・・・。
「で、これからどうする?・・ゆっくりてどんな事?」
「っ!」
そういいながら、80センチ離れていた距離が20センチになっていた。
近いわっ!そう思った時に自然に距離を取る体。
「おい・・・いい加減に慣れろよ、なんで距離を保つんだ」
癖です、幼馴染の距離感を体がしっかり覚えてるのだ。そんな非難の目で見ないで下さい。
「すみません。」
それは突然だった。
「・・・・・なぁ、幼馴染には、もう戻れねぇぞ」
「えっ・・・・」
どうしてそれを、今・・あなたが言うの。
知ってるよ、わかってる・・だから、ほんの少しだけでもと私はここにいるのに。
見つめられたその瞳に、私が映っているのが見えた。
驚愕に染まる自分を私もまた見つめ返す。
風が吹いて、銀杏が舞う中二人っきり、外の喧噪を感じる事が出来ないほど、自分の心臓の音が大きく耳に響いた。
「そんな顔するなよ」
視線がそらされたことで心音がほんの少しだけ収まった。
「・・・・ばか」
そう言うしかできなかった。それ以外声にならなかった・・・だけど。
「逃げんなって言いたかっただけだから、そんな顔すんな」
ベンチから立ち上がったあいつが後ろに回る。そっと手が伸びて私を掴まえた。
11月だから肌寒いはずなのに、首と髪に感じる相手の息に、私は体中が熱くなった。
後ろから抱きしめられているとそう認識するまで数秒。
パニック状態に近い、さっき収まったはずの心音がまた暴れ出す。
「えっ・・・て・・あの・・」
決して初めてじゃない、抱きしめられたのも、抱きしめた事も数えるほどだけど確かにあるのに・・・。
シャンプーの香りと私の作った甘いケーキの香りにくらくらする。
「誰もいない」
知ってます。
11月なんて寒い時期にわざわざ公園でピクニックする酔狂を提案したのは、私です。
力が込められていって耳に掛かる息。
「たか・・・ゆき」
「今度までに、直せよ。 俺はお前の彼氏だ」
囁いた後に腕がそっと離れていく。
ロマンチスト、恐るべし。
振り返るのが怖かったから空を見上げる。秋空に浮かぶ雲が遠い・・・どこまでも遠い。
「今度って?」
「お前の誕生日は、ちょっと難しいな」
「知ってる。定期考査真っただ中にあるんだから気にしないの」
来月が私とそしてこの幼馴染の誕生月だ。
「俺の誕生日・・・空けとけよ?」
わぁ、なんか嫌な予感がします。幼馴染の誕生日は、まさかのクリスマスイブです。
「えっと・・・クリ・・・スマス?」
「そう、もう予約もしっかりしてるから・・・楽しみにしてろよ?出来ればちょっと着飾れよ」
何をする気ですか、好敵手!!!
クリスマスまでまだ1ヶ月以上あるのに予約済み。しかもドレスコード付きって・・・。
怖い、マジで怖いよ好敵手。どんだけの入れ込みなのよ誕生日っ!
神様っ、どうしてこの人をクリスマスに誕生させたのですかっ・・・・。
断るには一か月以上の間があって難しい。
ここが大勝負となる・・・。でもなんでしょうか、この嫌な感じは。
ロマンチストを舐めるなかれ。 敵はクリスマスにありっ!!




