ロマンチストは、私のせいです。
デコチューの後には何もなかったように笑って、あいつは、パソコンの前に座った。
なんでもない風を装っても無駄だぞ、好敵手。
耳が真っ赤です。
「後期で新しくとった教科が思ったよりもレポート提出が多くてな、それを作成するのに手間取ってたんだよ、最近。この間、去年受講してた先輩にお願したから去年のレポート見せてもらえるようにしたからもう大丈夫だとは思うんだけどな」
「そう・・・医学部って大変?」
「まぁな、でも1、2年で単位稼がねえとなぁ」
「そっか・・・」
こんな会話をしながらも私の思考は、現在別の事で全力で回っております。
なぜ私の幼馴染は、こんなにロマンチストなのかという問題について・・・。
いやだって
告白は、花火大会の中。
初デートは、夜景の綺麗な少しお高めのレストラン(予約済み)
彼女が不安だと言ったらまさかのデコチュー(赤面込み)
おい、本当にこの人は、私の好敵手様なのでしょうか、こんな事臆面もなく出来る日本人男子がこの世界にどれほど居る。
16年以上一緒にいるのにまさかの人種確認を現在真剣に検討中です。
ほぼ同じような環境に育ったのにこんな風に女の子に接するなんて知らなかった。
元々こいつの方が私よりもずっと恋愛経験が豊富な事は知ってる。無駄にモテるのは、身を持って知ってる。
ピアノや華道などの習い事で女の子には紳士にと言われて育っているし何よりも私以外への外面が無駄にいいのだ。
同級生だった元カノとか他にも二人ほど彼女らしい女の子を連れているのを見たことがあるがまさか彼女たちにも同じように接していたのかと思うと薄ら寒くなってきていた。
良し一回落ち着こう。
「もう、帰るね」
「もうか?」
「うん、レポート頑張って」
そう言って立ち上がり、私が部屋を出て玄関に向かえば、見送ってくれるらしくすぐ後ろから幼馴染がついてくる。
「じゃあ、タッパは食べ終わってからでいいから」
「おう、サンキュ。マジにうまかった。」
「ようございました。」
嬉しそうにそう言って笑う顔は、子供の頃のままなのになぁと思いながら靴を履くために屈んだ私の頭を再び優しい熱が撫でた。
「ちょ」
「不安になったら、また電話しろよ」
「ち、違うからっ!」
そう全力で否定しているのに、なんだその生暖かい視線は。
「・・・意地っ張り」
「喧しいわっ!」
決してこれは、負けじゃない、逃げでもないと心で念じて玄関の扉に手を伸ばせば後ろから声が掛けられた。
「梨桜、お前のそういう所・・・好きだよ」
聞きましたか、奥さん。こんなにストレートに言われたのは告白されて以来ですが、こんな恥ずかしいセリフ良くいった好敵手。
でもね、言われた側は、どう返したらいいのかさっぱりです。
アメリカ風なら投げキッスかな・・なんんてアホな思考が回るぐらいテンパりまくって、顔が熱くなります。
だれでもいいからこの無駄に明るい玄関の照明を消してくれ。 こんな顔をこいつに見られたくない。
「お前も照れるんだな」
だんだんとニセモノ説が有力となってきましたよ、好敵手。
「・・・うるさい」
ここは、戦略的撤退を急ごう。やっとドアノブをひねり扉を開け外に出た私が扉が閉まる瞬間に見たのは、あのニヤリという嫌な笑みを浮かべた好敵手でした。
これは、負けじゃないのよ。今回は戦略的偵察という事にしよう。
自宅に戻った私は、思考がとある可能性にふと行き当たった。
私の部屋にも、あいつと同じぐらいの大きさの本棚がある。その本棚を見た瞬間に思い出したのだ。
小中学生の頃、まだ本よりも漫画が好きだった頃の私は、少女マンガよりも少年マンガの方が好みだった。だが実際に買うのは、周囲の女の子たちと同じ少女マンガだったから読みたい少年マンガを幼馴染の家に借りに行っていたのだ。
その代わりに私の持っていた少女マンガを貸してた。(ものすごく迷惑そうに受け取ってたのをまだ覚えてる。)
もしかして、あいつは、それをちゃんと読んでたのではないだろうか。
少女マンガに書かれた理想の王子様、理想の彼氏。
恐ろしい事に気づいてしまったように感じて慌てて自分でその考えを振り払う。
ライバルがロマンチストってどうよ。
しかも原因は、まさかの自分。
これって、私のせいですか?好敵手。
2回戦は、引き分けって事でよろしく。




