1回戦は負けました。
あっという間に時間が経って、お昼ご飯は、いつものラーメンとなった。
これは、デートである。
重要なのでもう一度・・・今日は初デートです。
ラーメンを二人で食べて、しばらく文具店や雑貨屋さんを見て回り、最後に近くの本屋に入れば、それは楽しそうに本を選ぶ彼氏がいた。
彼氏ですよ、多分。
「欲しいのあった?」
「見つかった、でも番外編がない」
ずっと本棚を食い入るように見ている。漫画も文庫も文芸も好きな人だからしょうがないが、1時間以上ほって置かれると流石に寂しい。
だけどそれを素直に口に出せるほど私はかわいい女ではないのでそっとため息をついて傍を離れる。
これは長くなりそうだと経験上わかってしまったので本屋の横のエントランスにある椅子へ移動して自分が先に購入した漫画を読もうと決めた。
いつの間にか集中していたらしい。隣に誰かいるとわかった瞬間驚いてそちらを向けば、びっくり、いつの間にか彼氏さんが隣で優雅に本を読んでいらっしゃったらしい。
携帯を確認すると私がここで本を読み出して30分ほどが経っていた。
目的の本を買ったなら言ってくれればよかったのにと思いながら本を閉じて、相手を伺う。
だが彼も手元の本に夢中らしくこちらの視線に気づかない。
これがデートと言えるのか甚だ疑問だ。
5分ほど経ってやっとこちらを見たあいつが私を見て驚いたように本を勢いよく閉じた。
「いっ言えよ。びっくりした・・・」
それはこっちのセリフだと言い返そうかと思ったが彼の足元にある紙袋とそこから見えた数冊の分厚い本に私もあきれて何もいわなかった。
「こっちも・・それより、満足ですか?」
「あぁ、結構買ったけど多分電車の中で全部読み終わると思う」
通学時間2時間だからと笑いながら嬉しそうに重たそうな本を軽々持ち上げたその顔は、幼い頃のままだ。
「嬉しそうですね、よかった。じゃあ帰りますか?」
「えっ!」
かなり充実した時間だったけど流石に休みは、お休みにしてあげたかった。
大学以外の時間をほぼバイトに勤しむ勤労学生を連れまわすほど鬼畜でもないのでそう切り出せば何故か不満そうな声があがった。
「あれ?どこか行きたかったの?これから行く?」
「・・・今日・・暇だよな?」
「そうだけど、」
「ならもう少しだけいいか?」
不安そうにそう聞かれてしまえば頷かないわけにもいかない。歩き出した彼を追いかけて行けば、夏だからか午後の5時近いのにまだ日は明るい。
「で、どこ行くの?」
「お前のお気に入り」
「っえ・・・」
私のお気に入りとは、ここから少し先にあるイタリアンレストランの事だろうか。
一度も連れて行ってと言ったことはない、なぜってそこは、学生が行くには少し割高なのだ。だけど一度だけ入ってドルチェを頼んだ時にあまりにおいしかったから、それを話した事は、あった。
「場所知ってるの?」
「調べた、今日は、特別なっ・・・」
耳を真っ赤にしながら歩く幼馴染がちょっとかわいく思えた。
これは奢ってくれるという事なのだろう。
かっこいいとは言えないけど、一度しか話してない事を覚えていたこの男に不覚にもドキっとしたので、今日は負けを認めよう。




