最後の勝負しましょう。
初恋は、保育園の同級生。
次は、小学5年生で一目ぼれの調律師のお兄さん。
そして中学、先輩に出会った・・・。
高校は、女子高だったおかげで男と付き合うなんて事考えもしなかった。
まともな恋をしたことがなかった。
もう20歳になろうというのに、散々な恋愛偏差値だ。
そしてその原因の一つが幼馴染であり好敵手。
うろたえながら私の方へ来た男は、困ったように私を覗き込む。
容姿は、普通だと思う。スペックは、多分高いのだろう。
だがこの情けない表情の男こそ好敵手なのだ。
「おい・・マジで泣くなって・・」
好きという感情は、ある。
ただそれが恋愛感情によるものかというと多分違う。
だってあの時は、もっと・・・。
「ほら、」
ぐしゃぐしゃのハンカチをそっと渡すこいつに、私は、泣かされた。
そう・・・泣かされたのだ。
心がざわつき 一筋の光明というべきなにかが私の思考をよぎった・・・。
「ハンカチ・・もっときれいなのないの?」
「は?持ってたのを奇跡と思えよ」
「バーカ・・・泣いてないから」
自慢じゃないが、勝負事において泣いた事は今までに2回だけだ。
しかもそれは、全て理由があった。
「いや、誤魔化しようねぇくらい泣いてるけど?」
そっと髪を撫でる好敵手に私は、その手を払いのけた。
一瞬傷ついたような表情が見えた・・・。
こんな顔を見たくない。
だから、きっとこれは、私たちらしくないのだ。
これから告げる事は、世間では間違いでおかしい事だけど、何よりも私たちらしいだろう。
だからこそ・・・。
「ねぇ、勝負しよう・・・・」
「は?なんだよ急にっっ!!」
目の前の高い位置にあるその肩に手を置いて、背伸びした。
それでも届かないほど差が出来た私たち。
「負けない・・」
そう囁いて、そっと離れれば真っ赤になったあいつが私を見つめていた。
仕返しは、こんなものだろう。
「おい・・・」
「好きと嫌いの二つなら・・大好きなの、孝之。・・でもさ、あんたは、私をどうして彼女に選んだの? 傍になら友達でもいいじゃん、・・・それを変えたいなら私を変えてみてよ。」
「は?」
「・・・東京に一人暮らしするって言ってたの、たしか来年の7月だったよね?」
「えっまぁ・・っていうか・・・どうした急に」
さっきまでボロボロ泣いてた女が急に嬉しそうに告げる言葉を彼は、理解できないのだろう。
それでいい。今は、このまま勢いで押して押し切ってやる。
「7月まで、付き合おう・・・私たち。」
「ええええええええ!!」
「うるさい、響いてるよ。近所迷惑!」
「いやっ何、なに言ってんのお前」
「なんでしょうね・・・彼氏さん」
「はっ?いや・・俺・・振られた・・・んだよな」
戸惑う男のなんと情けない事か、でももう試合開始のゴングは鳴ったのだ。
「さて、どうだったでしょうか?」
「おいっ!」
「では、彼氏様、私はこれから帰ります!」
逃げるが勝ちという言葉を知ってますか?好敵手。
痛む足をおして颯爽と私は、自宅へ戻った。
きっとこれが最後の勝負。




