恋を知ってますか?好敵手。
地下駐車場には、私たち以外だれもいない。
そして逃げられる状況でもない。
「保留って、何時までだよ」
そう言って開けたままだった車のドアを勢いよく閉めた幼馴染。
ダンッとものすごい音が響いた。
「・・・」
声がでない、さっきまでの苛立ちも楽しかった雰囲気も全て消えてしまった。
怖い・・・。
「俺は、本気だって言ったよな・・・。これでも結構・・・ギリギリなんだよ」
保留という言葉に逃げたのは、私だ。
断る理由が『ライバルだから』という女の子にあるまじきものだったが、それでもこの保留には意味があった。
「・・・ごめん」
「・・・そのごめんは、どっちだよ。ダメって意味か?」
「・・・そう・・・」
「そうか、悪かった。・・・もういい・・・ありがとう」
まっすぐ見つめられてあんなに必死に聞いてきた人間に偽りは吐けない。
「・・・ねぇ、これでお別れ・・・?」
この男がどういう人間か知ってる。
私は、十年以上こいつと居て、こいつがどんな風に女の子と向き合うかも知っていたから・・・だから保留だったのに。
「あぁ、悪かった。」
肯定の応えに私はいつの間にか目の前が揺れていた。
幼馴染だから、一緒に居られた。ライバルだから競い合えた。
でも恋人に・・・彼女になれば、別れというものがついてくる。
目の前の男は、どこか潔癖な処があった。
自分が以前付き合っていた女の子とは、別れれば出来るだけ接触を避けたり、告白してくれた子も自分のまわりから遠ざけるような奴だった。
肯定の意味は、きっと私との別れを示していた。
心を占める喪失に、ついに耐えきれず零れた涙。
頬を伝う雫は、そのままコンクリートにいくつも染みを落とした。
「おい・・・なんで」
驚愕に染まる顔。突然に泣き出した私にあいつは動転して手にしていた応急キッドを落とした。
「なんで・・・じゃない。この・・・ばか」
止まらない涙を拭おうとしても、都合のいいハンカチなんてない。
薄く施された化粧がはがれおちても構わないと手で拭ってみても、涙は次々に溢れた。
「泣くなよ・・・俺が振られてんだぞ・・・」
そううろたえながら目を逸らしたあいつは、私を伺う。
「そうよ・・・でも、でも・・・」
「逆だろう・・」
「うるさ・・・い。」
勝手な奴だから、きっと私が泣いてる理由をきっと知らない。
私のライバルは、私より先に決めてしまう。
「そんなに嫌だったのかよ・・・」
今度は、あいつがうつむき震える声でそう嘆いた。
そう辛そうに言われてしまったら、反射的に応えていた。
「ち・・・がう・・・・・」
「・・じゃあなんで泣くの・・・」
「・・・」
これは、きっとわがままだ。告白は、受けられない。
それでも傍に居てほしいのだ。 離れるなんて嫌だった・・・友達のままで、ライバルのままで。
傍に居て。
そう言う事でどれだけこいつを苦しめるか知ってる。
私は、一度経験してしまった。
後輩のままで・・・ただ傍に・・一緒に居ただけ。
恋を知ってますか?好敵手・・・。




