胃袋は、完璧です。
連続投稿とまではいかないです。
「なぁ、飯食わねえ?」
あの日から6日経った。
私の前にいるのは幼馴染という名のライバルだ。
都内大学に通い始めて2年目だが、未だに片道2時間弱かけて自宅から通っているらしい。
今日は、金曜日。大学は違うのに、タイミングが合えば同じ電車に乗っていて同じ駅で降りる。
当たり前だ、同じマンションに住んでるのだから・・・・しかも上下階に。
「飯ねぇ・・・ファミレス?」
「でもいいし、ラーメンどう?」
「えーー、また?」
駅地下にあるオシャレなレストランなんて一度も誘われた事がない。大体はファミレスかお気に入りのラーメン店だ。
こっちもあっちもお財布事情が同じくらいなのだから、文句はない。
「またで悪いか、いいだろ。あと、この間の栄養学の続き教えろよ」
「栄養学についての話をしながら目の前のラーメン啜るってどんだけシュールな客なんだか。」
医大の2年である孝之は、大学の選択科目として栄養学を取っていた。私は、この栄養学という科目を1年生の時に選択科目として取っていたりしたので分からないところを教えてあげられる。
「気にし過ぎだよ、ほら行くぞ」
なんだかんだで結局ラーメンを食べに行ってしまう私も私だ。
「あんまり外食し過ぎると体に悪いよ、明日はバイトでしょ?」
来年から都内に一人暮らしをするためにバイト代をほぼ貯金して遊ぶ金もないとぼやいて居たのは6日前。
「あぁ、朝8時からな」
「無理しないで、勤労学生くん。このまま帰っておばさんのごはん食べた方が良くない?」
「居ない。」
「夜勤?」
「そう」
母親が看護師で、父親は転勤族な幼馴染の家は昔から息子は放任主義だ、ある時期なんて私の家に夕飯を食べに来ていた事もあったのだから。
「じゃあ、しょうがないか・・・」
「お前が作ってくれねぇの?」
「は?金曜の夜に何を言うか。」
何を隠そう私の趣味は、料理だ。趣味という名の中毒と友人は例えたが、それで正解だというぐらいに。
和・洋・中となんでも作れる、フランス料理は苦手分野だがそれでも作れないわけじゃない。
それでも何が悲しくて、金曜の夜に料理なのだ。買い物して、作って食べて片付けるなんて面倒な事誰がする。
趣味は楽しんでこそ。疲労困憊の体では何もおいしいものは作れない。
「家にくる?メールすれば今からなら一人分増えても大丈夫だろうし」
「いい、お前のじゃなきゃ意味ねぇから・・・」
そう言ってあいつは、歩き出す。
どういう意味だ、とそう言ってやりたかったがやめた。他意はないのだとわかってる。
だってこの幼馴染は、私のライバルだが私の料理のファンなのだから。
十年かけて胃袋は掴むどころか殴り倒してやった。
「ビタミン補給のために後で野菜ジュース奢るね、ありがたく飲みなさい」
「いらねぇよ、お前が飲め!」
「いやよ!嫌いだもん。」
「じゃあ人に勧めるなアホ」
くだらない言い合いは、4月の夜空に消えてしまった。




