勝負の時です!好敵手。
やっとコメディーらしくなりました。
朝7時、会場設営に駆り出されて30分。
数名のスタッフしかいない会場に響き渡ったのは、私の悲鳴でした。
「せんせーーーーーーーーいっ!」
「うるさい。」
「喧しい!あんたが来るなんて聞いてない!そしてサークルどうした!」
メールで会えないと言ったのは、お前だろう好敵手。誰でもいいウソだと言ってくれ。
「昨日に合宿は終わった。で今日からバイト」
「っ!」
そうだ、この男は現在バイトの鬼だ。来年から一人暮らしをするためにお金を貯めるために暇さえあればバイトに勤しむ勤労学生。
「普通のバイトより貰えるし、先生から電話で頼みこまれた・・・・で、お前は、今日出るのか?」
私が会場設営を手伝っていたのは、スタッフとして手伝う事で、発表会参加費を無料にしてもらったり、わずかだが報酬ももらえるからだ。
参加費は、会場手配に掛かるお金とピアノの搬送料や当日子供の勇姿を記録するためにプロの撮影スタッフを呼んでいるのでその方々への報酬と少ないスタッフへの報酬料金を加味して少し割高の一人1万2千円だ。
そのお金がタダになるし、スタッフ分の報酬が貰えるのだから例え朝6時起きでも我慢する。
「・・・出るよ、これでもトリですから。」
十年以上この教室に通った子供は、実力によって発表会のトリを飾る。
トリを取れれば一人前だ。まぁ、大トリが先生なので見劣りしない人間を選ぶというだけの話だが。
「俺が居ないからだろう?」
「ウザイッ!あんたが居なくても私がトリよ!」
「そうか?・・・じゃあなんで俺が呼ばれたか知ってる?」
嫌な予感しかしない・・・なんだそのいやにムカつく笑顔は・・。
悪人面にしか見えないぞ。
「し・・・知らない・・・」
「ショパンの幻想即興曲。あと・・・そうだなぁ、先生が楽譜を持ってきてくれれば、多分月光かな?」
この流れで曲名。そして先生が頼み込んだというなら。
「あんたが出るのっ!?」
「そういう事かな、まぁ、おまけみたいな感じか」
「っ・・・・せんせーーーーーーーい!」
発表会用に用意したヒールの低いパンプスは、演奏用なのだ。
だがこのパンプスの何よりもいいところは、全速力で走れる処だ。
7時なら、ピアノの搬入に駐車場に居ると言っていたと記憶している十年来の師の元へ私は、確認に行った。
そう逃げたのではない、確認だ。
15分後、なかなか見つからない先生をやっとエレベーターホールで見つけた私は、意気込んで聞いた。
「先生っ!高西と私っ・・・・どっちがトリなのっ!」
荒い息を整えながらそう切り出した私に先生は、楽しそうに笑っておっしゃった。
「そりゃあ、梨桜ちゃんよ!まぁ、聞いてみないとわからないけど」
「えっ・・・・」
なんですか、その不穏なお言葉は。
「だって一年前は、あの子の方が上手かったじゃない」
「っ・・・・」
うわぁーーーこんなにはっきり言われたの初めて。
「でも、一年も前に辞めて今じゃ気が向いた時にしか弾いてないって言う人間に負けたらダメよ!」
そうでした。おっとりとしたしゃべりとふんわりとした雰囲気を持つ我が師は、恐ろしくスパルタで熱血先生でした。
「っ・・・・はい。」
「後で聞かせて貰うって約束だから梨桜ちゃんもしっかり準備しておいてね。二人のを聞いてから決めるから」
エレベーターが閉まる瞬間、先生の目が本気でした。
そう、これこそが、私たちだっ!
さて、宣戦布告は、あちらから・・・、受けて立とうじゃないか!
この勝負!負けてなるものかっ!




