なんで居るのよ、好敵手。
私が通うピアノ教室は、一年に夏と冬の2度、発表会と称したコンクールが行われる。
この教室は、大手とは比べ物にならないほど規模は小さいが、その分集中して関東地区に教室が多い、現在生徒数1000人を超える。
そう1000人だ。この1000人の内三歳児から幼児クラスが100人ほど小学生が300人弱、中高大学生が400人、その他大人の生徒が200人ほどという内わけだ。
さてなぜ発表会と称したと銘打ったか、それは、この教室の代表者が関係している。
ここは、某音大の現理事長が代表取締役なのだ。
はっきり言えばこの教室は、人材発掘並びに育成所として利用されているのだ。3歳児からの英才教育、週2のペースで一回1時間のレッスン。
このご時世だ、スペシャリストを世界へというコンセプトとしてあげるこの教室に私も、そして幼馴染も通っていた。
過去形だ。・・・なぜってあのバカは、去年この教室を辞めた。
本人いわく、俺はピアニストには成れないという事だった。それは当たり前だろう、医大に受かっておいてピアニストを目指す人間がどこに居るのか知りたい。
これは、私にも言えることなのだが。
少し話がずれたが、とにかくこの発表会は、その理事長やその関係者が聞きに来るのだ。
ここまで言えば察しのいい人間ならわかるだろう。
開催が夏と冬の2度行われるのは、夏季の間に品定めして冬でその上達具合を確認し、優秀な子供には音大の推薦を勧めるというものだ。
才能を認められれば、もっと早いうちにお声がかかる。
卒業生の中にはプロとして活動している人間もいて、ある筋の人間には、憧れの教室だというのを知ったのは私が中学に上がる前だった。
とにかくプロの音楽家を目指すならこの発表会は、絶好のチャンスとなる。
選曲する曲は、自由。ただ主流はクラッシクだ、もっとも評価を受けやすいからだ。次にJポップ、アレンジの加えやすさと技術を見てもらいたい人に人気だ。
1000人の生徒の内、希望者のみが参加できる発表会の種類は、3つに分けられる。
まず三歳児や幼児コースの[リトルエンジェル]部門。
親御さんたちが純粋に子供の成長を見る場として楽しみにしてくれる発表会だ。
だがやはりなんと言っても3歳だ。まともな演奏が出来る子供は、少ない。一人で舞台に上がれるのは、5歳ぐらいからが精々だ。
子供は、数名を除いて集団発表となる。まぁ、お遊戯の延長と言っていい。
そして異常なまでの緊張感が漂う[エンジェル]部門。
中高生の参加者が緊張にのまれそうになりながら、この発表会に臨む。自分の将来が決まるかもしれないのだから、気合いの入り具合が、親御さんも含めて違う。
最後に、適度に力が抜けているがそれなりの腕前を持つ[ミューズ]部門。
誰かに聞いてもらいたいという自己表現に溢れた大学生、大人の発表会で、3つの中で一番平和な発表会となる。
さて毎年希望者のみのこの発表会は、スタッフの人手不足が問題となっている。
どんなに大きなホールを借りても一度に参加できる人数は、限られる。一回の開催で30人が精々だ。
一人8分程度の演奏時間としても4時間以上の時間が必要となる。午前午後の部と分けても一日に60人が限界だ。
しかも実は、ピアノを搬入できる会場は、少ない。
元々会場にあるピアノがちゃんと管理されていない事もあるので、ピアノを搬入できる施設というのはとても貴重だ。
希望者のみと最初に言ったが、小中高生のほとんどが参加してくれる。なので全体人数は、毎回700人ほどとなる。しかも子供たちのために発表会は、夏休み中に行われる。
会場を手配するのも一苦労だ、日程は12日間。その間、会場整備から始まり、お客様の案内係りや当日の駐車場案内をする係りに発表者誘導係り、演奏を撮影記録する業者さんを案内する係りなど・・・本当に多くのスタッフを必要とする。
そのスタッフの確保がままならないのだ、そんな時に活用されるのが、私だ。
ピアノ教室に通って16年。もう身内と認識されてしまっているのか、人手不足の時に必ず駆り出される。
「で・・・なんでここにいるのよ、孝之」
「先生に呼び出されたから・・・バイト。」
去年ピアノ教室を辞めた人間が何故居るのっ!
8月の終わり、有耶無耶大作戦失敗です。
私が悪いのでしょうか・・・。
コメディーはどこ?
次、次こそは・・・。




