偽物は、曲者です。
連続投稿です・・・。
先輩の突拍子もない提案にのってしまったのは、ただの気まぐれ。
須藤先輩ならいいかもしれないという妙な安心感があったからだ。
部活の先輩の中でも面倒見のいい人で、後輩や他の人がなにか困っていると率先して助けに入ってくれる。
副部長という立場もあったからだとは思う、それでも元からそういう性格なのだという事も大体察しがついていた。
それでもただいい人というわけじゃない。
練習中や部活中にあまり真剣にやっていない子がいれば、ただ頭ごなしに叱るのではなく、何気なく会話に交ざったと思えば、冗談を交えて嫌味なくらいすんなりと人の嫌な処を突いてくる。
顧問の先生からも頼りにされていて、部内の問題は、大体この人が治めていた。
『なんで先輩は、部長にならなかったんですか?』
そう聞いた後輩に。
『えっ・・・なんでって、問題が起きたら責任押し付けられるような役、だれがやりたいの?』
さらりとこう言う人だ。
だから、私は、この突拍子もない提案に乗ってしまった。
そして思いの外この『恋人ごっこ』は上手くいった。
1ヶ月もしないうちに私と須藤先輩が付き合っていることは、1年生たちの間に広まった。
私が広めたわけじゃない、先輩がわざとらしいまでの行動を起こしたからだ。
学校の帰りは、必ず一緒。どちらかに用事があれば片方が下駄箱で待ち合わせ。
それが1か月も続けばだれもが知る事になった。
そして私へのいじめと、呼び出しは、さっぱりきっぱり無くなった。
『ほんと女って単純だよね』
『先輩は、性格悪いですね。』
今日も部活終わりに中学生御用達の●ックで一緒にちょっと遅いおやつを食べる。
この人にとって気を遣わなくていい相手というのが私なのだろう。恋人ごっこは、続いている。
『知ってるよ・・・俺中二病だからさ』
『自覚あったんですか、知らなかった』
『あるよ、なかったら困るだろう?それよりまだ?』
『もうすぐです。それよりも、部費を勝手に使ってこんなに楽譜買っていいんですか?』
現在私は、先輩が買った数冊の楽譜をパートごとに色分け中だ。
『っていうか食べ終わったなら手伝ってください!』
『えーー俺、譜面読めないし』
『1年以上吹奏楽部に居てなんでっ!』
『俺パーカッション専門だから・・・いやぁ、良い後輩持ったなぁ』
『う・・・・・』
須藤先輩は、吹奏楽部に所属しながら担当はパーカッション。男子の圧倒的少ない吹奏楽部内で一番人気のないそれをこの人は嬉々として演奏している。
そしてなにより上手かった。部内一のリズム感を持つこの人を主軸に普段の演奏練習が行われるほどだ。
『先輩、一度聞いて見たかったんですけど』
『なに?俺のスリーサイズ?』
『それ、なんの役に立つんですか?・・・・そうじゃなくて、なんでこんな事しようと思ったんですか?』
本当に聞きたかった事は、別にある。
だけどこの人が真面目に応えてくれる理由がないと諦めている。
『そりゃあ・・・かわいい後輩が』
『うそつき』
『そうです。面白そうだから』
そうこの先輩こそ、部内一の曲者でした。




