ライバルのおかげで恋人ができました。(偽物の)
私がいじめられているところを目撃してたはいいが、観察だけしてた性格の悪い男。
最初の印象は、あまりよくない。
慰めの言葉もなく、ただ新しい楽譜だけは何も聞かずに渡してくれた先輩。
それから5か月。秋の文化祭が終わったある日、再び私は呼び出しを受けていた。
理由は相も変わらずだ。
文化祭の最後に行われる合同打ち上げ大会に私も、そして幼馴染の高西孝之も参加しない事に対する憂さ晴らし。
理由も同じだからたちが悪い。剣道の昇級試験が近いからその練習に出たいというものだった。
文化祭の1日目は金曜日、2日目は土曜日に開催されるので土曜に剣道場に通っていた私たちは、せめて夜の練習に入りたいと考えていたのだ。
孝之は特にだろう、初段を取るために今年中に必ず1級を取らないとと意気込んでいた。
私は未だ3級だ。この差は大きい・・・。負けたくないとかそういうレベルじゃないほどに。
だから、私は、今年を最後と思っていた。
今年2級が取れなければ、剣道は、きっぱりと諦めようとそう決めていたのに・・・現在再び体育館裏に居る。
今回は、相手の人数が増えていた。7人って・・・、幼馴染のどこがそんなにいいのだろうか。
確かに頭は、良い。むかつくが、私が成績で勝てる科目は現国と化学だけだ。他の特に苦手な英語なんて軽く20点差がある。
学年上位の成績、テニス部では新人戦で一人だけ地区大会準優勝。普段は、図書館で一人静かに本を読みふける・・・テンプレート的な奴だ。
顔は、普通だと私は思うけど・・・、身長は、中くらいだ。私よりも3センチは低い。
外面はそれなりだ・・・だけど中身は、負けず嫌いの意地っ張り。テニスだって私のお父さんが私とテニスをしているのを見て、やって見たいと挑戦して私にボロ負けしたのがきっかけだ。
現在隠された運動靴を捜索中。
『どーーーーこーーーーーだーーーー』
もう夕方も過ぎて夜になろうとする時間。部活の先輩に頼んで先に抜けさせてもらったのに、何の意味があったのだろうか。昇級試験の練習時間は、もうないだろう。
このまま上履きで帰る覚悟を決めて、校門へ向かった私を待っていたのは、先に帰っていいと送り出してくれた吹奏楽部副部長だった。
『どうした?またか?』
そう軽く言う先輩が・・・すごくムカついた。でもここで何か言ってしまったら八つ当たりだ。
わかってる。
元々受かる可能性の少ない試験で・・・練習時間も全然足らない。なによりライバルの孝之に負けたくないという一心で続けていた剣道は、去年昇級試験を受けられなかったおかげで心のどこかが折れてしまっていた。
『知ってるくせにっ・・・・』
『・・・そうか』
なにか・・・糸が切れた。
きっと先輩のせいだ。こんなタイミングで居るから、そんな風に笑うから。
『もう・・・ヤダ・・・』
熱くなる顔・・・きっと私はひどい顔をしてるだろう。我慢だ、泣くもんか。
『そうか・・・』
なにがそうかなんだとそう心で叫ぶけど、今は、泣かないようにするので精一杯だ。
『・・・幼馴染って・・・どう・・・やめ・・れます?』
震えそうになった声を、零れそうになった雫を抑えてそう・・・弱音を吐いていた。
『・・・』
応えを期待してたわけじゃない。なのに・・
『じゃあ、付き合ってみるか?』
『・・・・・へ?』
突然に告げられた提案は、予想をはるかに超えていた。




